【過去編】那由多VSアクラシア①真紅の瞳を宿したヒューマノイドのアクラシアは真っ直ぐに千星那由多を見詰めた。品定めするような視線に千星は萎縮し、神功のエネルギーで作った炎の刄を握り締める。アクラシアは武器である鞭をどこからともなく引き出すと、〝パシン〟と、小気味良い音を立てて戦闘モードへと突入した。
「何度デモ、言う。センボシナユタ、オマエではワタシには勝てない。無駄に命を散らすカ、降伏するカ、さっさと選べ。ただ、どちらにしてもオマエが、生き残る可能性は低いダロウな」
「そ、そんなのやってみなきゃわかんねぇだろ……ッ」
「ワカル。イデアと共有していた過去の情報がソウ言ってイる」
「……ッ、イデア、イデアって、お前はイデアの何なんだよ!」
千星は神功から絶有主メンバーについて簡単には聞かされていたがそれでも目の前に現れた、〝アクラシア〟と名前のつく〝イデア〟を成長させ、性別を変えたようにしか見えないヒューマノイドを受け入れる事が出来なかった。
「ジングウ サチオから聞いていないのカ。まぁ、聞いていたとシテもオマエのゆるい頭では理解デキないか……」
「………ぐっ!」
「ワタシは、アクラシア。イデアと同じ製作者である犬飼教授により作られた後継作である。与えられた役割は異なるがな……。
イデアロスは他のヒューマノイド同様、武器製造、裏生徒会の補助が主な役割でアッタが、ワタシは違う。裏生徒会メンバーとして政府の指示通りに動くことがワタシの使命である。そして、ワタシはイデアと全ての情報を交換しテいた。イデアが聞いたモノ、見たモノは全てワタシの中ニある。だが、ソレがある日を境に途絶えタ…………イデアはERRORを起こしてまで政府に仇なす事をワタシに伝えたくなかったようダな。なぜダカ分かるか?」
「…………ッ、知るわけないだろ……ッ、俺だって知りたいぐらいだ!」
「オマエに聞いたワタシが愚かだった……もうオマエと話スことは無い」
「ぅ、わっ!!……ッ、速いッ!」
「オマエはイデアロスにすら手も足もでなかったノデあろう?そんなオマエが後継機のワタシに敵うハズもない……タツミもまた選択を間違ッた」
「そんなの、やってみな、─────ッッ!!!いってぇ…………っ!!」
アクラシアの鞭が空中を走る。決して直線的に攻めてくれない、しなる縄を対処出来る程の実力を千星は持ち合わせていなかった。今までは誰かがフォローしてくれていたが今日はアクラシアと一対一である。圧倒的に経験不足、実力不足である千星は炎を剣で鞭の攻撃を止める事が精一杯である。流石にこのままではマズいと千星がアクラシアが鞭を引く動作に合わせて1歩出ようとしたその時、今まで撓っていた鞭が直線的に千星の二の腕を貫く。
「………ッ、…………く」
「ツギは心臓だ。もう一度聞ク、命乞いはしないノか?」
ブシュッと血管が割かれる音が響いて千星の腕から血飛沫が上がった。アクラシアの鞭は縄でできたものであったが、直線的な動きに変わる瞬間に縄の外側を鉛が纏い、イバラ鞭のような機械鞭へと形状が変わった。
歪で無機質で感情のないアクラシア本人を描いたような外装へと変化し、殺傷能力が格段に上がった。
しかし、千星も寸でのところで指先が“解”文字を無意識に綴っていてアクラシアの鞭のルート解析をしてくれた為貫通は免れた。それでも白いワイシャツを赤く染めていく血液は止まることはなく、千星の表情は青ざめていく。昔なら間違いなくここで逃げていた。しかし、もう何度も〝逃げる〟選択を取って後悔をしている。その相手は幼馴染から始まり、親友、敵、仲間、家族……思い出せばキリがないほど千星は自分が後悔していると思いだしてしまう。そしてその全ては自分から動く事をしなければ解決しない事ばかりであった。千星の表情苦く笑んだ後、ぐっと歯を食いしばるように体が前傾に傾いた。
「しない……ッ!」
「ならば……死ネ……」
千星が炎の剣を構え直すとアクラシアが機械の鞭に指示を送る。腕のしなりだけではなくアクラシア自身から発する電気信号でも動くようになった鞭は様々な基線を描いて千星に襲いかかる。千星は一気に表情を引き攣らせると共に〝土〟の字を綴ると防御用の壁を作った。
正直勝てる気がしない。だが勝つしかない。
こんな状況は昔から何度も経験はしている。でも、結局いつも自分は最後に誰かから助けてもらっていた。もしかしたら今回も巽が、晴生が、明智が、そして会長たちが助けに来てくれるかもしれない。そんな自分らしい弱い考えにすこしだけ気持ちは緩んだ。劣勢には変わりないのに心が軽くなった。俺の仲間は何があっても俺を裏切ることは無い。それだけは揺るがない真実であるからである。
(仕方ねぇから助けてやろうか?)
そんな声が千星の中から聞こえた。
過去編
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