能面みたいな顔。秋斗に苛立つようになったのは、たぶんその表情だったと思う。
秋斗は時を追うごとに、無表情に、無口になっていった。それがますます夏彦の神経を逆撫でした。昔の秋斗は兄特有の横暴さでもって、笑いながら夏彦をイジり、遊びたおしていたとういうのに。
だから、"その日"が起きたのは、必然だった。
その日の夏彦は、特にイライラしていた。
真夏にはなりきっていないが、温度が高く、湿度がやけに高い日。空気も、人の声も、全てが肌に纏わりつく。だから野球の練習試合に負けたことも、試合後に指導と称してチームを責める監督の声も煩わしく、鬱陶しかった。監督の夏彦への当たりが強いことはいつものことだが、その日は秋斗に対してもやけにキツく当たっていたのも気に食わない。秋斗が大人しく監督の言葉を聞き、理不尽な内容にも反抗せずに謝罪し、あまつさえ、家に帰っても監督の愚痴を言う夏彦を嗜める。
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