キスマーク 乱凪砂 凪砂くんはキスマークを付けたがる。見えるところはダメって言うのに首元につけたがるから、いつも私は困っている。どうやらドラマか何かでキスマークというものを知って調べたらしい。
どうしてそんなに付けたいのと聞いたら「君は私のもの、という印」なんて独占欲を出してきて、満足気に言う彼を見ると何も言えなかった。
せめて見えないところにしてねと言うと承諾してくれたが、見えないところであればいつでもどこでもつけて良いわけではないのに、たくさん付けては嬉しそうに抱きしめてくる。そんな彼が愛おしくて仕方なかった。
「凪砂くん、キスマーク上手になってきたね」
「……うん。慣れかな」
最初はなかなか跡が残らず、頑張っているのを見て可愛いと思っていたのに、今では余裕な表情でキスマークをつける凪砂くんにドキドキする。
「私もつけられるかな」
そう呟いた途端、彼がパッと顔を上げて私の顔を見る。彼は私の言葉を逃さなかった。
しばらく固まったあと、声をかけようとするとそれは遮られた。
「つけないの?」
「え?」
「……君に、つけてほしい」
髪を避けて首元を曝け出したかと思えば、私に近づいた。
私がなかなかうまくつけられずにいると、「お仕置き」と言って私にまたキスマークを一つつける。
胸元に赤く咲いていくキスマークが肌の色なんて気にならないほど増えていく。
「凪砂くん、つけれないよ」
「ダメ」
つけられずにいるのに、諦めることを彼は許してくれない。このままでは胸元では飽き足らず首にもつけてくるのではないか、それは後々困る。そう思った私は必死に彼の首元に強く唇を押しあてた。
「……あ、ついたよ! 凪砂くん」
やっとの思いでキスマークがつき、ホッとしていると、彼の声が聞こえなかった。どうしたのだろうと恐る恐る顔を見上げると、彼が嬉しそうに、そして愛おしそうに頬を染めて、私がつけたキスマークを眺めていた。
あぁ、たまには私からつけるのも良いな。私の胸元に咲いた花は、私の心が満たされていくことを物語っていた。