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    初書きオリジナルのBL文。
    同棲している男子大学生ップルの日常(プロローグ)

    かわいい子には飯を食べさせたい病なので、練習も兼ねてだらだら続けていきたい。

     まだ夏前といえど、最近は6月にもなれば十分暑い。
     むしろこの湿気の多さが厄介で、べたべたと衣服が肌に張り付くような感覚が気持ち悪くてどうも苦手だ。
     いくら薄手で夏用とはいえ、長袖のシャツを羽織ってきたのは間違いだったと、思わず空を仰ぐ。

     京の町は、景観との兼ね合いで一定の高さ以上の建物が建てられない。だから、都会であるにも関わらず空はわりと開けていて、山の向こうまで続いているのが良く見える。
     けれど、ほとんど星は見えないし、濃紺に染まりきることもあまりない。だからいつも、ほんの少し、時間の感覚が狂う。
     しぶしぶスマホの電源を点けて、ブルーライトに目を晒す。デジタル表示が示す数字は……に、さん、ご、はち。

    「うわ……もう日またぐじゃん」

     明日1限あるのに。最低でも6時間は寝たいのに。
     苛立ち紛れにサイドボタンをぐ、と押し込んで、すぐポケットに突っ込んだ。

     
     
     〇――〇――〇――〇

     
     
     今日は、ゼミの親睦会だった。
     俺が所属する大学は、2年次からゼミ活動がはじまる。正確には、2年次に仮所属をして、3年次で正式所属、そして4年次は3年の持ち上がりだ。なんでも、大学が研究活動に熱心なのだ。多くの先行研究を学び、自分の主張を持とう。情報を鵜吞みにするのではなく、吟味する力を身に着けよう、と。
     理系の学部が研究活動で忙しいというのはしばしばよく聞かれる話で、医学部や栄養学部、工学部などは、すでに1年の後期からゼミや研究室への配属が完了していた。そこから少し遅れて、1年の春休みに文系学部やその他学部のゼミ抽選会が行われる。そして年度が替わり、2年次からすべての学部でゼミ活動が始まる。
     2年次が仮の所属であるのは、途中で希望研究分野が変わるというのがままあるからだ。ゼミで実際に論文を読んでみたら何か思っていたのと違った、こんなに難しいとは思わなかった、もっと興味を感じる分野を見つけた、等々。むしろ、最初から最後までおなじものを見つめ続けている人の方が少ないよと、担当教授は笑って言った。
     それでも、なんとなく。普通の講義とは異なるのがゼミだ。学級という概念が無い大学生活において、1年。長ければ3年にわたって毎週顔を合わせるという機会は、そう易々とあるわけじゃない。サークルに所属しているならまだしも、数日間にわたって人と会話をしないなんてことがザラに起こるこの箱庭は、存外シビアな世界なのだ。せっかくの機会に新たな人脈を、情報を交換できる相手をと、誰もが少し積極的になるのは当然かもしれない。そして、仲良し揃ってゼミを選んだらしき女子グループの、一際華やかな彼女の一声で全員参加の親睦会が決定したことも、必然だったのかもしれない。

    「最っ悪……」

     呟いた声が、掻き消えることなく耳に戻ってくる。涼を求め静寂を求め、気付けば鴨川沿いを歩いていた。
     つい数分前まで居座っていた向こう側は、光と喧騒で溢れかえる夜の街。華金を満喫するサラリーマンと、自分たちのような学生グループがひしめき合って、体感温度は2度増していた。
     けれどいつの間にか、もう随分と遠くまで来たらしい。鬱蒼と茂る街路樹が生温い風に吹かれて揺れている。俺はありったけの空気を吸い込んで、たっぷり6秒かけて吐き出した。
     
     今日はもともと、スーパーの特売に行く予定だったのだ。
     「あ、卵無くなっちゃった」とつぶやいた同居人が、続けて買い出しの付き添いを申し出てきた。1パック10個入り、おひとり様限定1パック100円の卵も、2人なら2つ買える。それで今晩は、オムライスの予定だった。
     夕飯を外で食べることを彼に伝えてから向かった親睦会の会場は、まぁよくあるチェーンの居酒屋で。唐揚げとか焼き鳥とか、これまたまぁ無難なメニューを注文して、適当な酒を舐めた。梅酒サワーとねぎまともやしのナムル。BGMは知らない女子学生たちの囀りで、もちろん、オムライスは無い。
     空気と一緒に吐き出すつもりが、依然まったく胸に広がり続ける感情は、既にいろいろ混ざりすぎていて明文化できない。長時間にわたって人混みに居たことによる疲れ、酒による気分の高揚、明日への憂鬱と、好物を食べ損ねた悔しさ。
     そしてなにより、俺の生活を、俺と同居人の予定を狂わされたことに、途方もない怒りが湧いていた。強制参加の親睦会って何? 俺にとって、世界で一番大切な時間を割かせてまでやったことが、それ?

     視線を落とせば、腕を広げたような大きな影が縦横無尽に動いていた。そして一等暗いその場所に、小石がひとつ、転がっていた。
     靴底で数回撫で転がし、石畳の隙間に入ってしまわないように注意しながら留め置く。左足を軸に少し右足を引いて、そのまま思い切り振り抜いた。

    「ないっしゅー」

     そこそこ勢いよく飛んでいった小石が止まるのと、俺が顔を上げたのは同時だった。
     俺の数メートル先で小石は、よく見慣れたスニーカーによって止められていた。

    「今日暑すぎて寝付けなくてさ。アイス買いに出ちった。みて、パルムべりー味だって。早く帰って食べよーぜ!」

     あと、おかえり!
     いくら京の夜空が明るくても、人工光が煌めいていても。思い切り抱き込んでしまったせいで、彼の笑顔は見えなかった。
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