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    かなえ

    @kanae_otaaca

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    かなえ

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    オルテメ ハグの日(大遅刻)

    #オルテメ

    たぶん覚えていないと思う帰宅して外套の雪を振り払うと、覚えのある香りが微かに鼻についた。
    ランプを灯す。照らされた部屋の中で、椅子の背もたれに掛けられた白いケープが目に入り、香りの正体が大聖堂でよく焚かれる香であることを思い出した。
    すでに太陽が沈んで久しい時刻。小さな家の中はしんと静まり返っている。
    足音を消して寝室に向かう。ドアをそっと開けて覗くと、ベッドの上に一人分の膨らんだブランケットが見えた。
    彼が連絡もなく現れるのはいつものことだ。帰りが遅い家主を待ちくたびれて寝てしまったのだろう。
    少しばかりの罪悪感が掠める。聖堂機関職場に顔を出してくれればよかったのだが、と。
    静かに近づいて、ブランケットに包まった寝顔を覗く。規則的な呼吸。穏やかな顔。少しだけ開かれた唇。年上とは思えない幼い顔が、余計に幼く見えた。
    自分も寝る支度を整えようと踵を返すと、背後から小さな声が上がった。
    「……ん……」
    ブランケットがもぞもぞと動き、白い髪の隙間から、翡翠色の瞳が半分だけ開かれる。ぼんやりとした瞳が、かろうじてこちらを視認した。
    「すまない、起こしたか」
    こちらの謝罪には応じず、彼はゆっくりと体を起こす。それを制止するため、再びベッドに歩み寄った。
    「寝ててくれ。俺もすぐ寝る……テメノス?」
    ブランケットを掛けなおそうとすると、そんなことなどお構いなしに彼は起き上がり、両腕を広げてこちらに抱きついてきた。背中に回される手。ベッドから抜け出したばかりの体は、外から帰ってきたばかりの体にはやけに温かく感じられた。
    「…おかえりなさい」
    寝起きの掠れた声が耳朶を打った。蠱惑的なテノールの響きに心臓が跳ね上がり、体が硬直する。
    抱きしめ返すことも忘れていると、背中に回された手からふいに力が抜けた。体重をこちらに預けながら崩れ落ちる体を咄嗟に支える。顔を確認すると、白い睫毛に縁どられた瞼はすっかり閉じていて、再び規則的な呼吸を繰り返していた。
    どう見ても、寝ている。
    「………」
    痩身を抱きかかえてベッドに横たえる。ブランケットを肩まで掛けてやり、今度こそ寝室をあとにした。
    今の出来事について、明日の朝、覚えているかと聞いてもいいのだろうか。
    少し悩んだ後、自分の中に仕舞っておくことに決め、まずは体を洗うことにした。
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