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    izayoi601

    @izayoi601

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    izayoi601

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    私の中で惇攸ブーム到来で書いてみた惇攸の現パロです。居酒屋の相席から始まる関係。お互い想ってはいるけれど言葉足らずだったり不器用だったりの両片思いが理想です…どちらかというと荀攸殿の方が悶々と募らせがちなのが好きです。この後釣りに行っても気遣いすぎて距離が縮まるまで長そうな二人。もし宜しければ。

    #惇攸

    酔いに任せて「相席でも宜しいでしょうか?」
    会社近くにあるこの居酒屋ではよくある台詞だ、特に断る理由も無く頷いた。此処は摘まみも安くて美味いからな、少し飲みたいくらいの時に丁度良い。
    「失礼する」
    軽く挨拶だけ交わし、食事だけ済ませるつもりだったが。
    「夏侯惇部長……?」
    聞き覚えのある声に、卓を挟み向かい合わせた風貌に一瞬片眼を見開く。無造作に跳ねた黒髪と無精髭だが、整然と着こなす灰のスーツ。冷静に相手を映す、紺碧の眼差し。こいつは、確か。
    「……お前、確か……経理部の……」
    「はい、荀公達……荀攸と申します」
    「知っている」
    「ありがとうございます……」
    毅然と応える態度に、思い起こす。そうだ、社の全体会議で見かけた。何時も隅の方に座って、自ら発言もせず表情も変えない奴。
    「そうか、お前も此処で飲むのだな」
    「ええ……偶にですが」
    それきり、言葉は消える。この様な際、孟徳や郭嘉は滝の如く奴と会話するのだろうか。俺では部署も違い、顔を知っている程度の人間と何を話すかまず捻り出さねばならない。必要最低限の言葉しか出ない性格が、悔やまれる。暫くはジョッキが運ばれる音と、香ばしく煙を放つ焼き鳥を噛み千切る咀嚼だけが響く。ふと、焼魚を突く箸捌きに視線を止めた。骨がゆっくりと取り除かれ、小さく解された身が唇へ運ばれていくのを眺め。
    「……綺麗だな」
    自然と、口が開いていた。
    「えっ」
    肩を震わせ、怯えた様な眼差しで見つめてくる。驚かせたのは申し訳無い気がしたが、同時に胸元が熱くなるのも感じたのは何故だ。どうも酔いが回って来たのか。
    「魚の食い方だ」
    「あ……そ、そうでしょうか……魚は、良く……口にしますので……」
    言葉足らずなのを訂正したつもりが、思わぬ情報を得たので何とか会話を試してみる。
    「好きなのか」
    「はい……自分でも釣りに行って、捌いたりもしますので……」
    「ほう、釣り……海釣りとか、川釣り等があると聞くな」
    「何方もです、あの……そうですね……最近は川ですとイワナが旬でして……」
    「うむ」
    釣りの話を振ると、唇が少しずつ動き始めた。会議中も特に表情は変わらず、話を聞いている。泰然自若、それが第一印象だった。
    「……あと、それでですね……最近海ではこれ程の真鯛が一番の釣獲でした……かなり大物で……」
    こいつ、結構話せる奴だったのか。互いにジョッキを空けながら、俺は穏やかな声で広がる話題に耳を傾けた。
    これでも人事部長だ、社に居る奴の人間性は常に見極めている。会議でも問いかけられれば、鉄仮面は崩さず明確な返答と打開策を述べ皆を納得させる。有能な奴だと、すぐに解った。
    「……あの」
    「何だ」
    「申し訳ありません、先程から俺の話を……どうやら酔っていますので」
    「構わん、続けろ」
    後から俺の後輩である荀彧から親族だと聞いた。才ある素晴らしい兄と話す誇らしげな顔が今なら解らなくもない。
    余計なことを言わない態度が、そもそも嫌いでは無かった。誰かに話したいことなら、お前にとって余程大切なことなのだろう。それは面白い上に。
    「ありがとう、ございます……」
    深酒で表情が僅かに和らぎ、饒舌に語る。心地良く低音が届く程に、どこか喜ばしかった。


    「あの様な個人使用のものを経費で落とせる訳が無いではないですか……他にもですね、書類の手順を守って頂けていないことが多く……しかも書く欄さえ違ってしまえば此方の手間も増える一方で頭が痛く」
    「ああ」
    「ならばいっそ明確でない事項があるならば俺でも于禁殿でも最初に質問が欲しいのです、そうは思って頂けませんか」
    「そう……だな」
    聞き辛いのはお前と于禁だからではないか、とはやはり言い難いな。手元のジョッキを傾ける程饒舌さは増し、気づけば少し飲む筈が終電が迫る時刻になっていた。耳に入る話題は経理部の愚痴に変わったが、それでも嫌悪は感じない。寧ろこいつの胸の底が見える程に、高揚していた。
    「解ってはいるんです……俺は器用ではありませんし、ただ着実に熟すくらいしか出来ないことは……同期の郭嘉殿や、文若殿ならもっと容易く対処する筈です……于禁殿にも申し訳無く……」
    瞳を伏せ再びジョッキに充満した泡を見つめながらの言葉に、俺は自らの経験を重ねていた。俺も視野が狭く一つのことに集中してしまい、決して器用では無い。俺も親族に比べものにならんくらいの孟徳が居る、仏頂面でしかも隻眼では距離も置かれるだろう。悩む目前の男が、痛い程解った。かといって気の利いたことが言えるだろうか。だが、何も伝えないなど出来ない。部署は違うが同じ社員として、上司として。いや、違うな。酔いで濃紺のネクタイを引き、紅く染めた首筋を晒しながら懸命に動く唇に魅入られる程。食い方だけじゃない、お前自身も綺麗な奴だ。
    「荀攸」
    上目遣いの瞳に、溺れそうな程の深海を見た。沸々と込み上げる全てを伝えるには、言葉が見つからないが。少しでも、お前に。
    「……お前は充分、勤めを果たしている」
    「え……」
    「望むのは、一つだけだ」
    そもそも経理部を勧めたのは荀彧だ、お前を理解した采配と言えるだろう。それでも抱え、閉じ籠もるしか無いのなら。
    「何でも良い、俺には言え」
    吐き出したいものがあるなら、全部聞いてやる。そういうことだけは、俺にも出来る。
    「かこうとんどの……」
    遂に呂律の回らなくなった舌で名を呼び、頬を染める姿に身体が浮き上がる様な熱を帯びた。俺も酔ったな、視界がやけに煌めいて映る。
    「ほんとうに、なんでもよろしいのですか……」
    「ああ」
    「あの、それでは……」
    握り締めたジョッキを卓に置き、瞳を伏せる。静かに唇が開き、放たれたのは。
    「なぐさめて、ください……」
    予想外の一言が、身体中を駆け巡った。
    「ん……?!」
    思わず、声が漏れる。何だ、どういうことだ。人生で初めて成人男性に言われた言葉に多少戸惑いはあったが、冷静に考えてみる。そうか、幾つになっても時折は誰かに縋りたいものなのだろうな。酔ったとはいえその相手に選んでくれる程だ、応えてやりたい。しかしどうする、気の利いた言葉が本当に出ないとは。何をしてやれば、救ってやれるものか。腕を組み暫し思考を巡らせ、やはり俺は行動で示すしか無いという結論に至る。
    「……荀攸」
    不思議だな、呼ぶと此方も心地良くなってきた。腕を伸ばし、卓に投げ出した左手の指先に少しだけ触れてみる。流石大物を釣り上げる武骨さもあるが、俺より大分細い感覚に胸が騒めいた。一瞬で離し、指先を髪へと絡め。
    「偉いぞ……お前は」
    存外柔らかな黒髪を、思い切り撫でてやった。少々子供扱いが過ぎたが、これしか労う方法が見つからん。悪くない触り心地で身体中に温もりが巡れば、抵抗せず俯いたまま微かな声が届く。
    「……ありがとう……ございます……」
    表情は見えずとも、覗いた耳元まで燃え上がるのを確認し思わず口元が緩んだ。印象とは、たった一日で変わるものだな。卓に突っ伏す姿を眺めては感情が溢れ、確信する。これ程に強く、愛おしいと想える人間が居るのだと。


    「……夏侯惇部長、昨晩は本当に申し訳ありませんでした」
    翌日の昼。わざわざ俺の部署に来たかと思えば深々と頭を下げられ、自らの髪を掻くしかなかった。
    「特に謝られる覚えは無いが」
    「いえ、まさか帰り際まで世話して頂き……」
    ああ、酔い潰れていたから無理矢理担いでタクシーに詰め込んだな。『だいじょうぶです』の一点張りだったから自宅近くで降ろしてやったが。
    「そのことか、大したことはない……小柄な分軽かったしな」
    「えっ、いや……その様な問題では……それに……」
    片手で充分だったから構わない、まだ何かあるのか。急に視線を外し、一つ咳払いまでして。
    「……あの様な……はしたないことを……」
    「……?」
    どれのことだ、皆目検討が付かん。しかし気恥ずかしそうに頬まで茹だらせているなら相当のことだろう。首を捻ったことで察したのか、荀攸は小さく掌を振り話を続けた。
    「いえ、それならば……寧ろ、有り難いです……しかし、部長に幾らご迷惑を掛けたとしてもタクシー代は勤務時間外で経費で落ちませんから……どうしたものかと……」
    次の発想がその方向とは、俺でも呆れる程生真面目な奴だ。自然と口角が上がり、言葉を捻り出す。
    「荀攸、一つ頼みがある」
    「え、あ……はい……どの様な……」
    疑問を含む視線へ応える様、なるべく真っ直ぐ焦点を合わせた。経費だの上司だの、正直どうでもいい。ただ、俺の考えだけは伝えるべきだと信じて口を開く。
    「今度……釣りに連れて行け」
    結局何処を気に病んでいるか知らんが、せめて抱える靄を晴らす努力くらいはしてやりたい。表情一つ変えるのも臆す程に隠した、本心を。
    「お前を、もっと知りたい」
    驚愕に瞬いた瞳へ、嘘偽り無い本音を届けた。これ以上無く感情を揺さぶる存在なのだ、衝動は抑えられん。荀攸は無言で視線を外し、首元を押さえながら漸く口を開いた。
    「……しょ、承知……しました……俺で、宜しければ……」
    どうやら、一定の理解を示してくれたらしい。安堵したところで、時計は昼休憩の終了を差す。
    「……おう、またあの店で」
    「あ……はい……では、失礼……」
    毅然と一礼し踵を返す背を眺め、左の眼帯に触れながらふと脳裏に浮かぶ。労い方を、間違えただろうか。いや、酔った奴に無体を働く訳にはいかん。それに俺は期待される様な歳でも無いだろう。若い頃事故で失ったこれを、多少後悔する日が来るとはな。出来るなら両眼で、お前の姿を確かめてみたかった。
    この歳では遅すぎる感情だと、頬を緩め自嘲してしまった。


    「……っ」
    駄目だ、身体の熱を抑えられない。昨晩から、ずっと。なるべく普段通り繕ったが、あれでは悟られてしまっただろうか。
    「……あの様なことを、言うとは……」
    耐えきれずトイレの手洗い場で顔を覆い、蹲る。相席を承諾した時点ではすぐ帰るつもりでいたのに、座ったのが貴方だったとは。会議では俺の提案を採用してくれた恩もある、実直な性格が解る書類の筆跡にも好感が持てた。緊張を誤魔化す為話を続けなければと、酒に溺れる。油断大敵、愚痴と本音ばかり連連と。最後には酔いに任せ、あれは無い。
    『慰めて、下さい』など。
    「……気付かれては、いないか」
    最早昨夜を断片的にしか覚えていないが、違う意味に取ってくれたのが救いだ。いや、知らない振りをしてくれたのかもしれない。そもそも俺の様な面白味も無く、柔らかさの欠片も無い身体の男に興味を持つ筈が無いだろうが。
    『お前を、もっと知りたい』
    それでも、あの言葉は身体に優しく温もりが染み渡る。再び会ってくれるだけで、期待してしまう自らが恐ろしい。
    撫でられた髪の感触だけは鮮明に思い起こせ、未だに体温を上気させた。
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    izayoi601

    DONE桜の季節の話が久々に書きたくて、かくわい先生としょうかいくんがただ話してる学パロになりました
    この二人の親子みたいな関係性が好きで…ずっと温かい関係で居て欲しい
    青春しているしょうかいくんが先生には素直に本音を話せるところを書きたかっただけですがもし宜しければ
    ぶんおうくんは出てきませんがほんのり鴦鍾です
    私の先生「何なんだ、あの女……」
     今日は進路相談の筈だろう。天命館学園では二年生の春に行われる、担任からの個別面談。一年から引き続いての辛憲英先生と向かい合い、肝心の進路の話はほんの数分。まぁ私程優秀ならば口を挟まれる様なことも無いのだが、切り替わった話題が実に下らない。
    『文鴦君とは、その後如何ですか?』
    やれ『仲良くなられたのでしょう?』だの『ご友人との旨は胸を張って話すべきですわ』だの、駄洒落混じりに満面の笑みを浮かべながら根掘り葉掘り。ここ最近では最も疲弊した、もう何も話したく無い。
    「……それで、此方に居らしたのですね」
    気が付くと化学準備室の方向へ足を進め、まだ旧式とあいつが揃っていないことを見計らい扉を開ける。ローテーブルに緑茶を置かれ、少しずつ啜れば動かしたくなかった口でも言葉が奥底から湧き出て来た。
    2115

    izayoi601

    DONE公式さんのエイプリルフールから妄想して勢いで書いた、まんちょうどのが開発したARデバイスを付けるほせどのの現パロ超法小話
    二直とまんちょうどのは同じ工科大に通っている設定です…試作品で色々振り回されてほしい
    まんちょうどの久々に書いたので温かい目で見てやってください
    ちなみにじょしょどのはばたいどのの姿が見えた途端名前を呼びながら抱き締めました
    映るのは「……と言う訳で、早速着けてみてくれるかな」
     その訳を説明されても、俺に着ける義理は無いのだが。高校を卒業して工科大生活が始まってからというもの、徐庶と学部が同じことで出会った一癖ある彼の行動には呆れさせられた。流石教授から、創学以来の変わり者と言われるだけはある。大学部まである筈の名門鳳凰学院から、自由に発明へ没頭したいだけで此方を選んだという経緯だけでも納得したが。
    ゼミ棟の一室に篭っていたかと思えば、今も翡翠に光るサングラスの様な電子機器を否応無しに持たされてしまった。
    「ですから、何で俺まで」
    「ははっ、何事もデータは多いに越したことないじゃないか」
    要は趣味で作った発明品の実験台だろ。無邪気に至極当然という表情で答えられ、溜息を吐く。
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