喜怒哀楽彼は悲しかった。
悪友との下らない喧嘩に夢中になっていたせいで、彼女からの誘いに気づかなかった。
「声をかけたのだが…」
もらったという珍しい菓子を食いそびれたことよりも、彼女との時間もふいにしてしまったことが、何よりも、自分で思っていた以上にショックだった。
彼は嬉しかった。
「せっかくだから貴方の分も置いておいたのだ」
と、いそいそと彼女はお茶の用意をする。
誘いを無下にした自分のことなど、放っておけばいいのに。一緒の時間を過ごせることよりも、彼女が自分のことを考えてくれたことが、予想外に胸を温かくした。
彼は怒った。
先ほど口に入れた菓子は彼女のことを好いているらしい男からの差し入れだそうだ。
「応援してくれるというのは嬉しいものだな」
彼女が笑うと嬉しいはずなのに、その笑顔は自分がもたらしたものではなく、別の男に向けたものだということに、甘いはずの菓子が苦く感じた。
彼は楽しかった。
その男はどうしたのかと聞くと「お母さんと帰った」とのこと。少年からの言葉にやる気になっている彼女を見ていると先程の怒りも霧散する。
「張り切りすぎてポンコツしねぇようにな」
「ポンコツなんてしないもん!」
反論の勢いでこぼれた紅茶にあたふたする姿に彼は盛大に笑った。
彼は楽しかった②
その男はどうしたのか聞くと
「お菓子のお礼をした後少し話して帰ったぞ?」
キョトンとする彼女を見てほんの少しの同情とそれ以上の安堵に彼は笑う。
少しも相手にされていないことが伝わってくるからソイツに何かする必要は今のところないだろう。
次があれば…彼は愉しげに喉をならした
ーーー
楽しいが二つあるのは、愉しいって字も使いたかったから…ほら、魔術師だしね?