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    3月20日

    michiru_wr110

    DONEanzr
    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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    nekoruru_haya

    DONE #3月20日は松井江重文指定記念日 おめでとう。
    江のみんなでお祝いです。
    「松井ー」
    廊下を歩いていると聞き慣れた声に呼び止められる。声のする方、庭へと視線を巡らすと桑名が土だらけの手を振っていた。
    「今日は、いや今日もか……畑当番ではないよね」
    「当番かどうかは僕には関係無いんだけれども、――はい」
    「はい?」
    突然何かを押し付けられて途惑う間も無く受け取ってしまった。
    「え、何これ?」
    「苺。好きでしょ?」
    苺は好きだ。なんと云っても赤い。甘くて美味しいし。けれどこれは。
    赤色の小さな植木鉢に入った苺は確かに苺だけど苗だ。土に植わっている。緑の葉の陰から真っ赤な実が垂れ下がっていた。
    「今、赤いのは食べられるし、ちゃんと世話をしたらその後順番に実を付けていくよ」
    好きなだけ食べてね、なんて当然のことのように云うけど、出来れば摘んで実だけになったものを食べたい。だって僕がこの後ちゃんと育てられる保証がないじゃないか。
    「心配しなくても僕が面倒みるから。松井は食べるだけでいいよぉ」
    そうまで云われてしまっては押し返すことも出来なくなる。
    「……ありがとう」
    「じゃあ、またねぇ」
    大きく手を振りながら来た道を帰っていく桑名の背中を見送りながら僕は少し首を傾げた 2351