It's a pieace of cakeこの世に在っていけないものなどない……はずだった。
主よ、神はなぜ私にばかり試練を?
この世には、存在してはいけないというものがあったのだ。
その禍々しい存在を目の当たりにして、オレは絶望した。
「捨てるか……」
「そうね……」
オレの言葉に、重たい口調ながらもしっかりと柚葉は同意した。
「ははっ。ちょっと待てよ」
地の底よりも深く落ち込んだオレたちの空気を吹き飛ばすように、カラっと明るい声が掛けられる。
どんよりとしたオレたち兄妹が顔を上げた先に、まるで面白い物でも見るような笑顔。
「三ツ谷……」
ああ。しかし、その笑顔をもってしてもこの悲劇からは逃れられないだろう。
――こともあろうに、作ったばかりのケーキが腐ったような異臭を放っているのだ。
2023