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    sima_kabe

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    泣かぬ暗闇の渦見×笠原/本編後・ホラー

    ##小説
    ##泣かぬ暗闇
    ##渦笠
    ##ホラー

    ブロック塀の向こう側 アパートから大学に行く道の途中に、派手に荒れ果てた家がある。

     綺麗に立ち並んだ住宅街の角にぽつんと佇むその家は、通りがかった小学生に「お化けの住む家」と言われていた。
     隣は空き地となっていて、伸びた蔓が壁を這い亀裂の入った家は、来る者を拒んでいるように見えた。玄関から庭にかけては鬱蒼とした木々が生い茂っており、窓ガラスは割れ、ぼろぼろのカーテンは引き千切られたように汚れている。
     早く取り壊してしまえば良いのに、と俺はその家を見る度に思うのだが、何か事情があるのか、その家は俺がこのアパートに越してきた頃からまるで変わる様子がない。せいぜい庭の木々の様子が、四季で変化するくらいだ。

     俺はなんだかその家が不気味に思え、今まであまり近づくことはなかった。
     でも、渦見と出会い、沢山の出来事を経験したあの夏を終えてから、少し気が緩んでいたのかもしれない。
     あるいは、警戒が緩くなっていたのか、ある日俺はその家の隣を急いで走って行った。
     どうしても欠かせない用事があって、その家の隣を突っ切るのが、一番の近道だったんだ。
     角に立っている家の片方の公道側はなんともないけど、もう片方の空き地側は、歩くと妙に薄ら寒い。太陽に照らされているのに、ジメジメして、湿っぽい。俺が急いでその家の横を走り抜けていると、隣から誰かの目線を感じた。
     はっとして後ろを振り返ってみたが、誰もいない。横を見ても、生い茂った草木が見えるだけだ。
     けど、へばりつくような目線が、背後からいつまでも追いかけてくるような、そんな気がした。

     それ以来、その道を通っていない。

    ****

    「笠原、コロッケ食べよう」
    「あ?」
    「コロッケ、俺ね、コロッケパンにするから!」

     ある日、渦見がどっから手に入れたのか、スーパーのチラシを片手に俺に言ってきた。
     ちなみに、今まで断り切れなかった新聞の契約を先日やめたので、もううちにスーパーのチラシは入ってこない。このチラシは、渦見がどっかから持ってきたものだ。
     昨日提出課題を徹夜で終えた俺はようやく眠りにつき、この隙間風が吹きすさむボロアパートで安眠を貪っていた。
     だというのに、笠原、笠原起きて、という呼び声と共に起こされた。ぼさぼさの髪の毛をかきながらチラシを受け取ると、近くにコロッケ専門店がオープンしたらしい。
     スタンダートからマイナーまで、色んな種類のコロッケメニューがチラシに書いてある。俺は眠かったので、寝ぼけ眼で渦見を見た。

    「買ってくれば……? 俺カレーコロッケね。頼むわ」
    「一緒に行こう! 行こう行こう! 近くのパン屋さんでパンかってー、コロッケパン。ねー」

     何が楽しいのか、渦見は嬉しそうにチラシを奪い返し、俺の敷布団をひっくり返した。俺はそのままの勢いで畳に転がっていく。っつーか転がりすぎて狭い部屋じゃ速効で壁にぶつかった。

    「あああああ……」
    「笠原起きた?」
    「…………」

     渦見は基本、躁鬱なんじゃねーのって思うくらいにテンションの寒暖差が激しいので、今更その行動に驚きはしない。
     が、せっかくの安眠を邪魔された腹いせに、起き上がり渦見の額を指で弾いた。

    「いたっ! でこ割れた! 頭割れた~」
    「割れてねーよ」
    「あ! 俺ねー、これ、これにする、しゃけコロッケ。あとこっちのマグロとアボカド」
    「ゲテモノじゃねーか」
    「笠原は?」
    「カレー。世界で一番美味いから」
    「マジ? じゃあ俺もカレーにする」
    「だめ、違うのにしないと一口貰えねーじゃん、違うのにしろ」
    「あひゃひゃひゃ! 世界で一番うめーのに他の欲しがるの変! 笠原へーん」
    「それはお前が絶対に言っちゃいけない言葉だろ」

     そう言うと、渦見は謎にけらけらと笑いながら、財布をポケットに詰め込んだ。
     俺も、起き上がって洗面所へと向かう。
     ……まあ、どうせ今日はすることないし、開店セールで安くなってるっぽいし。コロッケの話してたら、コロッケ食いたくなったし、いいか。
     使い慣れていないスマホと財布を持って、準備を済ませると渦見と一緒にアパートを出た。


    「はあー、さみー……」
    「手ぇ繋ぐぅ?」
    「ヤダ」
    「あひゃひゃっ、隙あり!」
    「おいっ繋ぐな! てかお前の手の方が冷たいじゃねーか!」

     渦見が勝手に俺の手に指を絡ませた。俺よりも少しごつごつした渦見の指が俺の指を絡め取る。
     ひんやりとした手の冷たさが、俺の手の体温を奪っていくような気がした。人目が少ないとはいえ公道だ。周りを気にしたが、しっかりと握られた手のひらは、振っても外れそうにない。

    「……人が来たら外すからな」
    「大丈夫だよ」
    「何が?」

     渦見は答えず、同時に秋風がびゅう、と吹いて羽織っていたジャケットを風に靡かせた。
     先日までまだ暑いな、と夏気分だったのに、気がつけばあっという間に秋なんだから、季節は本当にままならない。すぐに冬が来て、また春がくると考えると時間なんて過ぎるのはあっという間だ。

    「コロッケパン♪ さくさく美味しいコロケケケ♪」
    「それなんの歌?」
    「コロッケの歌」

     ここから歩いて十五分程度の所にあるから、渦見の車は使わず、歩いて行こうという話になった。歩いていると、道すがら栗が落ちていたり、色づいた紅葉が秋を感じさせる。

    「はー、腹減った~……」

     考えてみたら、昨日徹夜でレポートを仕上げてから、全然飯を食ってない。今ならコロッケなんて何個でも食える気がする。
     コロッケってなんの種類があったんだっけ? 先に決めておこうかな。

    「渦見ー、あのチラシ持ってきた?」
    「あるよ」

     渦見がポケットからくしゃくしゃになったチラシを取りだした。広告には、カラー印刷でコロッケの種類がずらりと立ち並んでいる。
     牛肉、かぼちゃ、カレー、チーズ、サツマイモ……。

    「あ、ベーコンとチーズの黒胡椒コロッケも美味そうだよな」
    「笠原はカレーじゃないの?」
    「他の種類も食いてえだろ。あっ、かにクリームコロッケ限定じゃん!」
    「俺ね、牛肉も好き!」
    「王道もいけるんだな、やべー、サクサクのコロッケめちゃくちゃ食いたくなってきた!」

     腹が減っているせいもあるんだろうけど、あの、周りがほくほくで外が衣でサクッサクのコロッケが食いたくてたまらない。耐えきれないように腹の虫がぐぅと泣いた。
     こうなったら今日は久しぶりに贅沢をするか、と俺は足を大きく進めた。

    「よし、渦見急ぐぞ! 限定のかにクリームコロッケを手にいれてやる!」
    「あひゃっ、俺はカニよりタコが好き!」
    「全然関係ないだろそいつは!」

     言いながら、バタバタと足を走らせる。
     道中、例のお化けがでる家がある道に差しかかった。相変わらず不気味な空気を醸し出しているが、渦見がいると、なんとなく平気なんじゃないかと思ってしまう。

    「なあ渦見、近道しねえ? この家の隣の空き地突っ切ったらすぐ店だし、ちょっと通らせてもらおうぜ」

     その家を指さしながら、渦見を振り返った。
     どうせこの開き家には誰も住んでいないのだし、隣の空き地は私有地だろうから、本当はダメなのかもしれないけど、すぐ隣の通路くらいなら許されるだろう。
     ほんの軽い気持ちだった。けど、振り返った先の渦見は、さっきまでの笑顔を取り消し、真顔で言った。

    「だめ」

     冷えた温度の声が空気を裂いた。

    「え……いや、でもこっちの方が近いし、渦見も腹減ったろ?」
    「だめ」
    「………………」

     俺が何を言っても、渦見は頑なに首を縦には振らなかった。言葉を失うと、繋いだ手の指先にきゅっと力が加わる。
     さっきまで馬鹿みたいにけらけら笑っていたのに、何故か渦見は静かに、薄く笑うと、そっと俺の手を引いた。

    「いこ、笠原」
    「あ、あぁ……」

     だからそれ以上俺は何も言えなくなって、その家の隣から離れた。
     隣を突っ切れば近道だけど、渦見がそれを許さないなら、きっとしない方がいいんだろう。そういえば、前にこの家の隣を通ったとき、妙に粘っこい視線を感じた気がする。
     渦見が一緒なら、と安易に考えていたが、危ないところに近寄りたいという気持ちなんて、俺には微塵もない。大人しく従おう、と渦見の後ろをついていく。
     公道側は大丈夫なんだっけ、と思ったが、俺の手を引いていた渦見の足が公道側の家の隣を歩いてる途中で止まった。
     その停止に、俺は声をあげた。
     
    「渦見?」
    「笠原、隣を見ないでね」
    「隣?」
    「見るなってば」

     言われるがままに横を向きそうになった俺の手を引っ張って、渦見が言った。
     隣っていうと、あの家のブロック壁があるだけだ。コンクリートの壁は、昔ながらの壁でいくつかデザインブロックの穴が空いている。でも、そこから見える景色なんて、生い茂った草木だけで、家の中の様子すら見えないはずだ。
     ざりざりと地面を踏みしめながら歩いて行くと、妙な緊張が走る。隣になにがあるのか確かめるため向きたいような、絶対に向きたくないような……。
     秋風が頬を撫で、正面から強く吹き抜ける。
     その時、横で妙な気配がした。横っていうのは、勿論手を繋いでいる渦見のほうじゃなくて。

    「な、なぁ渦見」
    「シー」

     渦見は解っているのかいないのか、喋らないように、と静めるような声をあげる。
     俺は、もう渦見終夜のことを知っている。
     渦見の体質のことも、自分の体質も、解っている。俺が渦見から離れるとどうなるかも、理解した。
     だから、渦見の言うことには逆らわなかった。
     今隣に何かいないだろうか、とか何か視線を感じないか、とか、そういうことも、一切聞かなかった。
     聞いたところで、今どうにかなるもんでもないし。
     でも、聞かなくても視線は感じる。べったりと見られているような、張り付く視線。たった数メートルなのに、やけに長く感じられた。
     追いかけてくる気配を振り切って、隣の家も振り返らず、前だけを見ていた。
     あと少しでこの道を抜ける。
     ようやくだ、といったところで、渦見の隣を車が走り抜けた。

    「渦見、あぶねっ……」

     いや、走り抜ける所で、大きく横にそれた、まるで、何かを見て驚いたように。
     俺たちにぶつかることは勿論なかったけど、俺はよろけた弾みで一瞬だけ、ブロック塀の奥見てしまった。

    「あ」

     目が、あった。

     目、というのは、囲いのブロック塀に空いた穴から覗く目だ。
     生い茂った草木しか見えなかったはずのそこから、人の目が覗いていた。それも一人じゃない。背丈的に、子供だろうか? いくつもの空いた穴から、全て人間の目が覗いていた。
     背中に怖気が立ち、すぐに目を反らしたが、もう遅かったらしい。
     べたりと張り付くような視線は、その家を通り過ぎてもずっとついてきた。
     冷や汗が頬を流れ、俺は引き攣った笑みを浮かべた。

    「う、渦見……さん」
    「あーあ、見ちゃった?」
    「………………悪い」

     情けなく頷くと、渦見が持っていた虫取り編みで、俺の背中に何かしていた。

    「だっ、いてっ」
    「笠原の油断しぃ~~」
    「いてっ、いてっ」

     ばしばしと叩かれると、即物的な痛みは襲ってきたが、代わりにさっきまでの張り付くような気配が消える。
     ほっと息を吐いて、渦見を見ると、渦見はにまにまと笑いながら、さっっきまでのどこか控えめな笑みではなく、嬉しそうに口角を緩めた。

    「怖かった?」
    「てか、誰だって怖いだろあんなん」
    「俺のこと好き? 好き?」
    「……なんでその質問になんだよ。こんなん出来るなら最初からそうすりゃよかったじゃん」
    「だってこれからコロッケ食べるのに、お腹いっぱいにしたくないしさ~」
    「どういう因果関係……」

     ともあれ、助かったのは事実だし、コロッケの一つくらいは奢ってやろう。
     それから、渦見はまたご機嫌さを取り戻して、スキップし始めた。俺は渦見についていき、無事コロッケゲットに成功。
     さっき見た気持ち悪い目の存在は、買ったコロッケのあまりの美味さにより、あっという間に俺の脳内から霧散していった。

    ****

     その日の夜、俺は妙に寝苦しかった。
     隣では渦見が寝ているはずだが、俺にへばりついてでもいるのかもしれない。動きづらいし、変にじめじめする。もう秋だっていうのにこの湿気、やっぱり部屋の場所が悪いのだろうか。

    「うぅ……」

     寝苦しさに寝返りを打つと、妙な気配がして、俺は動きを止めた。
     誰か、誰かがいる。
     ぺたぺたと近づいてくる足音がする。
     一人じゃない。
     誰だ? 子供……いや、大人もいる。ボロアパートの床が軋み、畳の上を歩いてくる。目を瞑っているのに、何故かその存在がリアルに感じられた。やがて足音が俺の近くで止まる。
     見ちゃ行けない、そう思うのに、自動的に目は開いた。

    「……っ」

     叫びたかったが、声は出なかった。代わりに息を呑み、全身に鳥肌が立った。
     顔だ。
     大人も子供も、見たことのない奴らの顔が、俺を覗き込むようにして並んでいる。それだけでも恐ろしいが、更に怖いことに、並んでいる奴らは全員、目がなかった。
     えぐり取られたようにぽっかりと空いた空洞が、見えないのに俺を見つめているように見えた。

    「っ……! っ……」

     声が出ない。渦見の名前を呼ぼうとしても、喉が震えて、どうしようもなかった。指一本動かせず、ただただ硬直していると、奴らの内の一人が俺に向かって手を伸ばしてくる。
     俺に触れることで、位置を確かめでもする気なのか。
     いやだ、やめろ、来るな。
     触るな、怖い。俺に触るな!
     来るな、来るな、来るな!
     恐怖に瞼をぎゅっと閉じると、俺の隣から声がした。
     普段の明るい声とも、面倒くさくて気だるい声とも違う、無感情で這うような低音が聞こえた。


    「おい、触るな」

     渦見の声を聞いてからの記憶は、ない。

    *****

    「……夢見わる……」

     目を覚ますと、見知った天井が目に飛び込んできた。なんか、すごく嫌な夢を見た気がする。いや、夢かあれ? 現実か?
     こうやって朝起きてから思い出すと夢か現実かわかんねえんだよな。
     掠れた喉に、何度か咳をすると、頭が重いけど、特に肩が凝ったりも、何かの視線を感じることもない。隣に渦見の姿はないので、どこかに出かけたのかもしれない。
     まだ早朝だっていうのに、目が覚めてしまった。カーテンの隙間から差し込む光に目を細めながら、カーテンを全開にした。
     すると、洗面所に居たらしい渦見が、顔を出す。

    「あっ、笠原オハヨー、オハヨー」
    「おはよ。お前、なんで今日こんな朝早いの……」
    「昨日のコロッケ食べる!」
    「朝っぱらから油もんを……おい、フライパンで焼くな……ってうおおおお! 火柱!」

     どうやったらそんな小せえガスコンロで火柱出せんだよ!
     慌てて火を止めて、渦見を振り返った。

    「お前、コロッケが炭になったらどうすんだよ!」

     俺のどこかズレた言葉に、渦見はじっとこちらを見つめてきた。じろじろと、俺全体を見つめて、それから嬉しそうに微笑む。

    「あひゃっ、よかった!」
    「何が? お前ちょっとは俺の話聞け!」
    「コロッケパーン♪」

     鼻歌を口ずさみながら食事の準備を始める渦見に、俺は諦め、結局一緒に食事を取ることにした。
     一度目が覚めてしまうと、飯を食わなきゃ力が出ない気がする。
     渦見が焦がしかけたコロッケをおかずに、食事を終えて、歯を磨いていると、洗面所の鏡ごしに渦見が映っていた。相変わらず、黙っているとすげえ綺麗な顔してんな、としばらく鏡越しに見つめ合ってしまったが、謎の時間すぎたので俺の方から声をかけた。

    「……なんだよ」
    「お礼もらってなかった」
    「は? なんのお」

     礼、と言いかけた所で、渦見が俺の口を舐めてきた。いや、キスのつもりか? 歯磨きしている最中の人間にこんなことをしてくる奴は、正気とは思えないが、渦見だから、正気じゃないのかもしれない。舌が歯磨き粉塗れの俺の口の中を舐めると、べちゃ、と唾液と共に歯磨き粉が口の端から溢れ落ちた。
     唇が離れた瞬間、不服そうに渦見は眉間に皺を寄せた。

    「まずい」
    「どういうつもりだ」
    「またね」
    「おいっ、少しは説明しろ!」
    「笠原はぁ、俺といないとやっぱダメ!」
    「はぁ……」

     まったく要領を得ない渦見の言葉に、俺が首を傾げると、視界の端で鏡に何かが映った、気がした。
     けど、確認する前に渦見が手で潰してしまった。
     潰した、というより、鏡に映ったものなので潰しようがない。ただ手で覆い隠しただけだ。だというのに、ぐちゃ、と何かが潰れたような音がした。
     昨晩のことをうっすらと思い出して、俺は青くなりながら問いかける。

    「……なんか虫でもいた?」
    「うん? うん、邪魔なのがいたから潰した」
    「…………あ、そ」

     俺はそれ以上言及せずに洗面所を離れたので、その虫がどうなったかはわからない。
     けど、もし昨日見た夢が現実なら、渦見がどうにかしてくれたのかもしれない。
     洗面所から出てきた渦見に、俺は声をかけた。

    「渦見ー」
    「ん~」
    「ありがと」

     俺の言葉に、渦見は一瞬きょとんとした後、すぐに破顔しけらけら笑った。それから、突撃するように俺の背中にへばりついてきた。
     渦見の腕が、俺の腹に回る。

    「あひゃっ、変なの! ありがとだって!」
    「変なのはお前だろ」
    「笠原のが変! ひひっ……」
    「なんだよ、重いっ」
    「好き」
    「………………えっ」

     急に何、とか、突然どうした、とか、聞くことも笑いに昇華することも出来ず俺が硬直していると、目の前に居る渦見の目が、俺を捉えた。じわじわと頬や耳が熱くなってくるのを自分でも感じて、目を反らす。けど、渦見は目を反らさない。思えば、こいつから目を反らすところって、全然記憶にない。

    「俺、笠原が一番好き。俺の一番笠原にあげるね」
    「…………おお」
    「チューしていい?」
    「…………一回だけな」

     なんで、とか、今かよ、とか言いたいことはあったのに、気がつけば頷いていた。結局、なんだかんだいって、俺も渦見が好きなんだろう。
     小さく頷くと、渦見が唇を重ねてきた。

     もう、変な視線はどこからも感じられなかった。

    *****

     余談だが、大家さんに聞いたところによると、あのお化け屋敷は結構昔、それこそ数十年単位に昔、変な宗教団体が住んでいたらしい。
     謎の宗教団体は活動を活発化して信者を増やしていたが、一部の報告により、家の庭から遺体が発見され事件が露見。
     全員あえなく逮捕や離散、結構な事件になったものの、それが大きく広がることはなかった。
     やがてリフォームを重ね空き家として出されたが、その家に住んだ者は全員すぐに出て行ってしまうらしい。
     そうして、住む人の定着しない家は空き家になったので、自治体が家を解体しようとしたが、どの業者も怪我をして工事はままならなかった。
     ついでに言えば、全員が同じ夢を見て、必ず同じ箇所を怪我するので、誰も触れなくなったとか。
     
    「あの家から見つかった遺体ね、全員目がなかったらしいのよ。」

     いや、怖すぎるだろ。
     近所にそんな家があることが何より怖い。
     

    終わり
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