浬-かいり-
DOODLEここみさ眠れない夜の訪問者 深夜、閉め切った窓の外からは何も音は聞こえない。それは家の中も同じで、既に寝静まった屋内から何かが聞こえて来る訳でもない。
ただ、一つの部屋は例外であった。電気を消して真っ暗になった部屋の中、ベッドの上の膨らんだ毛布が落ち着きなく動く。
ベッドで横になる奥沢美咲は、眉間に皺を寄せながら寝返りを打った。もぞもぞと落ち着く体勢を探して、見つからなくてまた寝返り。固く目を瞑っても、眠気が訪れる気配は一向に無い。
「んんんん……」
呻き声に近い声を上げながらのっそりと起き上がり、枕元に置いていたペットボトルの水を一口。ついでにスマホで画面を見てみれば、時刻は深夜2時を示していた。
なんだか、今夜はやけに寝付きが悪い。別に睡眠を取りすぎた訳でもない。普通に学校で授業を受けて、部活に参加して、バンドの練習をして、寧ろ身体は疲れているはずだった。それでも、目は冴えて脳は忙しなくぐるぐると回る。頭の中では新しい歌詞が浮かんではこれでは無いと消え、鼻唄が頭を過ってはそこへドラムやベースの音が足されていく。
2389ただ、一つの部屋は例外であった。電気を消して真っ暗になった部屋の中、ベッドの上の膨らんだ毛布が落ち着きなく動く。
ベッドで横になる奥沢美咲は、眉間に皺を寄せながら寝返りを打った。もぞもぞと落ち着く体勢を探して、見つからなくてまた寝返り。固く目を瞑っても、眠気が訪れる気配は一向に無い。
「んんんん……」
呻き声に近い声を上げながらのっそりと起き上がり、枕元に置いていたペットボトルの水を一口。ついでにスマホで画面を見てみれば、時刻は深夜2時を示していた。
なんだか、今夜はやけに寝付きが悪い。別に睡眠を取りすぎた訳でもない。普通に学校で授業を受けて、部活に参加して、バンドの練習をして、寧ろ身体は疲れているはずだった。それでも、目は冴えて脳は忙しなくぐるぐると回る。頭の中では新しい歌詞が浮かんではこれでは無いと消え、鼻唄が頭を過ってはそこへドラムやベースの音が足されていく。
浬-かいり-
DOODLEここみさ(※マフィアパロ)銃声は一度きり。 ぼんやりとしていた意識が突然覚醒する。身体中が痛い。顔が冷たくて寒くて、髪から滴る水と目の前に転がる空のバケツを視界に捉えて、顔に水を掛けられたのだと理解した。上手く動かない身体で冷静に状況を整理する。どうやら椅子に座らされた状態で、後ろ手に縛られているらしい。がっちりと背凭れに固定されている。
「起きたか。気絶には早いもんな?」
頭上から聞こえてきた声の主を見上げる。男のようだが、電灯の逆光で顔はよく見えない。暗い部屋で窓は無い。どうやら地下室のようだ。
そうだ、“仕事”の途中で敵勢力にかち合って口論になったんだ。いつもだったら安い挑発なんかには乗らないし、余計な争いも避けるのに。その時は一緒に居たはぐみにちょっかいを出してきたものだから、あたしもムキになってつい少しだけやり返してしまった。結果仲間を呼ばれて、この有様だ。はぐみは逃げられたかな。いや、人の心配をできるような状況じゃないんだけどさ。
2390「起きたか。気絶には早いもんな?」
頭上から聞こえてきた声の主を見上げる。男のようだが、電灯の逆光で顔はよく見えない。暗い部屋で窓は無い。どうやら地下室のようだ。
そうだ、“仕事”の途中で敵勢力にかち合って口論になったんだ。いつもだったら安い挑発なんかには乗らないし、余計な争いも避けるのに。その時は一緒に居たはぐみにちょっかいを出してきたものだから、あたしもムキになってつい少しだけやり返してしまった。結果仲間を呼ばれて、この有様だ。はぐみは逃げられたかな。いや、人の心配をできるような状況じゃないんだけどさ。
浬-かいり-
DOODLEここみさくるくる溶かして、ティータイム 「……っと。こんなもんか」
パソコンを閉じてから、背もたれに寄りかかって身体を伸ばす。今度デビューするというアイドルグループに提供する曲作りが、やっと一段落着いたところだ。まだ細かく直すところは沢山あるけれど、昨日の夜からずっと寝ずに作業していたし、今は少しくらい休んでもいいだろう。
ずっと装着していたヘッドフォンを外すと、木枯らしがガタガタと窓を揺らしていた。木の葉や枝が揺れる音が、閉め切っている部屋まで聞こえてくる。外は寒そうだ。
作業部屋を出てキッチンへ向かうと、点けっぱなしの電気ケトルを横目にマグカップを取り出す。食器棚から一緒に縦長の缶を出したところで、家のチャイムが軽快に鳴った。一旦マグカップと缶をテーブルに置き、インターホンのボタンを押した。
2406パソコンを閉じてから、背もたれに寄りかかって身体を伸ばす。今度デビューするというアイドルグループに提供する曲作りが、やっと一段落着いたところだ。まだ細かく直すところは沢山あるけれど、昨日の夜からずっと寝ずに作業していたし、今は少しくらい休んでもいいだろう。
ずっと装着していたヘッドフォンを外すと、木枯らしがガタガタと窓を揺らしていた。木の葉や枝が揺れる音が、閉め切っている部屋まで聞こえてくる。外は寒そうだ。
作業部屋を出てキッチンへ向かうと、点けっぱなしの電気ケトルを横目にマグカップを取り出す。食器棚から一緒に縦長の缶を出したところで、家のチャイムが軽快に鳴った。一旦マグカップと缶をテーブルに置き、インターホンのボタンを押した。
浬-かいり-
DOODLEここみさおひさまキラキラいい天気 窓から入ってくるお日様の光で、目を覚ます。
光は温かくて、キラキラしていて、今日がとっても素敵な一日になることを教えてくれているみたい。
早く外に出たい。今日はきっとよく晴れるはず。
すぐにでもベッドから飛び出したい気持ちだったけど、隣で眠る美咲のことを思い出してぐっと堪えた。
まだよく眠っている美咲は、昨日からお泊りに来てくれて、一緒に新しい曲を作っていた。それも昨日で完成したから、今日は沢山一緒に遊べるわね。
美咲はとってもお寝坊さん。ほっぺたをつついても、髪を梳くように撫でてもちっとも起きない。
このまま可愛らしい寝顔をずっと眺めてても良いけれど、今日はそれだけじゃ勿体ない。
早くしないと、今日が終わってしまうもの!
2476光は温かくて、キラキラしていて、今日がとっても素敵な一日になることを教えてくれているみたい。
早く外に出たい。今日はきっとよく晴れるはず。
すぐにでもベッドから飛び出したい気持ちだったけど、隣で眠る美咲のことを思い出してぐっと堪えた。
まだよく眠っている美咲は、昨日からお泊りに来てくれて、一緒に新しい曲を作っていた。それも昨日で完成したから、今日は沢山一緒に遊べるわね。
美咲はとってもお寝坊さん。ほっぺたをつついても、髪を梳くように撫でてもちっとも起きない。
このまま可愛らしい寝顔をずっと眺めてても良いけれど、今日はそれだけじゃ勿体ない。
早くしないと、今日が終わってしまうもの!
浬-かいり-
DOODLEここみさ聞いて聞いて「ミッシェル〜〜〜〜!!」
久々のミッシェルとしての練習日。休憩に入ったので控え室に一人向かおうとしたところで、後ろから抱き着かれた。犯人は、振り返らなくったって分かりきってる。
「なにかな〜? こころ?」
予想通り、振り向けば満面の笑みのこころが居た。嬉しそうな引っ付いてくる彼女は、何か用があるらしい。取り敢えず引き剥がしてから話を聞く。
「どうしたの? 何か用があるのかな?」
「ええ! あたしね、ミッシェルにとても大事な話があるの!」
話? 話ってなんだろう。他のメンバーにはそんなこと言ってなかった。ミッシェルだけにする、大事な話?
首を傾げれば手を引かれ、入ろうと思ってた控え室へそのまま誘導される。
2871久々のミッシェルとしての練習日。休憩に入ったので控え室に一人向かおうとしたところで、後ろから抱き着かれた。犯人は、振り返らなくったって分かりきってる。
「なにかな〜? こころ?」
予想通り、振り向けば満面の笑みのこころが居た。嬉しそうな引っ付いてくる彼女は、何か用があるらしい。取り敢えず引き剥がしてから話を聞く。
「どうしたの? 何か用があるのかな?」
「ええ! あたしね、ミッシェルにとても大事な話があるの!」
話? 話ってなんだろう。他のメンバーにはそんなこと言ってなかった。ミッシェルだけにする、大事な話?
首を傾げれば手を引かれ、入ろうと思ってた控え室へそのまま誘導される。
浬-かいり-
DOODLEここみさ・かおみさ世界一のお姫様になれるキミへ「ライブお疲れ様、みんな! とっても楽しかったわね!」
ライブ後の控え室で、満足げにこころは笑った。今回大成功に終わったスマイル号での船上ライブは、いつもと趣旨を変えてそれぞれがドレスアップしてのライブとなった。
正装し華やかで上品な雰囲気となったものの、結局曲が始まってしまえばいつもと変わらぬド派手なパフォーマンスで、いつものハロハピのライブと変わらなかったが。
「じゃあ、この後のパーティーも楽しみましょう!」
この後は、ライブの観客を交えて船内でパーティーが行われる。こころ達は、このドレスのまま参加予定だった。彼女自身も今は、真っ赤なドレスに身を包んでいる。いつものものよりも装飾が施された派手なものだ。
2355ライブ後の控え室で、満足げにこころは笑った。今回大成功に終わったスマイル号での船上ライブは、いつもと趣旨を変えてそれぞれがドレスアップしてのライブとなった。
正装し華やかで上品な雰囲気となったものの、結局曲が始まってしまえばいつもと変わらぬド派手なパフォーマンスで、いつものハロハピのライブと変わらなかったが。
「じゃあ、この後のパーティーも楽しみましょう!」
この後は、ライブの観客を交えて船内でパーティーが行われる。こころ達は、このドレスのまま参加予定だった。彼女自身も今は、真っ赤なドレスに身を包んでいる。いつものものよりも装飾が施された派手なものだ。
浬-かいり-
DOODLEここみさしあわせわけっこ 春先とは言え、まだ冷える日も多い。空気も乾燥している。その上部活で寒空の下に晒された日には、手のひらはカサカサに乾燥しきっていた。
スクールバッグを漁って、ハンドクリームを取り出す。薬用と書かれたシンプルなデザインのハンドクリームは、薬局で安く売られていたものだ。……女子高生が持つにしては、あまりにも飾りっ気が無いけれど。
「美咲ーーーーー!!」
蓋を開けたところで、遠くからよく知った声。振り向いて身構えれば、こころが勢いよく抱き着いてきた。ほぼ突進のそれをなんとか抱き留めると、ハンドクリームの蓋が地面に落ちた。
「美咲、部活お疲れ様!」
「ありがと、こころ。もしかして待っててくれてた?」
「美咲と一緒に帰ろうと思って待ってたの!」
1654スクールバッグを漁って、ハンドクリームを取り出す。薬用と書かれたシンプルなデザインのハンドクリームは、薬局で安く売られていたものだ。……女子高生が持つにしては、あまりにも飾りっ気が無いけれど。
「美咲ーーーーー!!」
蓋を開けたところで、遠くからよく知った声。振り向いて身構えれば、こころが勢いよく抱き着いてきた。ほぼ突進のそれをなんとか抱き留めると、ハンドクリームの蓋が地面に落ちた。
「美咲、部活お疲れ様!」
「ありがと、こころ。もしかして待っててくれてた?」
「美咲と一緒に帰ろうと思って待ってたの!」
浬-かいり-
DOODLEここみさ「キミと夜明けを迎えたら」と「夜明けを迎えた先」の間くらいのはなし それは、大学1年生の夏。夏休みに入ってすぐのことだった。
同じ学部の友人が、あたしから借りてそのまま返すのを忘れていた辞書を返したいからと、最寄りの駅まで出かけて行った。そんなすぐ済む用事にいちいち美咲を付き合わせてしまうのも悪いし、人が多い駅にもあまり連れて行きたくないから黒服さんを行かせようと思ったのだけど、「急に黒服さん来たら大学の人びっくりするって。少しくらい待てるから、こころが行きなよ」って言われてしまった。
それでも美咲を家に置いていくのは心配だったから、黒服さんの一人に付き添いをお願いした。
友人から辞書を受け取って、お礼に食事でも奢るから行かないかという申し出を丁寧に断って家路を急ぐ。途中、あたしに付いてきた黒服さんに呼び止められた。
2581同じ学部の友人が、あたしから借りてそのまま返すのを忘れていた辞書を返したいからと、最寄りの駅まで出かけて行った。そんなすぐ済む用事にいちいち美咲を付き合わせてしまうのも悪いし、人が多い駅にもあまり連れて行きたくないから黒服さんを行かせようと思ったのだけど、「急に黒服さん来たら大学の人びっくりするって。少しくらい待てるから、こころが行きなよ」って言われてしまった。
それでも美咲を家に置いていくのは心配だったから、黒服さんの一人に付き添いをお願いした。
友人から辞書を受け取って、お礼に食事でも奢るから行かないかという申し出を丁寧に断って家路を急ぐ。途中、あたしに付いてきた黒服さんに呼び止められた。
浬-かいり-
DOODLEここみさ夢だと思いたい 部屋に入ってくる太陽の光が眩し過ぎて目を開ける。頭が痛い。
自室のベッドで目覚めたあたしは欠伸を噛み殺した。眠い。やけに寒い。
(あれ、いつ帰ってきたんだっけ……)
昨日はスマイル遊園地でハロハピのライブがあった。成人した今も、こうしてたまにライブに呼んでもらえるのだから有り難いことだ。
ライブは大成功に終わり、その後メンバー五人で打ち上げに行ったのは覚えてる。
(その後……その後は……?)
「んぅ……、」
思考の最中、自分以外の声がしてびっくりして隣を見る。
あたしの隣ではこころが眠っていた。大人っぽくなった顔も、眠っているとあどけない。
(……いや、そうじゃなくて! なんでこころが此処で寝てるの!?)
1759自室のベッドで目覚めたあたしは欠伸を噛み殺した。眠い。やけに寒い。
(あれ、いつ帰ってきたんだっけ……)
昨日はスマイル遊園地でハロハピのライブがあった。成人した今も、こうしてたまにライブに呼んでもらえるのだから有り難いことだ。
ライブは大成功に終わり、その後メンバー五人で打ち上げに行ったのは覚えてる。
(その後……その後は……?)
「んぅ……、」
思考の最中、自分以外の声がしてびっくりして隣を見る。
あたしの隣ではこころが眠っていた。大人っぽくなった顔も、眠っているとあどけない。
(……いや、そうじゃなくて! なんでこころが此処で寝てるの!?)