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    shi18ba

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    たいみつ ひっそりこっそり🥰

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    shi18ba

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    キャラブを読んだ勢いで書いたものです。
    当時ピクにも載せましたが、こちらで保存😊
    やはり48兄弟好き💕

    #たいみつ

    It's a pieace of cakeこの世に在っていけないものなどない……はずだった。
    主よ、神はなぜ私にばかり試練を?
    この世には、存在してはいけないというものがあったのだ。
    その禍々しい存在を目の当たりにして、オレは絶望した。

    「捨てるか……」

    「そうね……」

    オレの言葉に、重たい口調ながらもしっかりと柚葉は同意した。

    「ははっ。ちょっと待てよ」

    地の底よりも深く落ち込んだオレたちの空気を吹き飛ばすように、カラっと明るい声が掛けられる。
    どんよりとしたオレたち兄妹が顔を上げた先に、まるで面白い物でも見るような笑顔。

    「三ツ谷……」

    ああ。しかし、その笑顔をもってしてもこの悲劇からは逃れられないだろう。

    ――こともあろうに、作ったばかりのケーキが腐ったような異臭を放っているのだ。

    せっかく三ツから教えてもらったのに、兄妹揃ってこの体たらくとは。
    申し訳ないやら情けないやらで、ますます気が滅入ってきた。
    いったい、どうしてこうなってしまったのか……。
    オレの頭脳はコンマ数秒で答えをはじき出す。

    「柚葉が悪い」

    「は? アタシ?」

    「作ったこともねぇくせに、チーズケーキがおしゃれでいいとか言い出しやがるから」

    「作ったことないのなんて、兄貴だって一緒でしょ! だいたい、ケーキ作るからチーズ買ってきてって言って、エポワス買ってくる馬鹿がいる?」

    「馬鹿はテメェだ! エポワスと言えば、チーズの王様だぞ!」
     
    「はあ? お金出せば何でもいいと思ってるんじゃないの? 成金のおっさんか!」

    「兄に向って、なんて口ききやがる。どうやら躾が必要なようだな!」

    一触即発。そのまま命のやり取りにまで発展するかと思われた瞬間――

    パーーーンッ!

    耳をつんざくような金属音が鳴り響き、オレたちの声がかき消された。
    壊れたシンバルか、はたまた拳銃の暴発か。
    一瞬にして、オレたちの言い争いは止まった。
    音の出どころは三ツ谷だった。
    見たところ、手にしているフライパンをテーブルに叩きつけたらしい。

    「さっきから、ゴチャゴチャうるせぇな?」

    ヤバい。これは、マジの目だ。
    最近、オレは三ツ谷と仲のいいダチから一歩先の関係へ進んだせいで忘れかけていたが、コイツは小学生の頃から不良グループの一員。
    全国制覇を成し遂げたチームの隊長という、バリバリのヤンキーだった。
    いや待て。東卍の隊長と言うならオレもそうだな。
    恋仲になったばかりの可愛い三ツ谷の前で、日和っている姿を晒すわけにはいかない。
    ここは一つビシッと決めなければ。

    「あー……、三ツ谷…」

    「2人とも、今日が何の日か忘れてんじゃねぇか? 何でケーキ作ろうと思ったんだよ」

    言い訳をしようとしたオレの言葉を、三ツ谷は呆れた声で遮った。



    玄関の鍵を開ける音がする。ついにその時が来てしまった。
    八戒が帰ってきたのだ。
    オレは固唾を呑んで、その足音を聞いた。
    ああ。愛する弟に、こんな惨状を見せたかったわけじゃねぇ。
    できれば、玄関ホールが無限に広がり、永遠にここまでたどり着かなければいい。
    だが、オレの祈りはむなしく散った。

    「ただいまー……って、臭っ! 何だこの匂い⁉」

    あろうことか、キッチンに辿り着く前からこの激臭が八戒を襲っているようだ。
    いくらなんだって、やはりコレは……。
    三ツ谷は視線を泳がせるオレと柚葉へニッコリと笑いかけ、バンとオレたちの背中を叩いて渇を入れた。

    「大丈夫!」

    カチャリ
    ドアのレバーが下がり、緊張が走る。
    オレは柚葉と頷きあって決心を確かめると、揃って開かれたドアの先へと目を向けた。

    「お帰り、八戒! 誕生日おめでとう‼」


    ******


    相手に愛を伝えるには、自分に確かな愛があればいい。
    それは、とても簡単な事だよ。

    三ツ谷が言った通りだった。
    あの日、オレと柚葉の愛は無事に八戒へ伝わり、「不味い」と言いながらも、八戒は笑って涙を流していた。
    それは、それまでにどんな高ぇケーキを買って食わせても見たことがないような顔で、オレも柚葉も一緒になって涙を流し、ただでさえしょっぱいケーキの塩分濃度がさらに上がったのだった。


    ******


    「ご機嫌だね、大寿君」

    「まあな」

    合鍵を使って家へ上がってきた三ツ谷が、オレの姿を探してキッチンまでたどり着いた。

    「今年も作ったの?」

    オレの手元を見て、ヤツの垂れた目じりが更に下がった。
    もう一度あの顔が見てぇと思って、あれから毎年、オレは八戒の誕生日にケーキを焼く。
    三ツ谷直伝の愛情をたっぷり入れたケーキを、幸い八戒は喜んでくれている。

    愛を伝えることは、自分の一方的な愛を押し付ける事じゃない。相手を思いやることだぜ。

    そう言って、繰り返し何度も三ツ谷が教えてくれたおかげで、ようやくオレもこう言えるようになった。

    「とても簡単な事だからな」
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