みどりた//ウラリタ
DONE甥に淡い思いを抱く叔母秀信+七緒
『叔母と甥』上巻より
一茎のあふひ、色にいづ その兆候はあった。
でもそれもいつからあったものなのか、自分でもわからない。
東の空が白み始め、庭に面した戸一つ分だけの淡い光が部屋の一角を明るく染める。暗がりにはまだ灯が灯り、閨から現れた甥の道筋を表しているようだった。その甥からはほんの微かにぬるい香りがする。
「おはようございます、叔母上」
朝早くに目通りを願ってやってきたが秀信は嫌な顔ひとつせずに迎えてくれた。ただ早々の身支度だったらしく、話す彼の後ろで一人の侍女が髪を梳いている。細く長い指が栗皮色の海をたゆたうように泳ぎ、通ったあとは艶が残る。話を聞きながら、まだ朝日を知らない夜を残した髪を七緒は目の端で捉えていた。
「僕としては……」
伏し目がちに手を動かすその女性の肌は白く、髪はとても黒い。唇も薄めの紅がちょんとのっただけの控えめな飾り、素直に美人のくくりに入れられる人だと思った。
3612でもそれもいつからあったものなのか、自分でもわからない。
東の空が白み始め、庭に面した戸一つ分だけの淡い光が部屋の一角を明るく染める。暗がりにはまだ灯が灯り、閨から現れた甥の道筋を表しているようだった。その甥からはほんの微かにぬるい香りがする。
「おはようございます、叔母上」
朝早くに目通りを願ってやってきたが秀信は嫌な顔ひとつせずに迎えてくれた。ただ早々の身支度だったらしく、話す彼の後ろで一人の侍女が髪を梳いている。細く長い指が栗皮色の海をたゆたうように泳ぎ、通ったあとは艶が残る。話を聞きながら、まだ朝日を知らない夜を残した髪を七緒は目の端で捉えていた。
「僕としては……」
伏し目がちに手を動かすその女性の肌は白く、髪はとても黒い。唇も薄めの紅がちょんとのっただけの控えめな飾り、素直に美人のくくりに入れられる人だと思った。
みどりた//ウラリタ
DONE秀信+七緒『叔母と甥』上巻より
仲良くなりたい叔母と甥
叔母上は年上の甥にむすびの糸を使いたい!「秀信、ちょっといい?」
彼女が僕の視界に収まると、自然と笑みがこぼれる。二つに束ねた桜色の髪が軽やかに右へ、左へ。どうやら機嫌がいいらしい。
「ちょうど一息つこうと思っていました、叔母上もいかがですか?」
その言葉は嘘ではない。早朝から早駆けの知らせが来るなり話を聞き、ちょっとした軍議を開き、その後は文を書き、考えを書にまとめ、気づけは腹の虫が鳴いていた。腹の皮が目の皮がたるむ。伸びてきたあたたかな日差しに手を差し出したいと思考が逸れて、なおざりに字が揺らぐところだった。
控えていた侍女に目配せをし、叔母を縁側へ促すとその手には小さな赤い巾着が。その中身が「ちょっといい?」の内容なのか。口角を上げて待ちきれない様子はまだ年端のいかない頃の姿を思い起こさせる。
1743彼女が僕の視界に収まると、自然と笑みがこぼれる。二つに束ねた桜色の髪が軽やかに右へ、左へ。どうやら機嫌がいいらしい。
「ちょうど一息つこうと思っていました、叔母上もいかがですか?」
その言葉は嘘ではない。早朝から早駆けの知らせが来るなり話を聞き、ちょっとした軍議を開き、その後は文を書き、考えを書にまとめ、気づけは腹の虫が鳴いていた。腹の皮が目の皮がたるむ。伸びてきたあたたかな日差しに手を差し出したいと思考が逸れて、なおざりに字が揺らぐところだった。
控えていた侍女に目配せをし、叔母を縁側へ促すとその手には小さな赤い巾着が。その中身が「ちょっといい?」の内容なのか。口角を上げて待ちきれない様子はまだ年端のいかない頃の姿を思い起こさせる。
みどりた//ウラリタ
DONE秀信+七緒叔母を嗜める甥
『叔母と甥』上巻より
潤溽暑 ―うるおうてむしあつし―「にしても暑い!」
「七緒、はしたないからそれはやめなさい」
日課の怨霊退治を終えて帰城した七緒はうだるような暑さに耐えられず、侍女を下がらせたことをいいことに板間の冷たさをその頬で享受していた。そして寝そべる七緒だけを兄が嗜める。隣には同じように溶けた大和だっているはずなのに。
「タイツなんか履いて暑くねーの?」
「暑い……から脱ぐ」
「待って、待って、七緒待って」
仕方なしに一度部屋の奥へ引っ込み、熱を集めため込む黒い女子の鎧を剥ぎに行く。動きやすいしスカートの中身を気にしなくていいタイツはとても便利なのだが破れてしまったらどうしよう。一応、龍穴を通って家に戻った際にありったけの買い置きは持ってきたけれど有限だ。
2313「七緒、はしたないからそれはやめなさい」
日課の怨霊退治を終えて帰城した七緒はうだるような暑さに耐えられず、侍女を下がらせたことをいいことに板間の冷たさをその頬で享受していた。そして寝そべる七緒だけを兄が嗜める。隣には同じように溶けた大和だっているはずなのに。
「タイツなんか履いて暑くねーの?」
「暑い……から脱ぐ」
「待って、待って、七緒待って」
仕方なしに一度部屋の奥へ引っ込み、熱を集めため込む黒い女子の鎧を剥ぎに行く。動きやすいしスカートの中身を気にしなくていいタイツはとても便利なのだが破れてしまったらどうしよう。一応、龍穴を通って家に戻った際にありったけの買い置きは持ってきたけれど有限だ。
みどりた//ウラリタ
DONE『叔母と甥』上下巻より秀信+七緒
帰ってきた叔母を受け入れらるか悩む甥
パルシィに連載中の第9話付近、そのころの秀信は……。
ゲーム本編と若干違う点はありますが、秀信と再会を果たしていればネタバレはありません。
秀信+七緒 杞憂「龍神の神子が現れた?」
思わず筆をおいて報告に来た者の言葉を繰り替えした。
比叡の怨霊騒ぎを鎮めた娘がいるらしい。それも若く、年頃の娘。
怨霊を刺客として送り込まれる立場として怨霊を業から解き放つことのできる龍神の神子の再臨も、民の暮らしを思う城主の立場として静謐の世に不可欠な龍神の神子の再臨も真実であれば喜ばしいことではある。
誰にも聞こえぬように短く息を吐いた。
無駄とは分かっていても念のため人をやるように指示をして庭に身体を向けると、今年も桜が散り木瓜の赤い花が咲き始めているのが見て取れた。その赤をこの城で一人、幾度見てきたことだろう。
怨霊を鎮めた娘がいると聞けば人をやり、雨を降らせた舞手がいると聞けば人をやった。しかし今は隠れし龍神に選ばれた最後の神子、自身の叔母であるなお姫が見つかることはなかった。そして新しい神子が選ばれたとも伝え聞かない。
2325思わず筆をおいて報告に来た者の言葉を繰り替えした。
比叡の怨霊騒ぎを鎮めた娘がいるらしい。それも若く、年頃の娘。
怨霊を刺客として送り込まれる立場として怨霊を業から解き放つことのできる龍神の神子の再臨も、民の暮らしを思う城主の立場として静謐の世に不可欠な龍神の神子の再臨も真実であれば喜ばしいことではある。
誰にも聞こえぬように短く息を吐いた。
無駄とは分かっていても念のため人をやるように指示をして庭に身体を向けると、今年も桜が散り木瓜の赤い花が咲き始めているのが見て取れた。その赤をこの城で一人、幾度見てきたことだろう。
怨霊を鎮めた娘がいると聞けば人をやり、雨を降らせた舞手がいると聞けば人をやった。しかし今は隠れし龍神に選ばれた最後の神子、自身の叔母であるなお姫が見つかることはなかった。そして新しい神子が選ばれたとも伝え聞かない。
みどりた//ウラリタ
DONE死、転生、モブ、ギャグより?、捏造注意幸村エンディング後の七緒と幸村が五月、三成、秀信の三人に干渉するお話。なんでも許せる人向け
龍神の縁者 叔母上、あなたが日の本のために身を投じてから十二支が一周するほどの月日が経ちました。
昨年の戦の折、真田殿を無事お迎えできたご様子にこの秀信も安堵致しております。高野山からも変わらぬその神聖な御姿を拝見しておりました。あなたの慈雨はあたたかく、その御心は戦に関わる関わらないを問わず、すべからく人へと伝わったことでしょう。
思えばあの時、僕のこの生における役割も終わりを告げられたのでしょうね。「後のことは、僕に任せて」とあなた方を見上げる体は、どこも痛みを持ちえなかったのに。
高野山ではお祖父様のこともあり、ずいぶんな扱いを受けましたが覚悟の上でした。僕がこの世に生を受ける前の出来事ですから何も申し上げる気はございませんが、お祖父様の気性の荒さが蒔いた受難の種が、僕の代で芽吹くとは。正直に言うと、あれほど入山を待たされるとは思いませんでしたよ。
5172昨年の戦の折、真田殿を無事お迎えできたご様子にこの秀信も安堵致しております。高野山からも変わらぬその神聖な御姿を拝見しておりました。あなたの慈雨はあたたかく、その御心は戦に関わる関わらないを問わず、すべからく人へと伝わったことでしょう。
思えばあの時、僕のこの生における役割も終わりを告げられたのでしょうね。「後のことは、僕に任せて」とあなた方を見上げる体は、どこも痛みを持ちえなかったのに。
高野山ではお祖父様のこともあり、ずいぶんな扱いを受けましたが覚悟の上でした。僕がこの世に生を受ける前の出来事ですから何も申し上げる気はございませんが、お祖父様の気性の荒さが蒔いた受難の種が、僕の代で芽吹くとは。正直に言うと、あれほど入山を待たされるとは思いませんでしたよ。