私だけの瞬間執務室に帰って来て、疲れ切った身体を椅子に投げ出す。すると、どうしても顔が見たくなって、通信を繋げた。
しばらくしてから、繋がって、画面に彼が顔を出す。
「どうしたの?カガリ」
「いや・・・顔を見たくなっただけだ」
「そっか・・んと、カガリ、その背後に映ってるのは?」
カガリの後ろに山のように積まれた箱が目に留まったキラが聞いて来る。「ああ・・」と呟いてから。
「今日はバレンタインだから・・・私宛てにいっぱい届いたんだそうだ」
「・・へーそっか」
「・・・お前も、もらったのか?」
「・・・・・」
「キラ・・・?」
不安そうに揺れる橙の瞳が、キラを見つめる。キラは何か考え込んだ様子で一瞬反応が遅れて「ゴメン・・なんだっけ?」と返した。
この反応は、きっとキラはもらってるんだとカガリは判断した。キラは甘い物に目がないから。自分以外の女と親し気にしている姿を想像するとズキズキと胸が痛む。
どうしてこの世界に女がいっぱい居て、彼の傍にいるのだろう?
ただでさえ距離が阻む、血の繋がりが拒絶する。
他人から沢山愛される彼に唯一人愛されたいと思うことはいけないことだろうか?
「キラ・・・好きだぞ」
「・・・僕も、カガリが好きだよ」
確認する言葉がまるで空回る。切なくて通信を切った後、暗くなった部屋で涙をこぼした。
執務室から冷たい空気が出ていて、入れない。今はいけない・・・と本能が告げている。そこに訪れた紺色の髪の青年が、そんなシンの様子に小首を傾げた。
「何してるんだシン?」
「アスランこそ!何しに来たんですか?!」
「野暮用。・・だな。入っていいのか?キラ、居るんだろ?」
「いいですけど・・・ちょっと今は・・・あっあああ」
シンがおろおろとしてる内に、アスランは執務室の扉を開けていた。
途端冷たい空気を感じる・・・気がする。暖房がついているのに変だ。机に座っていたキラが顔を突っ伏して何事か呟いているのが聞こえる。
近づけば近づく程冷気が増して行く。これはキラから出てるのだと気付いたアスランはその肩を揺さぶった。
気づいたキラは顔を上げて目を丸くした。何せオーブでカガリの補佐をしている筈のアスランがプラントにいるのだから。
「へ・・あ・・アスラン?!どうしたの?」
「どうしたじゃない!何があった?!・・・怒ってる、のか?」
「・・・うん」
カガリが沢山チョコレートをもらっていると知って、キラはそれを認めながら自分の中で煮えたぎる気持ちを抑えきれなくなっていた。カガリが国民から愛される事は嬉しい筈なのに。
「僕だけがカガリを好きだったらいいのにね・・・」
「それじゃ困るに決まってるだろうが」
どうしようもなく、心が激しく暴れ回る。今、きっとカガリの傍に居たら喧嘩になってたかもしれない。独占欲のまま、無理やり彼女を引っ張り回していたかもしれない・・・。こんな時距離があって良かったのか悪かったのかと思ってしまう。
と、そう言えばとキラはアスランを振り返った。
「アスランは何か用事があって来たの?」
「用事があって来たに決まってるだろ。・・・ほら」
「・・・??!!」
アスランは袋をキラに差し出した。ポカンとしたキラに「バレンタインだろ・・・」とアスランがじれったそうに言う。
「アスラン・・・あんたそっちのケがあったんですか・・・?」
「うるさい!!!」
やっと空気が和らいで来たので覗き込んで来たシンの頬をアスランがつねる。
キラはその袋を開けて見て、やはりポカンと口を開けてしまった。
袋の中にたくさんのいびつなチョコレートが、きっと手作りのチョコレートが詰まっていたから。「キラが大好きなカガリより」ってカードが入っているから。
一気に血液が頭まで上昇して、ボフンと顔も手も足も真っ赤にしたキラが出来上がった。
「・・・満足したか?」
「ねえ、アスラン。僕からもカガリにバレンタインあるんだけど、持ってってくれる?」
「宅配便じゃないんだが・・いいぞ」
早速口に入れて頬張るキラは本当に嬉しそうで、アスランはお土産に、とその姿の写真を撮っていた。後でカガリに見せるために。
独り占め出来ない人を独り占めできる瞬間はいつだってこうやってあるのだ。
これ以上ないほど嫉妬してるのに、まだ足りないの?
お題配布元「確かに恋だった」確かに恋だったbot@utislove様より。