「なんだ?ノイマンが複数の武器を扱うのがそんなに珍しいのか?」
その頭脳に森羅万象を収め、言動として高精度に出力できるようになるシンドローム、ノイマン。その能力者であるDr.レイシオならば、二刀流でキュマイラの爪牙を防ぎ、いなすことなど容易いのだろう。
しかし俺が驚愕しているのは、そこではない。
情報が誤っていたのか。それとも偽装されていたのか。昨日の“ヌースの愛子”Dr.レイシオは『射撃武器を扱う』オーヴァードだったはずだ。
では今持っている『二本のブレード』は何なんだ?
「さあ、精算だ。『知識こそは万物の尺となり、真理を探り尽くし、誤謬を根絶する』。」
“ヌースの愛子”の背後で”幸福喰らい”が笑っている。
こいつも昨日は確か『強固なシールドを展開する』オーヴァードだったはずだ。
じゃあ、今頭上から降ってきているこの『柱』はーーー
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「ギャンブラー。」
「あはは、ごめんごめん。今日は君みたいに戦いたい気分だったからさ。つい真似しちゃった。そういうレイシオだって、ソレどこから持ってきたんだい?」
「影から創った。君ならわかるだろう。」
ブレードを霧散させ、レイシオはため息をついた。濛々と上がっていた砂埃は既に収まり、後には白く巨大で不格好なイオニア式のエンタシスが転がるばかりであった。
「歪んでいるぞ。」
「造り慣れてないんだから勘弁してよ、教授。モルフェウスにも得意不得意ってモノがあるんだからさ。」
「いつもすぐそばで観察しているんだ。僕を模倣したいのなら、もっと精度を上げろ。」
「うーん、無理かな。僕の目は恥ずかしがりやだから、すぐにレイシオから逸れちゃうんだ。」
「普段はもっと近くで見ているだろうに…。診察が必要そうだな。」
そう言いながらレイシオがキスを落とすと、アベンチュリンはくすぐったそうにはにかんだ。
「この後の時間は空いているか?」
「勿論だよ、レイシオ。久し振りの君との仕事なんだ。終わったら休暇をもらうって届け出てるよ。」
「そうか。僕の家へ行こう。」
「ああ、もちろんさ。ダーリン。」
事後処理は専門の班にまるまる投げて。
二人はそのまま寄り添い、戦場を後にした。