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    お題を得て800字程度の文を書くってやつで、試しにド王道なやつを書いてみてみたら結構好きな感じになったやつ。
    なるべく毎日文章を書く習慣をつけるために戒めとして晒す。

    ##800字トレーニング

     幼い頃から俺は、いわゆる“陰”の人間だった。
     運動が苦手で、反応が遅くて、やせっぽちで。でも身長ばかりはぐんぐん伸びるものだから、ついたあだ名は“電柱”。道端にひょろっと立っていても誰も気にとめず、素通りをするか、むしろ邪険にされることさえある。今思えばまぁなんとも的を得た名前だ。当時自分に自信の欠片も無かった俺は、確かに人の目を避けるようにして生活していたから。
     しかし人間にはある日突然、まるで天啓のように転機が訪れることがある。

     短く刈り上げた黒髪に、不敵に細められた猫目。しなやかな筋肉がついた身体は小さいながらも圧倒的な存在感を放つパフォーマンスを披露し、心地よいテノールで紡いだ歌声は聞く人全てを魅了する。
     あの日、特に意味も無く行っていたネットサーフィンの最中。たまたま再生した動画に出てきた君は、まさしく俺にとって人生の転機であり、この暗い世界に差し込んだ太陽だった。

    「だからね、俺、頑張ったんだよ」

     君の隣に立ちたいとまではいかずとも、君に恥じないような人間になりたかった。ファンの1人として、心を奪われたひとりの男として、変わろうと思った。
     嫌いな運動を頑張って、筋肉や体力をつけた。避け続けていた他人の目線に向き合って、人とのかかわり方を覚えた。その中で、俺が思っていたよりも他人は人のことなんか見ていないってことに気が付いて、とても息がしやすくなった。
     君に憧れて、俺が動画配信を始めるまでにもそれほど時間はかからなかった。歌を歌ったり踊ってみたり。君と同じ世界にいるのだという感動と、あと君が俺を見つけてくれたらという少しの下心。君の姿を追いかけて必死な時間は、すごく充実していて幸せだったんだ。
     そう。幸せ“だった”。

    「頑張って頑張って頑張って、君が俺の動画にコメントをしてくれた時。俺、死ぬほど嬉しかった」
    「とうとう君に認知されちゃったって。大好きな人から、視線を向けてもらえたって」
    「しかもその後、DMでおしゃべりして盛り上がって、連絡先を交換したよね」
    「プライベートの時間で遊んだり絡んだり。こんなのもっと好きになっちゃうよ」
    「なのに、なのに」
    「なんで、目を逸らそうとするの?俺のこと、どうでも良くなっちゃったの?」
    「なんで俺とじゃなくて、あいつらとコラボするの?俺だって声かけてたのに、俺にはオッケーしてくれなかった」
    「ねぇ、“くろ”。なんで?」
    「なんで? ねぇ、なんで? なんで、なんで」
    「や、やめっ……!」

     俺のよりも1回り以上小さな掌を床に縫い付けて、その黒曜石を真正面から覗き込む。
     君は我武者羅に身体を捩るけど、体格の差は歴然。もし俺が過去のままだったらチャンスがあったかもしれないけれど、俺は君の為に変わってしまった。だから、君は絶対に逃げられない。
     暗い部屋の中でも分かるほど、君の顔にはっきりとした怯えの色が浮かぶ。そんな表情も可愛いけれど、出来れば俺は君に笑っていてほしい。だって俺は、君の不敵な笑顔に惹かれたんだから。

    「大丈夫だよ、くろ。俺はちゃんと、君を見てる」
    「ひっ、ぁ」
    「だから、君も俺を見て。俺だけを見て。それで、ちゃんと話し合って決めよう。俺たちのこれからのこと」

     そっと唇を寄せた眦は、しょっぱい味がした。
     
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