weedspine
DOODLE許しにまつわる掌編その3。遺された子供二人。これにておしまい。わがままを言わせて書斎の扉をノックする音が響く。
バンジークスが入室を促すと、扉を開けて亜双義が入ってきた。
手に一冊の本を抱えている。
「こちら、お返しします。ありがとうございました」
部屋の奥、主人用のデスクに座るバンジークスの元までくると、その本を差し出し丁寧に礼を述べた。
「役に立っただろうか」
「ええ、とても。手書きの注釈は、貴公が?」
亜双義が検事を目指すと宣言した際、最初に渡されたのがこの本だった。
基礎となる知識が、比較的平易な言葉でまとめられている。
それでも出てくる専門用語や解釈の難しい一説などには必ず赤インキで注釈が添えられていた。
本文より分かりやすい解説であったり、凡例を用いて理解を促したり、
まるで暗い道の足元を照らすランタンのようなそれに導かれ、初歩を進み始めることができた。
1997バンジークスが入室を促すと、扉を開けて亜双義が入ってきた。
手に一冊の本を抱えている。
「こちら、お返しします。ありがとうございました」
部屋の奥、主人用のデスクに座るバンジークスの元までくると、その本を差し出し丁寧に礼を述べた。
「役に立っただろうか」
「ええ、とても。手書きの注釈は、貴公が?」
亜双義が検事を目指すと宣言した際、最初に渡されたのがこの本だった。
基礎となる知識が、比較的平易な言葉でまとめられている。
それでも出てくる専門用語や解釈の難しい一説などには必ず赤インキで注釈が添えられていた。
本文より分かりやすい解説であったり、凡例を用いて理解を促したり、
まるで暗い道の足元を照らすランタンのようなそれに導かれ、初歩を進み始めることができた。
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DOODLE許しにまつわる掌編その2。あの後、亜双義の処分ってどうなったんでしょうね?さいわい大英帝国の裁判所に、今日も木槌が鳴り響く。
検察席には亜双義が立ち、その補佐としてバンジークスが控えている。
審議は滞りなく進み、検察側の主張通りの罪状にて被告人は有罪となった。
これにて閉廷、という間際、被告人が叫んだ。
「なぜ私が、東洋の猿になど断罪されねばならんのだ!しかも前科者のくせに…」
憤るままの罵声が終わる前に、鋼鉄の踵が高らかに振り落とされたのは言うまでもない。
諸々の手続きを終え、二人は自分たちの執務室へと戻る。
検事局の廊下を進む間はお互い黙ったまま、すれ違った人々がみな関わり合いたくないと感じるような重い空気をまとっていた。
部屋に入り、鈍い音を立てて扉が閉まる。
それを待ちかねていたかのように、亜双義は笑い出した。
1484検察席には亜双義が立ち、その補佐としてバンジークスが控えている。
審議は滞りなく進み、検察側の主張通りの罪状にて被告人は有罪となった。
これにて閉廷、という間際、被告人が叫んだ。
「なぜ私が、東洋の猿になど断罪されねばならんのだ!しかも前科者のくせに…」
憤るままの罵声が終わる前に、鋼鉄の踵が高らかに振り落とされたのは言うまでもない。
諸々の手続きを終え、二人は自分たちの執務室へと戻る。
検事局の廊下を進む間はお互い黙ったまま、すれ違った人々がみな関わり合いたくないと感じるような重い空気をまとっていた。
部屋に入り、鈍い音を立てて扉が閉まる。
それを待ちかねていたかのように、亜双義は笑い出した。
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DOODLE亜双義が言った「許すことはできない」に触発されての掌編。汝、赦すなかれあなたがたが人を許すのは、許すほどのことが何もないからなのだ
G・K・チェスタトン マーン城の喪主 より
倫敦の街に鐘の音が降り注ぐ。
天を穿つような尖塔に挟まれた鐘楼は傾きかけた日差しをうけてまばゆい。
重厚で圧倒するような建築は、日本の神社仏閣とは規模が違う。
亜双義はこの国の教会を目にする度、自分が異教徒であることを痛感するのだった。
「人々は何を求めて教会に通うのだ?」
隣を行く師に問う。
本来、検事は事件の現場を調べる身ではない。
しかし異国の若人である亜双義が英国の裁判を扱うのに支障がないよう、
できるかぎりのものごとを実際に見せたいというバンジークスの思惑の元
2人は担当事件に関係する場所に赴くことが常であった。
1302G・K・チェスタトン マーン城の喪主 より
倫敦の街に鐘の音が降り注ぐ。
天を穿つような尖塔に挟まれた鐘楼は傾きかけた日差しをうけてまばゆい。
重厚で圧倒するような建築は、日本の神社仏閣とは規模が違う。
亜双義はこの国の教会を目にする度、自分が異教徒であることを痛感するのだった。
「人々は何を求めて教会に通うのだ?」
隣を行く師に問う。
本来、検事は事件の現場を調べる身ではない。
しかし異国の若人である亜双義が英国の裁判を扱うのに支障がないよう、
できるかぎりのものごとを実際に見せたいというバンジークスの思惑の元
2人は担当事件に関係する場所に赴くことが常であった。