Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ue_no_yuka

    DONE
    立つ鳥跡を濁さず 上「仕事の関係で暫く留守にさせて頂きます。ゴメンなさい!」

    そう言って美鶴が出かけて行ってから二週間が経った。



    美鶴が鍜冶屋敷に住むようになって約三月が過ぎ、季節は秋真っ只中。この里の秋は短く、夏が終わったと思えば瞬く間に、深夜早朝は一桁の気温になる日々がやってくる。つかの間の天国に、虫の音や紅葉、秋の味覚を楽しむのがこの里の暮らしだ。
    鍜冶屋敷のある山も秋には豊富な食材に恵まれ、鷹山達の食卓もここ最近は彩り豊かだった。いつもは日の沈む頃には床に就く鷹山だったが、この時期だけは月を肴に縁側で晩酌するのが日課になっていた。麓で買ってきた地酒を飲むのも良かったが、美鶴が夏から仕込んでいた梅酒がこれまた絶品で、酒好きの鷹山は密かにかなり気に入っていた。その梅酒と美鶴が作った茗荷の浅漬けをつまみながら眺める月はひときわ美しく思えた。最初の頃は一人で盃を傾けていた鷹山だったが、最近は美鶴を誘って二人で晩酌することが多くなっていた。とはいえ美鶴は恐ろしく酒に弱く、鷹山の酒好きに付き合おうと無理に飲んで、目を離せばすぐに出来上がってしまうので、美鶴が潰れる度に鷹山は介抱するのが大変だった。弱いのに無理に付き合わせるのも悪いかと鷹山は思ったが、晩酌に誘われて嬉しそうににこにこしながら縁側に正座する美鶴の姿を見ていると、今日も介抱してやるかと絆されるのだった。
    3632