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    108

    桜道明寺

    DONE藍渓鎮108話ネタバレ。
    建城 開け放しの窓から、身を切るような風が吹き込んでくる。
     戸口から、んじゃ行ってくる、という声が聞こえてくる。
    「よく学んでおいで」
     そう声をかけたが、もう出てしまったのか返事はない。
     窓の外を見る。重い雲が垂れ込めて、今にも降り出しそうだ。今年の夏は雨が多かった。そしてまだ秋の初めだと言うのに、木枯らしが吹き始めている。このままでは収穫にも影響が出るだろう。そのことに思い至って、申し訳ない気持ちになる。
     藍渓鎮に暮らす人々のために、暦通りの季節を運んでやりたい。だが雨は降り続き、それはいずれ雪になるだろう。どうしても晴れ間を生み出せない。数ヶ月前のあの日から、私の心は、ずっとこの空のように厚い雲に覆われてしまっている。空をすっきりと晴らせることができない。ここが私の霊域である以上、心に左右されるのは仕方のないことだが、私個人の鬱屈に人々を巻き込むわけにはいかない。皆には皆の生活がある。一度庇護したからには、日々の暮らしをつつがなく送らせてやらなければならない。そのことについて、私は長いこと思いを巡らせてきた。そして、ようやくその結論を出そうとしている。上手くいくかどうかは、半々といったところだ。反対する者も出るだろう。私に愛想を尽かす者も。
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