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    じょじ

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    じょじ

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    ご飯を食べる話

    #みつたい
    three-partitioned
    #たいみつ
    #みつたいみつ

    一口に切る。
    それは他人のそれより多少はデカいが、ちゃんと口腔に収まるように切り分けられ、口に運ばれる。所作ひとつひとつはこの普段のこの男からしてみると意外にも綺麗で丁寧である。
    これをギャップと言わずなんと言おうか。三ツ谷隆はそう考える。
    元暴走族の頭を張っており、体の表面積の大半は墨に覆われていると言うのに食事のとりかたひとつにしてもこの男の所作は綺麗にできていた。
    これは食事に限ったことではないが。
    今思えば弟である八戒もそうだ。焼き魚の食べ方なんて身ひとつ残さず綺麗に骨を残して食べた時、内心舌を巻いたものだった。
    どうやらそれは兄であるこの男の躾だったらしい、と気付いたのは最近だ。
    最初はただ意外でそのギャップに微笑ましく思っていたのだが、今では微笑ましいどころか、魅了されてしまっている。
    口腔におさまるように、口に運ぶ。
    何度かに分けてしっかりと喉仏が上下する。
    美味しい物を食べた時は、その眉間のシワが緩み眉が下がる、
    そして自分を見て、その目が『これは美味い』と口より先に言うのだ。
    出されたものはしっかりと一粒だってとり逃さず、食べ終えると手を合せて「ごちそうさま」美味かった、と感想まで。
    毎回、柴大寿と食事をするたびにこの男のそういうところが、構成している全てが愛おしいと、三ツ谷隆は思っている。
    そう、そして今も。
    その愛おしさに情欲が孕むようになったのはいつからだろう。その肌を知ったとき、思い出したのは『食事の所作はセックスのそれに似ている』というものだった。聞いた時には食事中にまでそんなことを考えるとは、と馬鹿らしく考えていたものの、なるほど。これは確かに。考えを改め、そんな与太話を聞かせたかつての仲間に感謝した。
    三ツ谷はアブノーマルではない、と自分では思っている。
    それは今でもそうだ。自分は家事は人並みに出来る方だったし、家族や友人に料理を振る舞ったことは多少なりともあった。
    しかし大寿と友人以上の関係になってからと言うもの、その腕を振る舞うことに興奮さえ覚えるようになっていた。自分が作ったものを、無防備に疑うこともなく美味いと飲み込む。
    まるでセックスのようだ。
    あの時感じた高揚を思い起こし、三ツ谷はそんな考えも知らず目の前で出された皿に手をつけるその姿に内心舌舐めずりをした。



    柴大寿は三ツ谷隆と食事をすることが好きではあるが、苦手でもある。
    もう何度も食卓を一緒にしているが、慣れるものではない、と思う。

    自分を好きだと宣う前から、三ツ谷は大寿の仕草一つ一つを観察するような目をしていることがあった。それは例えば食事の前に祈りを捧げる時であったり、箸を手にした時や服を脱ぐ仕草。
    そうした時、気がつくと三ツ谷の視線が注がれていた。一度、見られることに苛立ちを隠せず「見るんじゃねぇ」と言うと、ごめん、と口だけの謝罪が返ってきた。
    「大寿くんて凄く動作が綺麗なんだよな」
    これは三ツ谷が何かの折に話し出したことである。
    「やっぱ、ちゃんとしてるっていうかさ。ビッとしてんじゃん」
    兄貴として、こうなりてぇな、って感じ?笑いながら言うその言葉には尊敬が
    含まれていて、その視線は妹や弟のそれと似ていることに気が付いて、照れ臭さや過去の苦い思い出に重なり、その場はそれで済ませいた。
    しかし時が経ち、自分と彼が…何をどう間違ったのか、本当に未だに不思議な話なのだが…恋人と呼ばれる関係になったあたりから、食卓を共にする際のその目付きの質が変わったことには気が付いていた。
    かつてはその視線から憧れめいたものを感じとってはいたが、今はどうだろう。
    大寿は、三ツ谷が作った夕食を口にしながら、目を伏せたまま考える。
    視線をあげると、案の定、こちらを見ていた。自分の手前は手をつけもせず、視線が合うと照れもしない。それどころか「どうした?」と笑顔を向ける余裕さえあって、自分が視線に気が付いたことのほうが間違っている。いたたまれなささえ覚えて「別に」と返す。もう一度夕食のハンバーグをフォークで押し潰して切り分ける。少し押した途端先割れた隙間から肉汁が滲むそれはとても美味しそうだ。そのハンバーグを作ったのは目の前の男である。出会った頃から度々その腕を振る舞い、今ではすっかりと大寿の好みの味に仕上がっていた。
    まるで、自分もこのハンバーグのようになったみたいだ。
    肉汁を滲ませるそれをフォークでさして口腔へと運ぶ。噛み締め舌の上で転がせば味蕾が喜ぶのを感じる。舌と歯で押し潰し、喉へ送り込む。その、ひとつひとつの動作さえ、今自分が視線に晒されていることを感じ取っては三ツ谷の舌の上で転がされているようだった。まるで吟味されている。
    言いも知れぬ気持ちで皿を空にして残さず平らげる。視線を上げると、三ツ谷は満足したのか漸く自分の分を食べ始めていた。
    フォークを手に、大きめに切り分けたそれに食らい付いて咀嚼する。小綺麗な面ではあるものの、三ツ谷は所作に男らしさを感じる。噛り付いて食べる様、迎え舌になっている時。その姿を見ると、全く別の場所で育って来たんだな、感じた。当たり前のことではあるが。
    伏せられた目線や、油に濡れた唇をちろりと覗いた舌が舐めとるのを見たとき、ただ水を飲んでいた喉がやけに大きくごくりと音を立てた。
    その様はまるで、情事を思い出す。
    まだ両手で数えるほどしか肌を重ねていないというのに、まざまざとその脳裏にはベッドの上での彼を思い浮かべてしまい体が熱くなる。そのことが何か企み
    嵌められてしまったような、足を踏み入れてはいけない場所に絡め取られてしまったような、そんな気にならざるを得ない。
    いつもなら食事中、テレビを観ながら程々の量の会話があるのだが、視線に気が付いてからは大寿の方から話しかけることはなかった。
    さっきと違うのは、三ツ谷のほうは明らかに気が付いていた。
    肉を食らい、水で喉を潤す。その合間合間に視線を投げかけられる。
    見ているか?
    そう問い掛けるようなそれに、目が離せないでいる。
    次はお前だ。そう予告されているかのようで。
    ご馳走さま、と三ツ谷が手を合わせた時には、もう挑発めいたその行為には限界で、「なんて顔してるんだ」そう言って笑う三ツ谷の手を引いて共に皿の上へと並ぶのだ。
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