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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    放課後の主シロとエビルたち

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #シロウ
    #主シロ
    mainWhite

    さみしがりや 端末の画面に指先を滑らせ、時間を確かめる。ゆっくり歩いて向かっても、約束の時間には間に合いそうだった。
    「シロウ。俺はそろそろ」
     机の前からゆっくりと立ち上がる。昨日の放課後、専門の業者が来てワックスをかけていったという教室の床はつやつやのつるつるだ。椅子を引く感触でさえ、いつもとは違っていた。
    「寮の門限の前には戻るから。心配してくれなくても大丈夫だよ」
    「俺はまだ何も言ってないぞ」
     困ったように眉をしかめたシロウは、腰掛けたまま軽く腕組みをする。顔を見合わせ、同じタイミングでくすくすと笑いあった。
    「じゃあまた夕飯の時に、食堂で……」
     俺が言い終わるより先に、キイキイ! と元気な声がした。それに、足首の辺りにもちゃもちゃと何かがくっつく感触。とっさに確かめた足元には、なぜかエビルたちが押し寄せていた。
    「わ! 危ない、踏んじゃうってば!」
     ちょっとでも動けば蹴ったり踏んづけたりしてしまいそうで、慌てて直立不動の姿勢を取る。何しろエビルたちは小さい。ひ弱とは言わないけれど、つま先が当たりでもしたらすぐにころんと転がってしまいそうだ。キィ! と鳴いてシロウに助けを求める姿が目に浮かんだ。
    「お前たち、落ち着いてくれ。いったいどうしたんだ?」
     シロウの制止も、エビルたちは意に介さなかった。俺の足首を掴んで引き留めようとし、俺の顔を見上げては何か言いたげにきぃきぃと声を上げる。なんだか悲しんでいるように見えた。悲しんで、何かを嫌がって、それをどうにかしようと必死になっているような。
     その中の一匹が、ひときわ大きな声を上げながら片手を持ち上げる。伸ばされた指の先にはシロウがいた。
    「シロウ? シロウがどうかしたの」
     俺やシロウと同じ言葉は喋れないエビルだけど、すごく真剣に身振り手振りをしてくれていることはよく分かる。こんなにも必死になって訴えているんだからよほどのことなんだろう。でも俺にはそれ以上分からなくて、当の本人に助けを求める。ぱちりと目が合ったシロウは、すぐに気まずそうな表情を浮かべてうつむいてしまった。
    「……みんな。俺のことはいいから。彼を困らせたらだめだ」
     エビルたちに向かってしずかに告げる。さっきとは打って変わった声のトーンに、さしものエビルたちも動きを止めた。
    「彼には彼の用事がある。それは仕方のないことだ。いつまでも俺と過ごせるわけじゃないのだから、聞き分けの悪いことを言ってはいけないよ」
     小さな子どもたちに伝えているのか、シロウ自身に言い聞かせているのか判断がつかない。シロウの横顔は、引き絞ったような切なさに包まれていた。
    「シロウ……」
     何か言わなくちゃ、と気が逸る。エビルたちを踏まないように気をつけながらもう一度椅子に腰を下ろし、シロウの横顔をじっと見つめた。
    「なるべく早く帰るから。宿題は頑張って夕飯の前に済ませるし……そしたら夕飯のあとに時間が作れるよね。談話室でもいいし、俺かシロウの部屋でもいいよ。たくさん喋ろう」
     いじらしく思い悩むシロウに、俺はどんな言葉を返せば良かったんだろう。正解は分からない。だけど今の俺のせいいっぱいの気持ちを、ゆっくりひとつずつ伝えたつもりだった。
     生真面目で頼りがいのある委員長。実は結構寂しがり屋で、俺のことを好いてくれている。それでいて一歩引いたところから物事を見る冷静さがあるし、あんまり我を出さないから、黙って自分の感情に蓋をしてしまう。それはある意味シロウの良さとも言えるのかもしれない。でも俺は、シロウにそんな我慢をしてほしくなかった。
     シロウはぐっと言い淀む。めがねのレンズの向こう、視線が落ち着かない。彼自身、何と答えていいのか分からなくて困っているみたいだった。
    「それじゃ、だめかな……」
     俺がシロウにあげられる、最善の答えはあれで良かったんだろうか。自信がなくて声がふらついた。
     二年生の教室棟は、運動場からも体育館からも遠い。沈黙が部屋の中を埋めていく。
    「……すまない。君にわがままを言ってしまった」
     こわばった空気をほどこうとしてくれたのはシロウだった。
    「俺のことは気にしないでくれ、と言ってしまえたら良かったんだが……」
    「良くなんかないよ」
     俺の即答にシロウは目を見開く。でもすぐに眉尻が下がって優しい顔つきになっていった。ゆっくりとまばたきをする。肩の力が抜けたんだと、一目で分かった。
    「君の気持ちに、甘えてしまってもいいかい」
     わがまま、というにはあまりにもささやかすぎる。でも確かに一歩こっちに踏み出して、甘えるようなことを言ってくれたのはきっとシロウの勇気だ。俺は張り切って頷く。
    「シロウに聞いてほしい話がいっぱいあるんだ。だからシロウも俺に、色々話してよ」
    「ああ。俺も、君を見ていると、君の前だと、いつもよりうんと言葉が湧き上がってくる」
     シロウの頬は高揚を映して赤く滲む。目を細め、小さくはにかんだ。そんな姿を見せるシロウに、手を伸ばしてしまいたかった。
     足元を見下ろせば、エビルたちはじっとその場に留まっていた。ごくりと息を飲み、真剣な様子で俺とシロウを見守っている。手を差し伸べ、一番近いところにいた子をそっと抱き上げた。
    「ごめんね、君たちのシロウの想いに気づけなくて……。これからはもっとシロウを大事にするから」
     エビルは胸を張り、奮然とした表情を浮かべる。それなら許してあげる、と言うみたいに、きい、と高い声が上がった。
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