水族館デート!!「水族館を視察したい・・・?」
アスランはカガリからの提案にぎょっとした。最近は真面目に仕事をこなし、代表として貫禄がついて来たと思えばこれだ。
そこでアスランはピンっと来た。直感だった。
「キラだな・・・?」
「よく判ったな・・・さすが幼馴染!!」
「アイツらしいとは思うよ。で、視察にかこつけてデートするのが目的か?」
「そうだ!!」
キラとカガリの双子は付き合っている。が、堂々とデートするわけにもいかない。かと言って邸宅でのデートばかりでは詰まらないとでも思ったのだろう。
アスランはため息を吐いた。カガリはさも当然と言わんばかりに手を差し出した。
「ついて来い!!アスラン!!!」
「・・・薮蛇もいい所だぞ?」
「どうせ護衛はつくんだ。お前が一番頼りになるしな」
「・・・はいはい、判ったよ」
カップルに巻き込まれる羽目になったアスランはやれやれと空を仰いだ。
そこには青い空しかなくて、見える筈のない存在を確かめているかのようだった。
「ってことでオーブに行って来るね♪」
「そうですか・・・楽しそうですね」
キラの元に訪れたラクスはそんな話を聞かされた。
「って言っても深海魚は見慣れてるんだけど」
「まあ、そうですわね」
クスクスと笑い合う。戦時中AAが潜水モードだった時期に見飽きるくらいに見ている。
今回の目的はイルカやペンギンやアザラシなどの海洋生物や、水浅の魚たちである。
キラはラクスをじーっと見つめて聞く。
「本当に、ラクスは行かなくていいの?」
「私が行かない方が、護衛する人間が少なくて済みますもの」
ラクスが呟く言葉に、ピンっと来たキラがニッコリと微笑みかけた。
正しくボディガードである彼の身を案じての言葉だ。
「・・・相思相愛だね」
「キラ!!!」
少し怒ったように顔を赤くするラクスなど見れたものじゃない。
「アスランの事・・・お願いします」
「・・・判ってます。今度こそ、逃がさないつもりですから」
そう言うとラクスは火照らせた顔を隠しながらハロと共に出て行った。
キラはくるくるとペンを回すと、すぐに仕事にとりかかった。終わらせない事には出かけられない。
お忍びで・・・という条件の元、互いに私服姿である。
キラはTシャツにハーフパンツ姿。カガリも半袖に短パン姿だった。カガリの艶めかしい足が露わになってドキドキする。
アスランは長袖の上着に銃を隠しながら付いて来た。二人の恰好に一抹の不安を覚えたが・・・明らかに武器の携帯がなさそうに見える。(背後にはまだ複数の護衛が付いている)
「キラ・・・せめて銃くらい持ち歩け」
「余計に目立つよ!!僕らの全幅の信頼はアスランにかかってるんだ・・・」
「そーゆーことだ!!諦めろ」
「・・・・・覚えてろ」
ボソっと呟くアスランの一言に双子は肝を冷やしたが、気を取り直してデートに勤しむことにした。
魚たちが泳ぐホールに出る。色とりどりの小魚や大きなエイや亀なんてのも泳いでいる。二人は目を輝かせながら見つめた。
「わーどれが食べれるんだろうね?」
「・・・言うと思った」
「どれが美味しいのか聞いてみるか?」
「カガリまで・・・お前ら何しに来たんだ」
「この後、海鮮丼食べに行こうよ!!!」
「そうだな!!」
「情緒がないな!!!」
ツッコミを入れるのに必死になるアスラン・ザラ。
「次はイルカのショーをやるみたいだよ!」
「可愛いよな」
「・・・俺も付いて行くのか?」
「当たり前じゃない」
「来ないのか?」
イルカのショーでは、イルカが飛び跳ねて水を観客にかけていた。合図と同時にビニールを被る。キラとカガリは一緒になってキャッキャとイルカショーを楽しんだようだった。
二人は気が付くと手を繋いでイチャイチャしており、まるでカップルの様相を呈している。
マズイ・・・これはマズイ、と思って護衛たちを振り返ると皆涙を拭って見守っていた。
「・・・どう、されたんですか?」
「いえ・・・その、代表が若者のようにあんなにはしゃいで・・・と思ったら」
恐る恐る聞いてみるとそんな答えが返って来た。確かに、普通の女の子に見える。あれが国を背負う代表だなんて思う人間も居なかろう。
「それに・・・アスラン殿も活き活きしてらっしゃる」
「そう・・・ですか」
少し羽目を外しすぎたかもしれない。気を引き締めようと思ったら、キラから「アスラーン」と呼ばれた。
行ってみれば、アザラシとの写真撮影をしている所だった。キラとカガリの前にアザラシが寝転がりポーズを取っている。
「アスランも混ざろうよ!!」
「いや・・・俺は・・・」
「命令するぞ?」
「・・・脅しだろそれは?!」
周りにいる護衛たちに任せるとアスランもキラとカガリと一緒にアザラシとの写真を撮った。
キラがニッコリニッコリ笑っているので嫌な予感がしたが、まあいいか、と思った。
水族館の中の深海魚コーナーに来ると、辺りが急に薄暗くなる。キラはカガリの手を引いてしゃがみこんだ。アスランが何かあったのかと覗き込む。
「アスラン・・・ゴメン、ちょっと上着で隠して」
「・・・もしかして・・・」
「?」
口づけの音が鳴った気がした。アスランは顔を背けながら、なんでこんな目に、と己の身を呪う。
他の護衛たちが駆け寄ってくる前に、すらっとキラは立ち上がる。カガリは未だ顔が真っ赤だった。アスランは目が座っている。
「さ、行こうか?」
「・・・あ、ああ・・・」
「・・・もう無いよな?」
「ありがとう、アスラン」
「・・・サンキューな」
「礼が欲しいわけじゃない・・・!!!」
見せつけられたアスランとしては堪った物じゃないと思うが、二人は手を繋いで歩き出した。
お土産コーナーでキラはペンギンのぬいぐるみを買ってカガリに贈った。抱き枕にしよう・・・と思うカガリだった。
帰り道そのペンギンの手を繋いで、二人が微笑み合いながら歩くのをアスランと護衛たちは眩く見ていた。
明日からはまた国家の代表としてキビキビ働くだろうカガリやキラに、こんな安息の日があっても良いんじゃないかと思った。
「楽しかったようで何よりですわ」
ふんわりとラクスは笑った。そのラクスの鼻先に、キラは小さな小袋を差し出した。
「お土産」
「嬉しいです・・・なんでしょうか」
袋を開けて、ラクスは嬉しそうに手の平に乗せた。
そして自分の首の後ろに手を回すとそれを付けて見せた
「地球で見た、月みたいですわね」
「・・・そうだね」
「アスランに、見せて来ます」
「うん、喜ぶよ」
金色のイルカのネックレスがラクスの胸元で弾んでいた。
あとであざらしとアスランと撮った写真も見せたいな、と思うキラだった。