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    uncimorimori12

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    みずいこ
    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)

    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
    「ええよー。ちょうど暇やったしな」
    「最初は俺らでタクシーにでも突っ込んで帰そうとしたんですけど、こいつ生駒さんが来るまで帰らないとか言い出して……」
     荒船の思いもよらぬ言葉にこいつ、こと水上を見下ろす。現在の水上は生駒の胸に頭を預け、ピクリとも動き出す気配がない。寝ているのかとも思ったが、腰に回された腕の強さが水上の意識が未だ健在であることを証明している。水上が成人してから何度か一緒に酒を飲んだことはあったが、ここまで酔っ払った水上を見るのは初めてであった。というのも、水上はわりかし酒が強いのだ。いくら飲んでも表情は変わらず、度数の強い酒を入れても足取りもしっかりしている。吐いているのも見たことがない。なのでいくら飲んでも酔わないタイプなのかと思っていたのだが、どうやら水上にも限界は存在していたらしい。その限界に達していても、顔色自体はいつも通りなので凄いものだが。
    「初めて見ました、こんな水上」
     向かいの席に座っていた穂刈が興味深そうに水上を覗き込む。どうやら自分以外にとっても酔っ払った水上というのは珍しいらしい。生駒はなんとか水上に水を飲ませられないかと奮闘しながら、うんうんと頷いた。
    「実は俺も初めてやねん。こいつこんな酔うねんなー」
    「初めてなんですか、生駒さんも」
    「お初やで。むしろいつも介護してもらう立場やったっちゅーか」
    「浮気ですか!?」
    「わっ」
     それまで生駒にされるがままとなっていた水上が大きな声をあげる。かと思えばなんとも可愛らしい強さで生駒の胸元を叩いた。
    「うらぎりや……」
    「なにが?」
    「こんなのって無い……」
    「なんでこいつ迎えに来てくれた先輩に対して文句言ってんだ?」
    「んー、ベロベロやな」
     生駒はぐずる水上を担ぐと、水上の分の荷物を持って立ち上がらせる。そして未だ申し訳なさそうにしている荒船と穂刈に別れを告げると、居酒屋を後にした。すっかり陽は落ちているとは言え、夏場の夜はどこもかしこも暑苦しくて敵わない。生駒は額にうっすらと汗をかきながら大通りまで出ると、道ゆくタクシーに向かい手を上げた。あっという間に止まったタクシーに水上を押し込めると、運転手に水上の住むアパートの住所を告げる。最後にタクシー代を渡そうと水上に目を向けると、水上は恨みがましそうな目で生駒を睨め付けた。
    「やっぱうそやった」
    「え?」
    「かえらん言うたのに」
    「……あ、つまりお前、俺に家まで来て欲しかったん?」
     尋ねれば、水上は不服そうに眉を寄せながらも、生駒の服の裾を掴む。明日も大学があるので今日は帰ろうと思っていたのだが、生駒としてもこの状態の水上をひとり家に帰らせるのは思うところがあった。
    「しゃーないな」
     生駒はそう言うと水上を席の奥に詰め、自分もタクシーに乗り込む。大学までは水上のアパートからでも距離はほぼ一緒なのだ、そう困ることも無いだろう。シートベルトをつければ、水上はどこか得意げに鼻をならした。
    「初めからそうすればいいんです」
    「偉そうやなー」
    「イコさんが嘘つくんが、わるい」
     むにゃむにゃと何事かぼやきながら水上が生駒の肩にもたれかかる。そんな酔っ払いのつむじを、生駒は新鮮な心地で見下ろした。
     ここまで支離滅裂でむちゃくちゃな水上の姿は、普段からは絶対に想像できない。話の内容だっていつもは理路整然と、生駒に伝わるように噛み砕いて喋ってくれるのだ。そんな頭良男が、さっきから明らかに理不尽な文句を並び立てている。これを面白いと言わずして、なんと言おうか。他の隊員たちが水上のこの姿を見たら目を輝かせて面白がるに違いない。普段はしっかりしていて何事も基本卒なくこなす先輩の、こんな甘えん坊な姿なんて。
    「……水上って」
    「はい?」
    「お兄ちゃんにいっぱい愛されて育ったんやろなー」
    「え? なんでにいちゃんの話?」
    「いや、結構かわええとこあるなーって」
     怪訝そうな表情を浮かべる水上の眉間を人差し指で押してみる。水上はますます表情を険しくしたが、生駒の手を振り解くことはなかった。
    「なんすか、それ」
    「やー、酔ってる時はその人の本性が出るって話な、思い出して」
     賢くてしっかり者の皮を剥いでしまえば、こんなにも無防備な部分が顔をだす。水上のことは長い付き合いの中でそこそこ理解していたつもりであったが、それはとんだ思い上がりであったことを生駒は知った。そもそも人間は多面的な生き物なのだ。いくら知ったつもりになっても、その人間を真に理解するなんて実際は半分だって難しいのだろう。車内をキンと冷やすクーラーの冷風に息をつきながらそんなことを考えれば、水上はとうとう顔をくしゃくしゃに丸めながら生駒の膝に頭を預ける。
    「お、なんやなんや。気持ち悪いんか?」
    「……こういうの、誰にでもやってるんすか」
    「へ?」
    「こうやって、呼んだら来るん。あんた優しいから、誰に呼ばれても行くんやないっすか」
     水上の指摘に生駒はこれまでの自分を振り返ってみる。確かにこれまで夜にいきなり飲み会に呼び出されることはよくあったし、その流れで介抱側になることもよくあった。生駒自身酒に強いのもあったし、そもそもスタートが周囲に比べ遅いので、必然的に世話する側に回るのだ。なので「そうかも」と返せば、水上は仰向けに寝転がりながら人差し指で生駒を指差した。
    「そういう、そういうね。そういう優しさみんなに振り撒くん、ほんまやめた方がいいっすよ。優しさって無料で配ったらどんどん集られますからね」
    「おー……?」
    「こういうんはね、俺と、生駒隊と、嵐山さんたちと、そこら辺までにしてください。てかそうせなあかんです」
    「ボーダーのみんなは? さっきの荒船とか」
    「あかん!」
    「アカンかあ」
    「あかんあかんあかん、ぜーんぶ、あかん。ダメやろ、そんなん、もう……。膝かたい〜〜〜……」
    「ほな降りる?」
    「おりん!」
    「元気な返事や」
     どうやら水上から見たら生駒は相当優しい人間に分類されるようであった。自分ではそんなつもりでは無かったのだが、いつも隣で支えてくれていた後輩には生駒はそのように映っていたらしい。自覚はしていなかった己の長所に、生駒はどこか面映い気持ちにさせられる。水上はなんて人の長所を見つけるのが上手いのだ。流石だ、賢い上に人の良いところに気がついて言語化できるなんて。向かうところ敵なしかもしれない。
    「いこさん話きいてます!?」
    「うん、聞いとるよ。お前がむっちゃええやつってことやんな」
    「違います。いいっすか、つまり俺以外に優しくするなってことです。分かります?」
    「んー?」
     先ほどよりもグッと狭まった優しさ発揮スコープの範囲に生駒はまた首を傾げる。タクシーが家に着くまで、水上はなんだかプンプンと怒りながらも、生駒の膝からどくことは決して無かった。



    「大変失礼しました」
     翌朝、開口一番放たれた言葉は、地を這うような響きを持っていた。昨日あれだけ酔っ払っていたのだ、きっと酒で喉が少し焼けてしまったのだろう。生駒はベッドの上で見事な土下座をかましている水上に近寄ると、いましがた買って来たビニール袋の中身を揺らした。
    「ええってええって、顔上げ。それより体調どう?」
    「……むっちゃ、頭痛いです」
    「思いっきり二日酔いやなあ。しじみ汁買って来たけど飲む? 楽なるよ」
    「……いただきます」
    「よっしゃ。あ、これお水。こういう時はいっぱい摂らなな」
     生駒はそう言ってペットボトルの水を手渡すと、お湯を沸かすため電気ケトルを手に取りキッチンへと向かう。作っても良かったのだが、人様の家で勝手に料理をするのは気が引けるし、何よりスーパーが開いている時間では無かった。
    「ほい。熱いから気をつけてな」
    「あざす」
     水上はそう言って生駒からしじみ汁のカップを受け取ると、ゆっくりと口をつける。二日酔いの身体には効くのだろう、一口含んだ瞬間水上はどこか安心した様子で顔を緩めた。
    「うまいっす」
    「分かるわ〜。こういう体調あんまようない時の味噌汁ってやたら美味いよな」
    「……はい」
     そう頷く水上の頬にはいくらか赤みが戻って来ている。この分であれば回復も早いだろう。生駒が買って来たウコンやら、水でも飲んで寝ていればすぐに復活するはずだ。生駒はひとまず胸を撫で下ろすと、自身の荷物を持って立ち上がる。
    「あれ? 帰るんすか」
    「うん。今日一限やねん」
    「でもまだ早くないですか?」
    「そやけど、一回帰ってシャワーでも浴びようかなって。服も昨日のまんまやし。ま、ランニングのついでみたいなもんやな」
    「……そ、っすか」
     水上は生駒を見送るため廊下まで着いてくると、気まずそうに頬をかく。気にすることなんて無いんやけどな。と思いつつも、確かに自分が水上の立場だったら気まず過ぎて気が休まらないであろう。これはさっさと帰ってしまうに限る。
    「ほな俺帰るわ。昼になっても体調戻らなそうならまた連絡してな、シフト調整するし」
    「や、それはほんま大丈夫っす。ありがとうございます、ほんま。今度必ず埋め合わせさせてください」
    「ええって〜。律儀やなあ、お前は」
     生駒はスニーカーを履くと、最後に水上を振り返る。そこでふと、言い忘れていたことを思い出した。
    「あ、そや」
    「なんすか?」
    「俺な、確かに飲み会呼ばれて行くことはあるけど。でもただ介抱するためだけに呼ばれて行ったんは、お前が初めてやで」
    「…………え?」
    「でもこれからは優しさ? を振り撒くんはあかんっぽいから、隊のみんなと、嵐山たちだけにするよう気をつけるわ。忠告ありがとな」
    「……ちょ、え?」
    「それじゃ、また本部でな」
    「あ、はい」
     生駒はそれだけ告げると今度こそ水上の家を出る。
    「……………………は?」
     水上が顔を赤らめながら一人廊下で立ち尽くしていることを、生駒が気が付くことは無かった。
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    Webオンリーで唯一ちょとだけ理性があったとこです(なんかまともの書かなくちゃと思って)
    アルコール・ドリブン「あ、いこさんや」
     開口一番放たれた言葉は、普段の聞き慣れたどこか抑揚のない落ち着いたものと違い、ひどくおぼつかない口ぶりであった。語尾の丸い呼ばれ方に、顔色には一切出ていないとはいえ水上が大変酔っていることを悟る。生駒は座敷に上がると、壁にもたれる水上の肩を叩いた。
    「そう、イコさんがお迎え来たでー。敏志くん帰りましょー」
    「なんで?」
    「ベロベロなってるから、水上」
    「帰ったらいこさんも帰るから、いや」
    「お前回収しに来たのに見捨てんって〜」
    「すみません生駒さん」
     水上の隣に座っていた荒船が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。この居酒屋へは荒船に誘われてやって来た。夕飯を食べ終え、風呂にでも入ろうとしたところで荒船から連絡が来たのだ。LINEを開いてみれば、「夜分遅くに失礼します」という畏まった挨拶に始まり、ボーダーの同期メンツ数名と居酒屋で飲んでいたこと。そこで珍しく水上が酔っ払ってしまったこと。出来れば生駒に迎えに来て欲しいこと。そんなことが実に丁寧な文章で居酒屋の位置情報と共に送られて来た。そんなわけで生駒は片道三十分、自分の家から歩いてこの繁華街にある居酒屋へと足を運んだのである。
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    uncimorimori12

    DONEみずいこ
    書きながら敏志の理不尽さに自分でも爆笑してたんで敏志の理不尽さに耐えられる方向けです。
    犬も食わない「イコさん」
     自分を呼び止める声に振り返る。そこには案の定、いや声の主から考えても他の人間がいたら困るのだが、やっぱり街頭に照らされた水上ひとりが憮然とした顔でこちらに向かって左手を差し出していた。はて、たった今「また明日な」と生駒のアパートの目の前で挨拶を交わしたばかりだと言うのにまだ何か用があるのだろうか。生駒は自身のアパートに向かいかけていた足を止めると名前の後に続くはずの水上の言葉を待つ。すっかり冷え込んだ夜道にはどこからか食欲をそそられる香りが漂ってきて、生駒の腹がクルクルと鳴った。今晩は丁度冷蔵庫に人参や玉ねぎが余っていたのでポークシチューにする予定だ。一通り具材を切ってお鍋にぶち込み、煮えるのを待ちながらお風呂に入るという完璧な計画まで企てている。せっかくだしこのまま水上を夕飯にお誘いするのも手かもしれない。うん、ひとまず水上の話を聞いたら誘ってみようかな。そこまで考えて辛抱強く水上の言葉を待ち構えていたのだが、待てども暮らせども水上は口を開くどころか微動だにすらしない。生駒は訳が分からず水上の白い掌と顔を交互に見比べた。
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