Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kisaragi_hotaru

    ガンマトとポプ受けの文章があります。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🙏 💞 💖 😊
    POIPOI 24

    kisaragi_hotaru

    ☆quiet follow

    サババデートしに来たはずが大変なことになるガンマト。そんなガンマトに巻き込まれるディーさんのお話です。獄炎とダイ大のネタバレ要素を含んでいます。マトが全然クールじゃない。IQ低めのゆるふわ小説。なんでも許せる方向けです。

    #ガンマト
    cyprinid
    #腐向け
    Rot

    そうだ サババ、行こう。 「久しぶりに来たぜ。サババ!!」
     「確かに。私は一度しか来たことはないが、相変わらず人が多い場所だ」
     「あー、その一度ってのはあれか、オレらの買い物を邪魔しに来やがったあの時か」
     「……根に持っているのかね? 大魔道士」
     「べっつに〜。そんなことより!」
     大魔道士と呼ばれた男はビシッと人差し指をその相手へと突きつけた。
     「大魔道士じゃなくて、マトリフ! そう呼べって言ったろーが!」
     「そ、そうだったな…………マトリフ」
     「えらく間が空いたな。なんだよそんなにオレの名前呼ぶのが嫌なのかよ、ガンガディア」
     マトリフは不満だとばかりに顔を顰めて自分よりも幾分と背の高い体格の良い男を見上げた。
     ガンガディアはトロル族の特別変異種デストロールである。本来ならばマトリフの優にニ倍以上ある身長は今この時は半分より少し高いくらいになっている。肌の色も若干色濃いくらいで人間のそれとまるで大差無い。服装も布の服を重ね着しており筋肉質な胸元や二の腕は晒されていない。普段なら身に付けている金の首飾りや腕輪も外している。どこにでもいるような至って普通の人間の男性の姿になっているガンガディア。それは試行錯誤の末に編み出したモシャスの応用であった。
     人間の姿とはいってもガンガディアの面影は残っておりマトリフの言葉に戸惑いの表情を浮かべる姿はマトリフのよく見知ったものとあまり変わらない。
     「せっかくのデートだってぇのに、大魔道士なんて呼ばれたらまた人違いされて囲まれてもみくちゃにされちまうだろーが」
     「君は紛うことなく大魔道士だろう」
     「ばぁか。今のご時世『大魔道士』つったら『大魔王バーンを倒した勇者一行の偉大なる大魔道士ポップ様』のことなんだよ」
     「彼は『二代目大魔道士』だよ」
     こちらはいつもの変わらない眼鏡をクイッと中指で押し上げてさらりと言い返すガンガディアにマトリフは肩を竦めた。
     「あー、はいはい。もういいよ。お前はブレねえなぁ。とにかく大魔道士呼びは禁止。……それともオレとのデートを邪魔されてもいいのかよ?」
     ガンガディアにとってマトリフはどんなご時世になろうとも大魔道士であることに変わりはない。そのことをくすぐったく思うマトリフだが、素直に喜ぶと堂々巡りになってしまうので、唇を尖らせて目を据わらせてガンガディアを見遣った。責めるような口調でありながら、暗にマトリフはデートを邪魔されたくはないのだと言っている。そのことに気付かぬほどガンガディアは鈍くはないし物分かりは悪くなかった。
     「分かった。私とてせっかくの君との、その……デートなのだから、無粋な邪魔が入るのは望むところではない」
     「……」
     デート。自分で言うのはともかく、改めて相手に照れながら言われると、マトリフは釣られて頬をうっすらと赤く染めて俯いた。
     マトリフとガンガディアはその昔敵同士だった。勇者アバンの仲間の魔法使いだったマトリフと、魔王ハドラーの側近兼参謀であったガンガディア。いろいろあって、本当にいろいろあって、二人は恋人同士という関係となって、今に至る。
     マトリフはすでに百歳を超えている年齢であり、実際何度も死の淵に立ったことがある。今のマトリフの姿は少し腰が曲がって顔にはいくつも皺があり確かに年相応といったふうに見えるが、実のところ本当の姿は――。
     「マトリフ。あそこではないのかね?」
     「おっ!よく分かったな。ここも随分と久しぶりだぜ」
     陽の差し込み方が他とは明らかに異なる扉を指し示したガンガディアにマトリフは笑みを浮かべた。噂通りならば知り合いの店主がまだそこでがめつい商売を続けているはずだ。
     扉を開けることなく突き進んでいくマトリフの身体が扉にぶち当たることなく吸い込まれるように消えていったその後をガンガディアもまた続いていく。
     幻の仕掛け扉は健在のまま。店内の棚に並べられている商品は幾つか目新しい物に変わっていてマトリフのイタズラ心を刺激してくる。
     「――お客さんかい?金は持ってんだろうな?」
     商品を眺めていた視線を声の主へと向ける。同時に奥の部屋から姿を現した隻眼の男はマトリフの顔を見るやその右目を大きく見開いた。
     「マトリフの旦那!! 随分と久しぶりだなぁ!! まーだ生きてやがるとはしぶてえなぁ!!」
     「そりゃお互い様だぜ、ディードック。憎まれっ子世に憚るとはオレらみたいなヤツのことを言うんだろうなぁ」
     悪態をつきながらも満面の笑顔で歩み寄ってきた男をマトリフもまた笑いながら悪態をつき返す。互いのことを悪党と呼び合うのは昔から変わらない。
     「ギュータの法衣じゃねえんだな?」
     「今日は完全プライベートで遊びに来てんだ。どうよ?この格好、町に溶け込んでんだろ」
     至って普通の布の服を着ている軽装なマトリフの姿を見てディードックは曖昧に頷くだけに留めた。サババの中でもとくに治安の悪い場所にあるあからさまに怪しげな店に入っている時点でとてもじゃないが町に溶け込めている普通の一般人には思えないが。
     まあ確かに表通りを歩いていたなら人畜無害な小柄な老人に見える格好ではある。尤も田舎者だと思われるとそれはそれで絡まれるので町に溶け込めるような格好といえばマトリフの衣装のチョイスは正しいものなのだろう。頭に帽子は被っておらず白髪はオールバックにしている。
     「今度のお連れさんもまたガタイがいいヤツだなぁ」
     マトリフの後ろに立っていたガンガディアを見てディードックはからからと笑った。
     「も?」
     「お前がサババに来た時にオレと一緒に買い物してたヤツ」
     ガンガディアが聞き返すとマトリフが答えた。すぐさま勇者一行の戦士を思い浮かべて「ああ……」とガンガディアは納得した。
     「あん時は不死鳥のかがり火を盗られてよぉ。まったく、お前さん旦那の連れならちゃんと止めてやってくれよ」
     「盗られ……?」
     「あー、うっせえなぁ!本体は残しておいてやっただろ。それにあの後金払いに来ただろうが!ちゃっかり三万!!」
     魔王討伐の恩賞として各国から与えられた報酬とパプニカ王国に宮廷魔道士兼国王の相談役として仕えていた際の給与で利子無し全額を支払ったマトリフ。性悪さを見知った仲ということもありマトリフが別に支払わなくてもディードックはマトリフを本気で恨んだりはしなかっただろう。それでもマトリフが支払ったのは当時魔王軍の拠点であった地底魔城を探し当てる重要な役割を事実担ってくれたからだ。
     「それで?今度は何を盗りに来たんだい?」
     「盗ること前提かよ! ちげーよ。サババに遊びに来たからついでに寄ってやっただけだよ。ありがたく思いやがれ」
     盗みはしないが買いもしないと言われたようでディードックはがっくりと肩を落とした。
     「まあ何か目新しい物があったら別だけどな。ちょっくら店内見させてもらうぜ〜」
     「はいよ。もう旦那の好きにしてくれよ」
     もはや諦めの境地であるディードックは、それでもマトリフとまた会えたことが素直に嬉しいのだろう、溜息一つですぐに笑顔になった。
     店内を歩き出したマトリフの後を付いて行こうとするガンガディアの方へと歩み寄ってディードックは気さくに話しかける。
     「そういやまだ自己紹介してなかったな。オレはディードックだ。マトリフの旦那とはずっと昔に同じ師匠のもとでしごかれてた仲よ」
     「私はガンガディアという。故あってマトリフと共に暮らしている」
     「へえ……って旦那と暮らしてる!?」
     「余計なこと教えてんじゃねーよガンガディア!!」
     マトリフが怒号と共に投げつけてきた物を容易く手で受け止めたガンガディア。壊れていないことを視認してからディードックへと手渡した。
     「うおおお売りモン投げねえでくれよ旦那ぁっ!!」
     「ふん!」
     マトリフは口をへの字にしてそっぽを向いて歩き出した。
     「連れがすまないね」
     謝罪するガンガディアを見てディードックは目を丸くした。
     「はぁーー……マトリフの旦那はあの通り滅茶苦茶だけどよ、あんたは常識人みたいで安心したぜ」
     感心したように言ったディードック。ガンガディアはなんとも言えない顔をして、離れたところではマトリフが吹き出していた。
     マトリフとガンガディアが同居していることについては店内商品の破損を危惧して追求することは止めたディードック。代わりにガンガディアの身体を上から下まで見遣った。
     「それにしても、オレもけっこう鍛えてんだけどあんたはさらに凄えな。鍛え抜かれた肉体美っつーの?」
     服の上からでも分かるがっしりとした体躯。綺麗な筋肉の付き方は明らかに自然に付いたものではないだろう。相当なトレーニングが必要不可欠であったことは想像するに容易い。
     「言いたかねぇけどオレはもうけっこうな年齢だしよ。今以上には鍛えるのはもう無理ってもんなんだわ。あんた今いくつだ?オレより年下っぽいけどそんなに大差ねえだろ?」
     「いや、私は……」
     鍛えられた肉体を褒められるのは悪い気がしないが正体を隠しているガンガディアからするとやはり複雑な気持ちになってしまいディードックからの問いに対してついに困った表情で言い淀んだ。
     「おい!ちょっとこっち来てこれ見てみろよガンガディア!!」
     そこへマトリフのガンガディアを呼ぶ声が割り込んだ。ガンガディアにとっては助け舟。実際マトリフはそのつもりで呼びかけたのだ。
     「ディードック。お前も客と世間話ばっかしてねぇで仕事しろよ仕事」
     「オレに会うためにここに寄ってくれたんだろ旦那ぁ!?旦那が話し相手になってくれねえからオレはよぉ」
     「百年後また来てやるからそん時にな」
     理不尽だとばかりに嘆くディードックにマトリフは悪気もなく言う。
     「百年後なんて生きてねぇよ!!」
     ディードックのさらなる嘆きの言葉に、マトリフは一瞬動きを止めて、顔を商品棚へと向けると独りごちるようにポツリと呟いた。
     「そうか……そうだな」
     マトリフの小さな肩にガンガディアの大きな手が置かれる。ゆるやかに力を込められたその今は人間の肌色の手に、マトリフは上からそっと自分の手を重ねて同じように力を込めた。






     「――それでよぉ、オレは見たんだ。港付近で眩い閃光が駆け抜けたと思った次の瞬間にはあの巨大な山を抉るように消し去っちまった。どうしたらこうなるんだって異様な壊れ方をしてた建物もその軌道上でな。襲ってきた魔王軍の連中の仕業だと巷では噂されてるが、違うね。あれは魔王軍と戦ってた勇者一行の魔法使いが放った鮮烈にして強烈な大呪文によるものだとオレは睨んでる。あれのおかげでサババから魔王軍を追い払えたんだ。間違いない」
     「そーかよ。そりゃまたすげえ魔法使いがいたもんだ」
     椅子に座って淡々と話すディードックにマトリフは素っ気なく返す。傍らに立つガンガディアからの視線は黙殺する。
     サババに到着した際に真っ先に目についたのが、それだった。綺麗に丸く抉り取られたかのような山の見事な異質さ。吹き飛ばされたわけでも燃やされたわけでもない。痕跡が全く見当たらず、消えた、としか言い様のないその有様。知らない者が見たならば正解などとてもじゃないが言い当てられないだろう。
     しかしディードックの言っていることは、まあぶっちゃけてしまえば『正解』であった。
     脳裏に浮かんだ愛弟子をしっしっと追い払ったマトリフは話を逸らすようにして呆れた顔をしてディードックに言う。
     「つーかお前よぉ、前の時もそうだったが魔王軍が攻めてきたってぇのに逃げろよ」
     「いやぁ、隠し扉は便利で良いんだけどよぉ。外側とちょっくら隔絶状態になっちまうのが困りどころでよぉ」
     頭に手を置いて笑うディードックの軽さにマトリフは本気の呆れ顔をして見遣る。
     「逃げ遅れてんじゃねぇよ。改善しろよ。天命迎える前におっ死ぬぞお前」
     「そのおかげでここを隠れ蓑にして仲間たちと療養できてたんだから旦那にとっては良かったことだろ?」
     「チッ……まぁな」
     自分以外まさに満身創痍だった仲間たちをここへルーラで運んで、魔王軍撤退後の数日間は回復のためにやっかいになっていた。
     その時のことを話していた二人だが、ふと思うところがあったらしいガンガディアからその時の詳細を求められ正直に話そうとしたディードックの口を塞ぐためにマトリフはまたしても商品を投げつけた。今度は当たった。







     それはあまりにも突然に――。
     マトリフとガンガディア、そしてディードックの唖然とした姿がそこにあった。
     ディードックは数回瞬きをして、閉じた瞼の上からゴシゴシと手で目をこすり、そして改めて開いた視界に映ったのは、背筋を真っ直ぐに伸ばした遠い昔に見た記憶の中にだけあるはずの若いマトリフと、青い肌と尖った両耳の巨大な体躯のトロルが、ふたり並んで立ち尽くしている光景だった。
     ディードックは、叫んだ。
     「はああぁぁーーーっっ!?!?」
     それはもう近隣住民から苦情が来ること必至な素っ頓狂な雄叫びを上げた。
     ――遡ること、ほんの数分ほど前のことである。
     「……お? へへっ、おら! 捕まえたぜ!!」
     そう言ってマトリフは手に持った手錠を傍らに立っていたガンガディアの手首へと掛けた。
     カシャン、と無機質な金属音を立ててはめられた銀色の手錠。冷たい感触を受けて自らの腕を持ち上げて手首を見下ろすガンガディア。
     「お前には昔何度も追いかけられたし挙げ句捕まった時には散々な目に合わされたからな。今度はオレがお前を捕まえてやったぜ〜」
     してやってりとばかりにニヤニヤと悪どい笑みを浮かべてそう言うマトリフの方こそがよほど捕まりそうな顔をしていたが。
     ガンガディアは本日何度目かも知れない複雑な表情をして言った。
     「あの時のことは……君に酷いことをしてすまなかったと反省している。しかし、後悔はしていない」
     返された言葉と真摯な眼差しにマトリフは意表を突かれて「うぐっ」とたじろいだ。
     ガンガディアは鎖の先、マトリフが持っているもう片方の手錠の輪を奪うとそれをマトリフの手首へと当てて、一転して先程のマトリフと同じかそれ以上の凶悪な顔つきに変えて、
     「君も、また私に捕まってもらおうか」
     そう言って力を込めて輪を押し込んだ、その瞬間、ディードックの切羽詰まった声が響き渡った。
     「ダメだッ!! やめろぉッ!!」
     カシャン。
     「「……え?」」
     刹那、手錠から眩い光が迸り、反射的に目を閉じたマトリフとガンガディア。
     ボワンッ。ボワンッ。
     さらに今度は周囲に煙が立ち込めた。まさか何者かの襲撃を受けたのかと二人は咄嗟に身構えたが、ふと先程の音と霧散しかけている煙には見覚えがあって内心で首を傾げつつ顔を顰めた。
     おさまっていく光に細めていた目をゆっくりと開けていく。煙も完全に消えて視界がクリアなものになっていく。
     マトリフとガンガディアが状況を確認しようと互いに互いのことを見ようとした矢先に、違和感を感じた。
     マトリフの視界に映ったのは、青色。
     「あん?」
     なんだ?と思いながら目線をスーっと上へとスクロールさせていくマトリフ。
     はた、と視線がかち合った。見上げるマトリフと、見下ろすガンガディア。先程までと変わらない構図のはずなのに、マトリフは倍近く高い位置を見上げることになり些か首が痛くなった。
     「んん?」
     マトリフは目を眇めた。錯覚か。ガンガディアの姿が元の、つまりデストロール本来の姿に見える。着ている服も見慣れた袈裟だった。
     「……は?」
     マトリフは目を丸くした。薄く開いたままの口から間の抜けた声が漏れた。
     ガンガディアもまたマトリフを見つめたまま固まっている。その眼鏡のレンズに反射して映り込んでいたのは、若いと言うにはそれほどではないが実年齢を思えば遥かに若いであろうくらいの年齢と思われるマトリフの姿。その身に纏っているのは明らかに法衣だ。
     不意に、ディードックの切羽詰まった声がマトリフの脳裏に蘇った。
     『ダメだッ!! やめろぉッ!!』
     確かにそう聞こえた。
     そこでマトリフはおそるおそる首を動かして、声のした方へと顔を向けた。
     カウンターテーブルを挟んで向こう側にいるディードックは数回瞬きをして、閉じた瞼の上からゴシゴシと手で目をこすり、そして改めて開いた視界に映った光景を再確認して、そして声を大にして叫んだのであった。
     反射的に両手で耳を押さえようとしたマトリフは途端にカチャリと音を立てて腕を引っ張られたことでそちらに目を向けた。
     マトリフの手首に付いている銀色の手錠。その輪から連なる鎖を辿っていくとすぐに行き着いたのは青色の太い手首に付いている同じく輪。
    マトリフの右手首とガンガディアの左手首が手錠で繋がれていた。
     確かに手錠をかけた覚えは互いにある。それはいい。いや、よくはないが、それよりも、だ。
     「なっ、なんでモシャス解いてんだお前ッ!?」
     常になく緩やかに動いていた脳がようやく事態を把握した途端にマトリフはぎょっとして声を荒げた。
     「いや、私は解いてはいないのだが……これはいったいどういうことだ?」
     ガンガディアもまた戸惑いながら自らの格好を見下ろして顔を顰めた。ガンガディアのモシャスは精度が高い。魔法力が尽きたわけでもなく自らの意思とは無関係に勝手に解けることなどは有りえなかった。
     「それに私だけではない。君もモシャスが解けてしまっているぞマトリフ」
     「ああくそっ! やっぱりか!」
     ガンガディアに指摘されてマトリフは頭を抱えて呻いた。手を動かす度にいちいち耳につく金属音がうっとおしく思えてきた。舌打ちをする。冷静になれと自分に言い聞かせるが、さすがにこれは緊急事態だ。
     「……マトリフの旦那……」
     ディードックの困惑した声に、ぐっと息を詰まらせたマトリフはややあって深く溜息を吐き出した。
    もはや誤魔化すことも難しい。このままルーラで逃げてもう二度と会わない選択肢もあっただろうが、そうするにはマトリフのなけなしの良心が痛んだ。さすがにマジで軽蔑されるかもな、と思いながらもマトリフは意を決してディードックへと身体ごと向き直った。
     「すまねえなディードック。お前を……騙してた。見ての通りオレは百歳超えちゃいるが本当はこんなナリだし、コイツも……本当は人間じゃねぇ」
     オールバックにしていたはずのマトリフの前髪はモシャスが解けた際に下りてしまって今は白というより銀に近い色をしたそれがさらりと額を掠めた。こめかみの横で揺れる長めの白銀の髪だが、襟足は黒髪になっている。
     「私はデストロールなのだよ。私からも謝罪しよう」
     ディードックはわなわなと震えながら片手を持ち上げていく。
     ガンガディアは目を伏せて罵声を覚悟した。甘んじて受けようと思った。自分が恐怖の対象として見られることには慣れている。自分は構わない。ただそのせいでマトリフが奇異な目で見られるようになってしまうことは嫌だった。マトリフとディードックは仲が良い。ほんの短い時間だけだがガンガディアはそのことをよく理解できた。故に残念に思えた。
    店内の空気が通夜が如く深く沈み込む。
     ディードックは人差し指をマトリフとガンガディアへと突きつけて、
     「それ……」
     否、正確にはマトリフとガンガディアを繋いでいる手錠を指差しながら、掠れた声を絞り出した。
     「その手錠は……っ」
     「ん?ああ、これは誤解するなよ、別に盗ろうとしたわけじゃねぇよ。興味本位で遊んでただけで……、ほら、すぐに外すからよ」
     慌てて商品棚に手錠と一緒に置かれていた小さな鍵を手に取り先ず自分の手首に嵌められている輪の鍵穴へと差し込んだマトリフ。
     鍵を回してカチッと音が鳴ったらはい外れた、とはならなかった。
     「えっ!? なんだこれ!? 鍵が回せねぇ……っ、手錠が外せねえぇ!?」
     「なんだと?」
     マトリフの焦った言動を見てガンガディアも自分の手首に嵌っている輪を外そうと鍵を使用したが、確かに外せない。
     「「…………」」
     物凄く嫌な予感がしてマトリフとガンガディアは同時にディードックの方へと顔を向ける。
     つぅ、とディードックの青褪めた顔に冷や汗が流れた。
     「それは……っ」
     「「それは?」」
     マトリフとガンガディアは固唾を呑んだ。
     そして、ディードックは言った。
     「セックスしないと外れない手錠だ」






     ――昔々あるところに仲睦まじく寄り添う恋人同士の二人がおりました。愛し合う二人は毎日幸せそうにしているように人々の目に映っていました。けれどそんな二人には悩みがあったのです。自分が相手を愛しているのと同じくらい相手も自分のことを愛してくれているのか。幸せに思える時間が長く続けば続くほどに相手から与えられる愛情がいつか冷めてしまう時がきてしまうのではないかと不安もまた大きくてなっていってしまったのです。一人は考えました。想いを確かめる方法を。一人は考えました。ずっと離れることなく一緒にいられる方法を。一人は探しました。真実を曝け出すアイテムを。一人は探しました。永遠に繋ぎ止めておけるアイテムを。そうして二人は見つけ出したのです。究極の愛の秘宝を――。
     「それがこの『セックスしないと外れない手錠』ってわけだ」
     「なにが愛の秘宝だ!! 呪いのアイテムじゃねえかぁっ!!」
     締め括ったディードックに声を荒げて叫んだマトリフ。
     テーブルをバンッと強く叩いた際に手首に嵌ったままの手錠が金属音を奏でてマトリフはそれを見て盛大に顔を歪めた。そのままの顔でディードックに向き直ってキッと睨みつける。
     「こんな物騒なモン置いてんじゃねーよ!」
     「オレのせいかよ!? いやいや買ってこうとするヤツには念の為説明しておこうと思ってたさ。まあ説明の前に値段聞いたらすぐ止めちまうけどな。はぁ、旦那が勝手に使うなんて思わなかったんだよ。そもそもなんで使ったんだよ?オレがちょっと席外してる間に二人で何やってんだよ?」
     「そ、それは……っ、その……」
     口ごもるマトリフに代わってガンガディアが答える。
     「出会って間もない頃を思い出してね。昔は私がマトリフを追いかけて捕まえようとしていたので今度はマトリフが私を捕まえようとしてくれたのだよ。私も興が乗ってしまってね。売り物であることを失念してしまっていた。本当にすまない」
     「いや、ホントに何やってんだよ?」
     というか昔いったいどういう関係だったのかとディードックは怒りよりも呆れのほうが勝ってしまっていた。肩を落として改めてマトリフとガンガディアを見遣る。
     「マトリフの旦那……マジで若返ってんだな」
     「……まぁな」
     「んでガンガディアは実はモンスター……なんだ?えっと」
     「デストロールというトロル族の特別変異種だ」
     「へぇ。レアモンスターなのか」
     「レアどころか激レアモンだぜこいつはよ。おそらく今の世界にたった一体しか存在してねえ」
     大魔王との大戦時に行方知れずとなった小さな勇者を探すために魔界へと赴いていた愛弟子からデストロールとは遭遇していないと聞き及んでいたマトリフはそう言った。
     「なんだそれやべぇな」
     「やべぇだろ」
     「…………」
     ガンガディアはなんともいえない顔で二人のやりとりを見ていた。ディードックからは危惧していた恐怖感や嫌悪感は感じ取れない。むしろ物珍しさにマトリフと一緒になって興味津々といった様子でガンガディアを観察してくる。
     その眼差しが不意に別の探るような不思議な変化をしたことでガンガディアはひとつ瞬く。
     ディードックは首を左右に何度も傾けながらガンガディアを凝視している。
     「ガンガディアって前にも見たことがある気がすんだよなぁ」
     そう言って思い出そうとうんうん唸っているディードックにガンガディアはなんとなしに言う。
     「サババへは過去に一度訪れただけだが……」
     その時は魔王軍としてサババを急襲したのでガンガディアは続く言葉を飲み込んだ。さすがに言えるわけがない。
     しかし、
     「あっ、ああーーっ!! 思い出したぜ!! あんたあの時トベルーラでマトリフの旦那を追っかけてたヤツか!!」
     ガンガディアは瞠目した。何故ディードックがあの時のことを知っているのか。マトリフの方をバッと振り向いたガンガディア。
     「あー……そういやぁ、トベルーラでこの店の前通り過ぎた時にコイツと鉢合わせてたっけな」
     マトリフもまた思い出したとばかりに手をポンと打つ。同時に嫌な鎖の音がしてそのことも思い出して顔を顰めた。
     「すげえ形相で猛スピードで駆け抜けていったからよぉ、オレぁもう思わず腰が抜けちまったよ」
     「隠し扉から顔だけ出してこっち見てやがったが、お前は気付かなかったのか?」
     「……すまないが記憶に無いな。君だけを見て全力で追っていたものだから」
     「……そうかよ」
     マトリフはそっぽを向いた。その不自然さにディードックは二人の顔を交互に見遣るとマトリフの顔を見て動きを止める。
     「どうした旦那? 顔が赤いぜ?」
     「うるせぇよ! そんなことよりもコレだ! コレ!!」
     カシャン、と音を立てて右手を振り上げたマトリフは心底うっとおしいとばかりに鎖を左手で掴んでガンガディアを見上げた。
     「こんな鎖さっさと引き千切っちまえ!」
     もはや売り物という概念を捨て去って実力行使に出た二人に、しかしディードックは焦って止めることなく「あ〜」と気のない声を漏らした。
     ガンガディアの大きな手が細い鎖を掴み取る。30センチほどの長さの金属製のそれを両手で握り締めて、グッと力を込めて左右逆方向へと勢いよく引っ張った。
     鈍い金属音を鳴らしたが、それは鎖が引き千切れた音ではなかった。
     「…………」
     「……本気でいけ」
     「了解した」
     頭と手に青筋を浮かべてガンガディアは今度は容赦なく鎖を引き千切りにかかる。
     鎖が軋む耳障りな音を何度か聞いた後、形を保ったままの鎖を見てようやくマトリフとガンガディアは悟る。
     「おい、ディードック……」
     「そいつはオリハルコン製なんだわ」
     「世界最高素材の無駄遣いッ!!」
     マトリフは叫んで再度テーブルに拳を叩きつけた。貧弱な魔法使いの打撃なので幸いテーブルが壊れる心配はない。
     神々は何を考えてこんな物を創り給うたのか。神々の気まぐれかいたずらか、まんまと振り回されている自分の迂闊さにマトリフは自己嫌悪してしまう。
     その後、呪いの類ならばとシャナクを試そうとしたところ、そこでさらにマトリフを愕然とさせる事実が発覚した。
     「うっそだろ……呪文が使えねぇ……」
     「私もだ」
     積んだ、とマトリフはテーブルに突っ伏した。
     オリハルコンには呪文が通用しない。それとは別にこの手錠にはマホトーンと類似した効果が備わっているのだろう。普通に話すことはできるし呪文を唱えることもできる。しかし、呪文は発動してくれない。つまり、メドローアも使えないということだ。最終手段として使わなければいけないことも視野に入れていたがそれは無駄になってしまった。
     最終手段といえばもういっそのこと潔くセックスすることなのだろうが、マトリフはガンガディアの方へとちらりと視線を向けて、しばし熟考した後「うん、無理」と真顔で呟いた。問題は精神的なものではなく物理的なものである。
     「君の弟子にメドローアを使ってもらうという手もあるのでは?」
     過去にマトリフの放ったメドローアで消滅させられかけた男の提案とは思えないが、実のところその時のことがトラウマになっているのはむしろマトリフの方だった。ガンガディアからすれば思いもよらないことだろうが。
     マトリフは顔を背けてテーブルに突っ伏したままくぐもった声で答えた。
     「手錠を消すことは可能だろうが。合流のしようがねぇんだからどうしようもねぇ」
     試しにリリルーラを唱えたがやはり不発に終わる。
     「弟子? え、弟子なんていたのかよ旦那? 弟子は取らねえ主義だって言ってなかったか?」
     ディードックが片目を真ん丸にして驚きながら聞いてくるがマトリフはそれを適当にあしらってなんとか良い方法はないかと脳をフル回転させる。
     そんなマトリフの思考を完全に停止させる一言をガンガディアは言い放つ。
     「私と性交をしようマトリフ」
     ぶっ!!マトリフとディードックが同時に吹き出した。
     ガバッと勢いよく顔を上げたマトリフ。固まってしまったディードック。二人の視線の先には至って大真面目な顔をしているガンガディア。
     「な、な、何言って……」
     「私と性交を」
     「繰り返すんじゃねえバカヤロウ!!」
     「すまない。しかしこのままでは埒が明かないのでは?解錠する方法は分かっているのだからこの際その方法でいくしかないと私は思っているよ」
     ガンガディアの言い分は確かに正論だ。マトリフとしてもその方法で問題なければそれを決行しているところだ。しかし、
     「……できるわけねぇだろ」
     マトリフは唇を噛みしめて俯き、ややあって小さく呟いた。
     「なぜ?」
     ガンガディアの静かな短い問いかけに、カチン、と自分の頭の中で音がしたのを聞いたマトリフは再三に渡りテーブルに両手を叩きつけると同時に今度は勢いよく立ち上がった。その拍子にマトリフの座っていた椅子が後方に大きく傾いていき音をたてて倒れる。
     マトリフは手錠のしていない左手を振り翳してビシィッと人差し指を無遠慮にガンガディアの股へと向けて突きつけた。
     「てめぇのそのデカブツがオレに入るわけねぇだろうが!! 今はモシャスが使えねぇんだからいつもみたいにできるわけねぇんだよ!! それくらい分かれよッ!!」
     シン、と静まり返った室内にマトリフの荒い呼吸音だけが繰り返される。
     しばらく続いた沈黙を破ったのはガンガディアだった。クイッと眼鏡を中指で押し上げて溜息混じりに言葉を紡ぐ。
     「なるほど。よく分かった」
     デストロールの体格と重量では人間用の椅子に座ると壊れてしまうため一人立ったままだったガンガディアは不意に左手を勢いよく引いた。必然的に手錠で繋がっているマトリフの右手が引っ張られたことにより突然のことにたたらを踏んだマトリフの身体は前のめりになってガンガディアの綺麗に割れた腹筋へと向かい倒れ込んだ。
     マトリフが文句を言うために口を開きかけたが、それよりも早くガンガディアがマトリフの小柄な身体をひょいっと抱き上げたことで文句の代わりに驚いた声が上がる。
     「うおっ!? なっ、ちょっ、おい!?」
     「すまないが、空いている部屋があったら使わせてもらいたい」
     狼狽えているマトリフに構わずガンガディアはディードックへと声をかけた。
     そう、ディードック。
     暴れていたマトリフの動きがピタリと止まる。ザァーーッ、と一気に血の気が引いていく音がした。
     「……あ、奥の突き当たりにある部屋なら……」
    イイカナ、と片言になってしまっているディードック。まるで機械のようにギシリギシリとぎこちない動きで指をカウンターテーブルの向こう側へ向ける。
     「感謝する。それからもう一ついいかな?」
     ガンガディアはマトリフを抱きかかえたまま歩き出す。
     「できれば、今日はもう閉店してもらえると助かる」
     「え?」
     「君もしばらくは外へ出ていたほうが賢明だ」
     「へ?」
     「私たちはこれからこの手錠を外す。少々手荒になってしまうが致し方ない……」
     ――煽った君が悪いのだよ。
     身を屈めてマトリフにだけ聞き取れる小声で囁いたガンガディア。
     奥の部屋へと消えていく大きな後ろ姿を見送ってディードックはしばし呆然と椅子に座り込んでいたが、件の部屋からマトリフの喚き声が聞こえてきたことを皮切りに光の速さで外へと飛び出した。
     全力で駆けるディードックの向かう先は酒場である。まだ上空に太陽が燦々と輝く時間帯だが構うものか。飲まなきゃやってられない時もある。ディードックは泣き叫びたい衝動を押し殺して走り続けていた。
     しかし曲がり角を勢いのまま曲がった直後に、ドンッ!!と前方に現れた人影と正面衝突してしまった。
     ディードックは大柄な男だ。対してぶつかった相手は細身の若い青年だった。衝撃で後方に吹っ飛んだのは当然相手の青年の方で、「うわっ!?」と驚いた声を上げた後に地面に背中から落ちて「ふぎゃっ!!」と立て続けに悲鳴を上げた。
     さすがにディードックは我に返って慌てて青年の側へと駆け寄った。
     「すっ、すまねえ!! 大丈夫か坊主!?」
     「いってぇ〜~ッ」
     強かに打ち付けた背中が痛むのか顔を顰めながらすぐには起き上がれずにいる青年にディードックは手を貸してゆっくりと助け起こした。
     「本当に悪かった。目眩とかしてねぇか?」
     「あー、うん、平気だよ」
     跳ねている黒髪の頭を手で押さえてゆるく振った青年はすぐにケロッとして笑みを浮かべた。
     立ち上がった青年は身に纏っている緑色の旅人の服に付いた土埃を手でパンパンと払い落としてから顔をディードックへと向ける。身長差故に見上げてきた青年の額に巻かれている黄色いバンダナの端が愛嬌のある顔の横でひらりと揺れた。
     「オレの前方不注意のせいですまなかったなぁ」
     「そんな何度も謝んなくていいって! おれは、ほら、なんともねぇからさ」
     腕をブンブンと振り回したりその場で飛び跳ねたりして本当に大丈夫だと主張してくる青年に、ディードックはようやく肩の力を抜いた。
     「それよりアンタ急いでたんだろ?おれのことはもういいから行ったほうがいいぜ」
     力を抜いた肩をそのままガックリと落としたディードックの様子を見て青年はぎょっとした。
     「お、おい?どうしたんだよおっさん?」
     「いや、違うんだ……オレぁ、酒場に行こうと」
     「は? 酒場? え、なに、もしかして飲みに行こうとしてたのか?まだこんな真っ昼間なのに?」
     「…………」
     ずーん、と深く沈み込んだディードックを黙って見つめていた青年は少し考え込む素振りをしたかと思うと、察したと言わんばかりに頷いた。
     「そっか。よし!ここで会ったのもなにかの縁だ!おれがとことん付き合ってやるぜおっさん!!」
     「え?」
     ディードックは驚いて青年の顔をまじまじと見返す。
     「付き合うって……」
     「ヤケ酒!!」
     「いや、でも、坊主……」
     「坊主じゃねえよ! おれもうとっくに二十歳超えてんだからな!」
     「マジか」
     ディードックは目を丸くした。
     どいつもこいつも、若さの秘訣があるなら教えてもらいものだ。そう思ったディードックは思いきり頭を振って雑念を追い払う。
     「だから遠慮すんなよ! こう見えておれってば聞き上手なんだぜ。なんっでも話してくれよなぁ〜」
     親指を自分に突きつけて大きく胸を張る青年。明るくおどけているかのようで、それでいて力強い、ディードックはその頼りになるのかならないのかよく分からない不思議な雰囲気にむしろ今は救われるような気がした。
     「ふっ、ははっ、よーし! それなら付き合ってくれや! オレの奢りだ! お前さんも遠慮しなくていいぞぉ!」
     「そーこなっくっちゃあ! よし、行こう!!」
     「行こう!!」
     ディードックは青年と並んで意気揚々と歩き出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺😂😂🙏🙏💖💖💖😊😊😊😊💯💯💯💯👏👏👏👏👏☺💴☺☺☺💘☺☺☺☺☺☺❤❤❤❤☺☺❤☺☺☺☺✨✨💘💘😂😂😊😊😊😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kisaragi_hotaru

    DONEガンマト前提で破邪の洞窟内でわちゃわちゃしてるポプとラーとヒムちゃんのお話です。ネタバレ捏造妄想満載なのでご容赦くださいm(_ _)m
     ズドォン、と相当な重量音を轟かせて巨大なモンスターが地に沈んだ。
     完全に動かなくなったモンスターの側でたった今決め手の一撃を食らわせた人型の金属生命体が銀色の拳を振り翳して声を上げた。
     「よっしゃあ!!」
     「ナイスだぜヒム!!」
     少し離れたところからポップが嬉々として声をかければヒムが振り返って鼻を指先で擦りながら「へへっ」と笑う。
     「おめえのサポートのおかげだぜ。ありがとよポップ」
     「確かに。あのままではオレもコイツもこのモンスターに手傷を負わされていたところだった」
     ヒムの側で魔槍を携えて軽く息を吐き出しながらそう言ったのはラーハルトだ。その目線は屍と化したモンスターを見下ろしている。
     ここは破邪の洞窟。その最下層近くまでポップたちは来ていた。大魔王との決戦からすでに20年の年月が経っていた。行方知れずになっていた小さな勇者が魔界から地上に帰還してからしばらくは慌ただしい日々を過ごしていたが、今は至って平穏な日常が繰り返される世界となっている。
    4578

    related works

    recommended works