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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    シロウ視点の主シロ
    セーフハウスでお昼寝

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #シロウ
    #主シロ
    mainWhite

    仮眠 一時限目から眠たそうにしていた彼は、セーフハウスに上がるやいなや大きなあくびをした。ゆうべ、うまく眠れなかったのだそうだ。嫌な夢をみて夜中に飛び起きて、それから朝方まで寝つけなかったと言っていた。
     どんな夢だったのか尋ねることは、もちろんできなかった。彼に、「嫌な」記憶を、無理やり思い出させてしまうような気がして。
    「ちょっと眠った方がいいんじゃないか?」
     ケンゴもリョウタも外に出ている。このあとギルド会議を行う予定だけれど、どうせ始められるようになるまで小一時間はかかるだろう。仮眠をとる時間くらいはありそうだった。
    「寝てもいいなら寝たいけど……。でも、いいのかな」
    「大丈夫さ。二人が戻ってきたら起こすよ」
     とろんとした目をした彼は瞼をこすっている。眠たがっていてもフローリングに上がる前に脱いだ靴は丁寧に揃えられているのだ。要所要所できちんとしているところが、俺には好ましかった。
    「それなら……。悪いけど、頼んでもいいかな」
     消え入りそうな声をこぼすなり、彼は上体をことんと倒してその場へ横になった。つるつるの、ひんやりとしたフローリングの上に。
    「ああ、そのまま寝るのは待ってくれ。毛布があるんだ」
     板っぱりの床に寝るんじゃ背中や腰が痛くなってしまう。俺たちのセーフハウスがよりリラックスできる空間であるために、経費で調達しておいたものがあるのだ。とうとう出番がやってきたなと勇んで立ち上がった俺を前に、彼は困ったように首を振った。
    「シロウ。俺は大丈夫だから……。わざわざ悪いよ」
     どうやら俺に対して気を遣ってくれているらしい。優しい気持ちを嬉しく受け止めながら、でもそれに甘えてしまうつもりはないと、今度は俺が首を振った。
    「俺が君に、してあげたいんだ。そんな大したことはできないけど……」
     嫌な夢に悩む君の力になってあげることはできなかった。いつだってそばにいられるわけじゃない。でも今は、そばにいる。そうであるなら、俺は君に、できる限りのことをしてあげたい。
     決意を胸に、彼を見つめ返す。俺の意思が伝わったのか、彼はふっと表情をほどいた。
    「じゃあ、お願いするよ」
    「ああ!」
     部屋の奥、作りつけのクローゼットへと向かう。扉を開ければ、毛布はすぐ目につく所に置いてあった。淡いキャラメル色で、触り心地はふわふわだ。広げると柔軟剤の甘い香りが鼻先に漂う。それを感じ取ってか、彼は眠そうにしながらも微笑んだ。
    「ちゃんと洗濯もしてあるし、この前の休みにお日様を当ててあるから。清潔なはずだよ」
    「さすが。シロウはまめだね」
     ますますにっこりして褒めてくれる。
    「これくらい、当然のことさ」
     めがねを押し上げ、なんでもないというそぶりをしてみせる。でもどうしてだろう、彼が褒めてくれると素直に嬉しいのだった。
     半分に折り畳んだ毛布を、フローリングの床に広げる。
    「さ、ここへどうぞ」
    「うん。ありがと……」
     手で指し示せば、彼は子どものような素直さで毛布の上へ横になった。数度身じろぎをし、体を落ち着かせる。
    「ああ、学ランは脱いだ方がいいんじゃないか? しわができてしまうよ」
     シャツと違って、洗濯も容易じゃない。立ち上がってハンガーを探す。確か、どこかにあったはずなのだけど。そういえば、こういう時はコートかけもあった方が助かる。近いうちに購入する物の候補に加えておかなければ。
     きょろきょろする俺をよそに、彼は「大丈夫だよ」と声を上げた。
    「大丈夫。布団の代わりにするから」
    「布団? あっ、待ってくれ、もう一枚毛布を出してくるから……」
     敷くもののことにばかり気を取られていて、彼の体にかける方のことを忘れていた。慌ててクローゼットに向かおうとした時、名前を呼んで引き留められる。
    「シロウは優しいね」
     今にもまぶたが落ちそうなくらい眠いはずなのに、律儀にそんなことを伝えてくれる君の方が優しいよ、と。口に出すより先に、彼は言葉を続ける。
    「気にしないでいいよ。シロウもゆっくりしてて」
     いつもばたばたしてて、なかなか休めてないでしょ。そう言われると、頭から否定することもできなかった。よく言えば活気のある、悪く言えばあまり落ち着きのないギルドメンバーたちが揃っている。彼自身も、思考よりも行動が先になってしまうことが多々あった。
    「でも……」
    「じゃあ、シロウの学ランを貸してほしいな。……なんて、君が寒がっちゃうよね」
    「構わない。俺ので良ければ」
     外は穏やかに晴れていて、今日は元々暖かかった。加湿器もしっかりと稼働している。この部屋は適度な気温と湿度を閉じ込めて快適だ。
     彼に求められるまま、学ランの金ボタンを外し、腕から抜き取る。
    「どこにかければいい、かな」
    「あ、ちょっと待って」
     緩慢な動作で上体を起こした彼は、彼自身が脱いだばかりの学ランを腿の方へ押しやる。それから手を伸ばして、俺の学ランをそっと受け取った。
    「シロウのはこっち」
     胸に広げ、肩やお腹まですっぽりと覆ってしまう。目をつぶり、心から満足しているといったように微笑んだ。本当に屈託のない笑顔だった。
    「あったかい。それにいいにおいがする」
    「そうかな……」
    「そうだよ。あー、シロウから借りられて嬉しい……」
    「は、恥ずかしいことを言わないでくれ」
     俺自身の耳にも、その答えは随分と照れているように聞こえた。
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    DONE両想い主シロ
    シロウ視点
    十七時三十八分 発車時刻三分前、急ぎ足で飛び込んだ車両にはまだいくらか空席があった。車両の中程に進むうち、二人掛けの座席が空いているのを見つける。
    「座るかい?」
     夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
    「じゃあ、お言葉に甘えて」
     彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
     上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
    「本当に、お疲れさま」
     心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
    「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
     六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
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