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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    放課後の甘酸っぱ両想い主シロ

    #東京放課後サモナーズ
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    #放サモ
    #シロウ
    #主シロ
    mainWhite

    図書室にて「起立、礼」
     淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
    「シロウ。図書室に行くんだろ?」
     その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
    「俺もついていってもいい?」
    「ああ、もちろんだ」
     シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
     廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
     閲覧兼勉強用の、大きなテーブルの端に腰を下ろす。足早に小説の棚へ向かっていったシロウを見送ってから、ワークブックとノートを取り出す。宿題はなるべく早めに片付けておきたい性分だ。
     エアコンのきいた室内は温かくて快適だった。時々加湿器がタンクの水を飲んで、ごぽりと音を立てている。

     しばらくして向かいの席へ戻ってきたシロウは、ボリュームのありそうな本ばかりを山と抱えていた。またたくさん借りてきたなぁと思いつつ、宿題の続きに戻る。きっとシロウは、ものの数日でその本を読み切ってしまうだろう。もちろん宿題もちゃんとこなし、リョウタのスイーツショップめぐりのお供も務め、ケンゴの宿題も手伝い、自分とのお喋りにも楽しそうに興じながら。
     何問か黙々と解いたところで、そっと顔を上げた。シロウは貸し出し手続きを終えた本を横に積み上げ、そのうちの一冊をさっそく読み進めているらしい。文章を辿って瞳が小さな運動を見せている。まばたきをするたび、まつげがふわりと揺らされた。辺りがあんまり静かなせいで、ページをめくる、ぱらりという乾いた音がやけにくっきりと耳に届いた。
     気配を感じたのか、ふとシロウが顔を上げた。どうかしたのかい? というように首が小さく傾げられる。ここが教室だったら、「なんでもないよ」と言っただろうけれど、今は囁くのも憚られる。だから、たっぷり見つめ返してから首を振った。シロウは少しだけ不思議そうな顔をして、けれどまたすぐに読書の続きへと戻っていった。
     
     やがて五時を知らせるチャイムが鳴り響く。カウンターの方から、閉室の時間です、と図書委員が呼びかける声も手伝って、図書室に残っていた面々はがたがたと席を立っていく。
    「帰ろうか」
     シャープペンの芯をしまいながらシロウに声をかける。まだ心を文章の中に残しているらしいシロウは、惜しいように、けれどもしずかに本を閉じた。
     慌てたように貸し出し手続きに向かう生徒たちの横を抜け、廊下に出る。あとは寮に帰って宿題の続きをしながら夕食の時間が来るのを待つのが一日のルーティンだ。
    「シロウは本を読むのが好きだよね」
    「そうだな」
     例えば授業の合間の休み時間、シロウは自分の席にやってきて話しかけてくれることもあれば、彼自身の席で熱心に小説に読みふけっていることもある。寮の部屋へ遊びに行くと、肩や腿によじ登ったエビルたちを遊ばせながらしずかに本のページをめくる姿もよく目にしていた。
    「君は? さっきは宿題をしていたようだったが」
     自分の方から、図書室へ行こうと誘った。その割に棚の方も覗かなかったし本は借りなかったなと、シロウはそれを少し疑問に思っているようだった。
    「本……は、まあ読むかな」
     シロウほどたくさんじゃないけど、と付け足す。
    「ページいっぱいに並んだ文字を追うのは苦手じゃないし、面白い小説は好きだよ。……多分、昔から好きだったんじゃないかな」
     昔のことは、よく覚えていない。けれど、まだ読んだことのない小説を手に取った時のわくわくする感覚、めくるページの軽やかさ。そういうものは、妙に体に馴染んでいる気がしていた。
    「でも最近はさ」
     そこで一度言葉を切る。
    「本を読んでるシロウを見る方が好きだよ」
     シロウが図書室に行きたがるであろう日を見計らって声をかけたのは、宿題を解く手を何度も止めたのは、そういうことなのだった。
     シロウは返す言葉を持ち合わせなかったらしい。めがねのレンズの向こうに覗く瞳が丸く見開かれる。なんと答えていいのか分からなくて、それでも何かしらの反応は返さなくてはと思ったのか、口をぱくぱくさせる姿をシロウらしいと思った。律儀で誠実な、彼らしいと。
    「そういうところも好きだな」
     冗談めかして、でも本当の気持ちを付け足してしまえたのは、シロウも俺を好ましく思ってくれていると知っているからこそだった。向こうの両手が塞がっているのをいいことに、片手を伸ばしてシロウの頬をちょんとつつく。ひゃ、とうわずった声が上げられた。
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