Mobuta_Mobu
DONE主シロのデートとしめのたい焼きの話。新宿駅で二人で食べたたい焼き、美味しかったね、シロウ……
たい焼き 賑やかな都会の土曜の夕方。まだ六時前だと言うのに真っ暗な街を歩く溢れんばかりの生命の中、サモナーとシロウは肩を並べて歩いていた。寒いね、などと言い合って、繋いだ手を二人の間で気まぐれに揺らしながら歩いていると突然サモナーが短く声を上げた。シロウはサモナーの視線の先を追いかける。
「たい焼きだよ、シロウ」
「本当だ。随分と人気なお店みたいだね」
大きい看板には可愛らしいたい焼きのイラストが描いてある。ただ肝心のたい焼きはずらりと並ぶ者たちの列の向こう側にあり見えない。
「しめに食べちゃう?」
しめ、とは言わずもがなデートのしめだ。期末試験も無事に終わり、もうすぐクリスマスと冬休みと年末年始と正月を控えた街中はどこもかしこも少し浮かれてるね、と話したのはつい数時間前。
1652「たい焼きだよ、シロウ」
「本当だ。随分と人気なお店みたいだね」
大きい看板には可愛らしいたい焼きのイラストが描いてある。ただ肝心のたい焼きはずらりと並ぶ者たちの列の向こう側にあり見えない。
「しめに食べちゃう?」
しめ、とは言わずもがなデートのしめだ。期末試験も無事に終わり、もうすぐクリスマスと冬休みと年末年始と正月を控えた街中はどこもかしこも少し浮かれてるね、と話したのはつい数時間前。
むつき
DONE放課後の主シロとエビルたちさみしがりや 端末の画面に指先を滑らせ、時間を確かめる。ゆっくり歩いて向かっても、約束の時間には間に合いそうだった。
「シロウ。俺はそろそろ」
机の前からゆっくりと立ち上がる。昨日の放課後、専門の業者が来てワックスをかけていったという教室の床はつやつやのつるつるだ。椅子を引く感触でさえ、いつもとは違っていた。
「寮の門限の前には戻るから。心配してくれなくても大丈夫だよ」
「俺はまだ何も言ってないぞ」
困ったように眉をしかめたシロウは、腰掛けたまま軽く腕組みをする。顔を見合わせ、同じタイミングでくすくすと笑いあった。
「じゃあまた夕飯の時に、食堂で……」
俺が言い終わるより先に、キイキイ! と元気な声がした。それに、足首の辺りにもちゃもちゃと何かがくっつく感触。とっさに確かめた足元には、なぜかエビルたちが押し寄せていた。
2265「シロウ。俺はそろそろ」
机の前からゆっくりと立ち上がる。昨日の放課後、専門の業者が来てワックスをかけていったという教室の床はつやつやのつるつるだ。椅子を引く感触でさえ、いつもとは違っていた。
「寮の門限の前には戻るから。心配してくれなくても大丈夫だよ」
「俺はまだ何も言ってないぞ」
困ったように眉をしかめたシロウは、腰掛けたまま軽く腕組みをする。顔を見合わせ、同じタイミングでくすくすと笑いあった。
「じゃあまた夕飯の時に、食堂で……」
俺が言い終わるより先に、キイキイ! と元気な声がした。それに、足首の辺りにもちゃもちゃと何かがくっつく感触。とっさに確かめた足元には、なぜかエビルたちが押し寄せていた。
むつき
DONEシロウ視点の主シロセーフハウスでお昼寝
仮眠 一時限目から眠たそうにしていた彼は、セーフハウスに上がるやいなや大きなあくびをした。ゆうべ、うまく眠れなかったのだそうだ。嫌な夢をみて夜中に飛び起きて、それから朝方まで寝つけなかったと言っていた。
どんな夢だったのか尋ねることは、もちろんできなかった。彼に、「嫌な」記憶を、無理やり思い出させてしまうような気がして。
「ちょっと眠った方がいいんじゃないか?」
ケンゴもリョウタも外に出ている。このあとギルド会議を行う予定だけれど、どうせ始められるようになるまで小一時間はかかるだろう。仮眠をとる時間くらいはありそうだった。
「寝てもいいなら寝たいけど……。でも、いいのかな」
「大丈夫さ。二人が戻ってきたら起こすよ」
2233どんな夢だったのか尋ねることは、もちろんできなかった。彼に、「嫌な」記憶を、無理やり思い出させてしまうような気がして。
「ちょっと眠った方がいいんじゃないか?」
ケンゴもリョウタも外に出ている。このあとギルド会議を行う予定だけれど、どうせ始められるようになるまで小一時間はかかるだろう。仮眠をとる時間くらいはありそうだった。
「寝てもいいなら寝たいけど……。でも、いいのかな」
「大丈夫さ。二人が戻ってきたら起こすよ」
むつき
DONE天然主4くん×どぎまぎシロウ「ふり」なんかできない 正面じゃなく、横から呼ばれて首をひねる。俺の顔を覗き込んでいた彼との距離は予想よりも遥かに近くて、思わず肩が跳ねた。慌てて距離を取ろうとするも、セーフハウスの壁際に座り込んで本を読んでいたのだ。壁に背中がぶつかって、どんと重い音を立てる。とっさに逃げられる場所なんてなかった。
「お、俺の顔に何か……」
「んーっとね」
俺の動揺には気づいてすらいないのか、リラックスしきっているらしい彼はふんわりした口調だった。俺の横へぺたりと座り込み、ますます顔を寄せてくる。興味津々といったように目を覗き込んでくる彼の瞳には、肩をこわばらせる俺の姿が映っていた。
鼓動がどくどくと鳴り響く。もっと顔が近付いてきて、唇が触れるだろうか。それとも、その前に手が伸ばされて、指を絡められるだろうか。ぴっとりと触れ合わされる感触、指と指のあいだをすべる皮膚の温度。
895「お、俺の顔に何か……」
「んーっとね」
俺の動揺には気づいてすらいないのか、リラックスしきっているらしい彼はふんわりした口調だった。俺の横へぺたりと座り込み、ますます顔を寄せてくる。興味津々といったように目を覗き込んでくる彼の瞳には、肩をこわばらせる俺の姿が映っていた。
鼓動がどくどくと鳴り響く。もっと顔が近付いてきて、唇が触れるだろうか。それとも、その前に手が伸ばされて、指を絡められるだろうか。ぴっとりと触れ合わされる感触、指と指のあいだをすべる皮膚の温度。
むつき
DONEエビルちゃんと主シロ通訳 きいきい、という小さな声がした。足元を見れば、そこに立って、椅子に座る俺を見上げていたのはエビルだった。すみれ色の、ぽってりしたボディ。シロウが連れている子たちの中でも活発な方の子だと記憶している。主の心配もよそに積極的に前に出ては自分の気になるものをまじまじ観察したり、興味深そうに触ったりしている姿は記憶に新しい。時にはびっくりするようなことも起きて――道ばたにいたカマキリをつつきに行って鎌を振り上げられたり、つまずいて派手に転んだり――そのたびにシロウの元へ慌てて飛んでいっては、よしよしと頭を撫でてもらっていた。
そんなエビルは言葉を操れない代わり、つぶらな瞳でじいっと人を見つめる。何かを要求するみたいに、俺に向かって両手を伸ばした。
1240そんなエビルは言葉を操れない代わり、つぶらな瞳でじいっと人を見つめる。何かを要求するみたいに、俺に向かって両手を伸ばした。
むつき
DONE両想い主シロシロウ視点
十七時三十八分 発車時刻三分前、急ぎ足で飛び込んだ車両にはまだいくらか空席があった。車両の中程に進むうち、二人掛けの座席が空いているのを見つける。
「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
2575「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
むつき
DONE放課後の甘酸っぱ両想い主シロ図書室にて「起立、礼」
淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
2025淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。