罠チョコぼんやりとした視界から覚めて、キラは真っ先に辺りを見回した。
散らばっている衣服がいっそ清々しい。ベッドの中にいる。全身真っ赤に染まった。自然、隣に居る存在を揺さぶって起こした。何が起きたのかパニックだ。
「……ん?キラ……起きたのか?」
「『起きたのか?』じゃないよ!!!なんだったの?昨日おかしかったよ?」
「……昨日?」
「アスラン覚えてないの?」
「いや、薄っすらとは覚えてるが………なんだったんだろうな?」
昨日はバレンタインで、キラは自分で買って来たチョコレートをほくほくで食べた。
アスランも同じチョコレートを食べた筈だった。
そこから記憶がハッキリとしない。いや、して欲しくない。思い出したら恥ずかしくてキラは顔を隠して思わず「わーーーーー!!!」っと声を上げた。
「………キラ、このチョコレート……『コーディネイターは食べたらダメ!』って書いてあるが?」
「え?!……し、知らない!」
「一種の誘惑作用があるのかもな……まあ、俺たちだけで済んで良かった」
アスランが毛布を引っ張って立ち上がろうとするので、白い引き締まった体躯を見てしまい、昨日の事を薄ぼんやりと思い出して、キラが悲鳴を上げる。
「……ど、どうした?」
「アスランは平気なの?」
「………どういう意味だ?身体に負担がかかったのはお前の方だと思うが?」
心配そうに覗き込んで来るアスランの緑色の瞳に、ついそっぽを向いてしまう。
キラキラ眩しいその目を見たら、全部白状してしまいそうになるからだ。
「キラ……何か隠してる?」
「そんな事は…!!!」
「あと二粒だけ残ってるんだよな?食べさせようか?」
「う………」
だって言えない。アスランを誘惑するために買ってきた、だなんて。
何時までも煮え切らない関係にピリオドを打ちたくて。
自分で買った毒を自分で飲んで君を誘った……だなんて。
俯いているキラの額に、アスランが口づける。
「な……何を……?」
「ハッキリとしよう?キラ」
「うん……」
「何度も昨日、お前に好きだって言った。お前もうわ言だったが何度も言ってた…こっちはもう準備万端なんだが?」
「………」
「だから、このチョコレートは俺たちでちゃんと処分するぞ?」
「…………アスラン?」
「ん?」
「……好きだよ」
「ああ、俺も好きだ」
アスランの口移しでチョコレートを蕩かして。キラも同じようにアスランにもう一つのチョコレートを「あーん」って食べさせて。
「美味しい?」ってキラが聞けば。
目を細めながらの、柔らかな微笑が返って来た。
「お前の方が美味しい」
「……常套句だね?」
「キラから誘惑したんだから、覚悟しろよ?」
「それはもう判ってるよ……」
「可愛い」
チョコレートの効果か、アスランの口がいつもより饒舌に滑る。
それに顔を赤くしながら、キラも全部受け止めるつもりでいる。
指を絡めて「愛してる」を。唇を交わらせて「好きだよ」って。
繰り返して繰り返して繰り返して。
チョコレートの罠から抜け出さなくても、二人で踊り続けようよ?