綺麗だ、と思った。
どこまでも透き通った黒曜から溢れ出したそれが、少しずつ大きくなっていく。
きらきらと光を反射させながら縁から零れ落ちて、まろやかな曲線を滑る。誰にも気づかれないように、本人さえも気づいていないかのように、静かに、ただ静かに。
そうして出来た一直線は、どこまでも一途だった。けっして揺らぐことなく、留まることなく、真っ直ぐな跡を残した。……まるで、彼の柄のように。
「……ふ、っぅ」
ちいさな吐息が、がらんどうの教室に響く。
ついに限界を超えた彼は、その腕で顔を覆おうとした。俯いて隠した目元に向かって、半袖シャツからのびる小麦色が、ふわり持ち上がる。
それを軽くいなし止めてから、俺はつとめて優しく、彼の身体を掻き抱いた。