赤真ハピバSS「……ナンスカコレ」
思わずカタコトになっちまった。だってあまりに予想外すぎて。
誕生日。付き合ってる人と焼肉。プレゼントだって言いながら鞄から出されるものといえば、アクセサリーとかなんかそーゆー浮かれたやつが普通だろ。
ーーいや、まあこの人にそんなん期待してはいなかったけど。これまでのプレゼント遍歴から考えると、こっちのが自然かもしんねーけど。
それにしたってめちゃくちゃ気まずい。さっきからデカくて丸い目とチラチラ視線が合う。こいつもまさか恋人への贈り物になるなんて思って生まれてきてないだろ。
「どう見ても達磨だろうが」
ですよねー、わかります。けど、
「いや、何でダルマ…….?」
「縁起物だからだ。知らんのか」
網の上の肉をトングでひっくり返しながら、真田さんは当然みたいに言う。
「達磨は何度倒れても起き上がる。七転八起も達磨が由来だ」
「はあ……」
「お前はここが正念場だろうからな。不撓不屈の精神でいけ」
焼けた肉が俺の小皿に乗せられて、タレに沈んでじゅうと音を立てる。
あ。
真田さんの言いたいことがようやくわかった。俺は今年、プロになるのを目指してる。それを頑張れってことだ。ずっと一緒にテニスしてきて、一足先にプロになった真田さんが応援してくれるのはすげー嬉しい。
嬉しい、けど……!
いや、こんなん言ったら殴られるかもしれねーけど!
好きな人と過ごす誕生日に、俺は期待してた。
「赤也?」
頭を抱えていると、反応待ちの真田さんの声が聞こえる。その声の感じが上機嫌な時のそれだったからーーこれが不機嫌になったら最悪ではあるけどーーゴクリ。俺は唾を飲み込んだ。
「えーと、応援、めちゃくちゃ嬉しいです! こいつのこと、すげー大事にします」
「そうか、ならば良かっーー」
「でも、でもですよ? アンタは俺の先輩でもありカレシですよね!?」
真田さんの言葉を遮って食い気味に続けると、カレシというワードが出たあたりで真田さんの頬が少し赤くなる。「あ、ああ……」とちょっとうろたえる。こんな姿、彼氏特権すぎるだろ。
けど、けど、欲を言えばーーワンチャン誕生日だからちょっと言っても許されるかもしれねーし……!
「コレは『先輩』からのプレゼントだと思うんでぇ……『恋人』からのプレゼントも貰えないかなーって……」
言った。言ってやった。
「たわけが」って怒鳴られないか心臓がバクバクする。
むっと口を尖らせる真田さんの唇がエロいと思うくらいには拗らせてる。
俺は今日で18になったわけで。世間的にR指定の基準は18なわけで……つまり俺は、真田さんとそういうことがしたい。
まだ早いってずっと言われてたけど、もう早くない。焼肉デートした後のカップルがホテルに行く確率は98%。俺の中の柳さんもそう言ってる。
「……何が欲しいと言うんだ」
焼肉なのに肉も焼かずに、永遠に時が止まったような沈黙が続きーー数分かもっと短いか経って、なんと真田さんの顔が先輩の顔から恋人の顔になった。
エッロ……最高か……?
しかも俺の欲しいものってーーアンタです。アンタが欲しい。アンタとセックスしたいです。
そう言うつもりだったのに、妙な視線を感じて言葉に詰まった。え? 何? えーーダルマがめっちゃこっち見てる。
「え、えと……」
「どうした? すまんが俺はお前がその……初めてだから……恋人らしいものと言われても思いつかん」
「は、は、初めてなんですか」
やべー、急にすげードキドキしてきた。正しく童貞のリアクションしかできない。
「えと、俺が欲しいのは真田さんの……その……」
「俺の? 俺の持ち物が欲しいのか?」
「持ち物っつーかなんつーか」
クイズみたいになってきた。
「なんだ、はっきりせんか!」
「や、あのー、だからっ! 俺が欲しいのは……真田さんです!」
「なっ……」
「真田さんの、その、一番大事なものが欲しいっつーか、次の段階に進みたいっつーか……?」
あれ? 欲しいのは真田さんってだけで良かったか?
けど多分真田さんのことだからちゃんと言わないとわかんねー気もする。
「つまり、俺はアンタとーー」
「よ、よせ!」
セックスがしたいんです!
と言いかけたところで、真っ赤になった真田さんに口を塞がれる。
「……お前の望みはわかった」
恥ずかしそうに眉が下がって、目が潤んで、完全にベッドの顔じゃん……知らねーけど。
でもこれ、完全に伝わってるよな。
しかもなんか、OKっぽい雰囲気だし……!
「赤也、お前は俺の……」
真田さんが視線を彷徨わせる。
「俺の……」
心臓が動きすぎて止まっちまいそうだ。
「俺の……苗字がほしいのか」
真田さんが熱を冷ますように頬に手を当てる。
俺の思考は宇宙の果てに飛んでいった。
ツッコミたいところはたくさんあってーー例えば、一番大事なのが家名って武士かよ…とか。次の段階行きすぎ…とか。俺が苗字変えるのかよ、とか。色々。
え、もしかして、今のってプロポーズになったのか?
真田さんは満更でもない感じで、机の上のダルマも俺のことをじっと見つめてる。太い眉毛を吊り上げている。真田さんに似て、可愛いなと思った。
俺は言った。
「俺が真田赤也になったら、『あ』の音ばっかになりますね」
それもそれで幸せだ。