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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    ここみさ(※マフィアパロ)

    #ガルパ
    galpa
    #ここみさ

    銃声は一度きり。 ぼんやりとしていた意識が突然覚醒する。身体中が痛い。顔が冷たくて寒くて、髪から滴る水と目の前に転がる空のバケツを視界に捉えて、顔に水を掛けられたのだと理解した。上手く動かない身体で冷静に状況を整理する。どうやら椅子に座らされた状態で、後ろ手に縛られているらしい。がっちりと背凭れに固定されている。


    「起きたか。気絶には早いもんな?」


     頭上から聞こえてきた声の主を見上げる。男のようだが、電灯の逆光で顔はよく見えない。暗い部屋で窓は無い。どうやら地下室のようだ。
     そうだ、“仕事”の途中で敵勢力にかち合って口論になったんだ。いつもだったら安い挑発なんかには乗らないし、余計な争いも避けるのに。その時は一緒に居たはぐみにちょっかいを出してきたものだから、あたしもムキになってつい少しだけやり返してしまった。結果仲間を呼ばれて、この有様だ。はぐみは逃げられたかな。いや、人の心配をできるような状況じゃないんだけどさ。


    「なんの話してたか覚えてるよな?」


     挑発するように、馬鹿にしたような口調で男が見下ろす。あたし達がつい最近取り上げた“おくすり”の保管場所だっけ? 取り上げたのはあたしだけど、もうあたしの管轄じゃないって言ったのにな。そもそもあたし達のナワバリで勝手にモノを売ってたのはそっちの方だ。


    「———ぜんっぜん、覚えてない」


     でもそれを全部言い返す気力は残ってなかったから、せめてものお返しに嗤ってやった。なんなら顔に唾でも吐いてやろうかと思ったけど、それはお行儀が悪いのでやめておいた。けれど、たったそれだけの煽りで男の逆鱗に触れたらしい。椅子を蹴り飛ばされ、あたしは椅子ごと床に転がった。


    「げほ、」

    「本当に腹立つよなぁお前は、クソ生意気」


     どーも、って咳き込みながら答えたら今度はお腹を蹴られた。痛い。喋らせる気ないでしょ、これ。


    「どうしても自分で喋れないのなら、そっちのボスに電話でもしてやろうか?」


     暴力は好きじゃないんだけどなぁ。痛いの嫌だし、痣になるし。あと痣作ると身内のうるさいのが———、


    「呼んだかしら?」


     聞き覚えのあり過ぎる呑気な声が聞こえて、ぎょっとして顔を上げる。椅子に縛られてる状態じゃ大して身体も起こせなかったけど、それでも誰が来たのかは確認できた。否、顔なんか見なくても大方予想は付いていた。


    「……こころ、」


     我らがボス、弦巻こころ張本人に違いなかった。本来だったら、こんなところに乗り込んでいい身分じゃない人。にこにことアホ面にも見える能天気な顔で、男とあたしを見据えている。
     どうやら男には、こころの顔は割れていなかったらしい。突然現れた彼女に戸惑っている。いや、あたしも戸惑ってるわけだけど。


    「誰だお前、見張りの奴らは何してたんだ?」

    「お外にいた人たち?」


     そんな人居たかしら? とこころは首を傾げた。あっ、成程。まあ大体想像は付く。黒服の人か、薫さん花音さん辺りが手を回したんだろう。
     そんなこころのふざけた態度が(本人は天然なんだろうけど)男は大層お気に召さなかったらしい。床に転がるあたしが縛られている椅子の背を、八つ当たりのように蹴っ飛ばす。身体がちょっとだけ吹っ飛んで、床に叩きつけられた。馬鹿力め。


    「美咲を迎えにきたの」

    「こいつを?」

    「っぎ、」


     頭を踏みつけられる。その瞬間、ずっと笑顔だったこころが真顔になった。纏う雰囲気が変わり、男があたしから足を退ける。こころがゆっくりと歩いて此方に近付いてくるのを、あたしも男も黙って見ることしかできない。


    「だから、そこを退いてくれるかしら?」


     綺麗すぎる微笑みを浮かべて、男へと銃口が向いた。





    「美咲、帰りましょう。立てる?」


     自由になった身体を起こせば、綺麗な手を差し伸べられる。その手を素直に取って立ち上がれば、身体中に激痛。ああもう、容赦なくやられた。
     そのまま手を引かれて、されるがまま歩き出す。怪我してるあたしを気遣ってか、こころの歩くペースはゆっくりだ。敵のアジトの中なのに、堂々と歩いてても誰にも会わない。静か過ぎて君が悪いくらいだ。どうやら徹底的にやってしまったらしい。ねえこれ、後始末誰がやるか知ってる? ……いや、まあ今回はあたしのせいだし文句言わずにやるけどさ。
     それよりも、そう。もっと言わなくちゃいけない文句があるんだ、あたしには。


    「……一人で乗り込んで来るなんてばかじゃないの」

    「そうかしら?」

    「そうだよ」

    「でもみんなと来たのよ。途中までは」

    「それでもだよ! というかみんなで来るのもどっちにしろ目立つし面倒事になるし駄目! しかもあんた自分の立場分かってる? ボスだよ! あたしみたいな下っ端、こういう時は切り捨てて———、」

    「美咲」


     説教じみたあたしの文句を黙って聞いていたこころだったけど、途中で言葉を遮って静かに名前を呼ぶ。それを合図に、あたしは続きを何も言えなくなってしまった。
     分かってるさ。“切り捨てる”なんて選択肢、このボスの中には無いってことくらい。


    「あたしが聞きたいのは、そんなことじゃないの」


     それも分かってる。あたしが、本当だったら一番最初に言わなきゃいけない言葉。
     立ち止まって振り返るこころの目を見つめて、たっぷりと間を空けてから。


    「……助けてくれて、ありがとう」

    「……ええ! どういたしまして!」


     小さな声でお礼を告げれば、こころの顔がぱっと輝いた。やっぱり彼女には敵わない。
     さて、今度は傷のことを色々言われるだろうから。ゆっくり歩いてアジトの外へと向かう間に、それに対する言い訳でも考えますか。
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