ホレ薬ある日の事、冒険の途中立ち寄った村の商店で、私は綺麗な細工がほどこされた小瓶が売られてるのを見つけた。
「うわぁ可愛い」
思わず手に取って見ると、ちゃぽんと小瓶の中の液が揺れ動いた。
グロウベリーのジュースでも入っているのだろうか?
私が不思議そうに小瓶を眺めているのに気がついた店主が、ニコニコしながら声をかけてくる。
この辺りの人ではないようで、少しイントネーションが違った。
「いやぁ、お嬢さんお目が高いね。この小瓶には「ホレ薬」入ってるヨ。」
「好きな相手に飲ませれば、たちまちあなたに夢中ネ。」
店主はそう言い、続けて
「30エメラルドでどうだい?」
と私をうかがうように見てきた。
夢中って……本当かしら……?
「これ、欲しいの?買おうか?」
いつの間にか隣に来ていたスティーブが私に言う。
小瓶は欲しいけど「ホレ薬」は要らないかなぁ……。
……スティーブ、私にホレてくれてる……もんね?
ちらっとスティーブを見ると
「まぁ、アレックスに中味は必要ないよね。」
ぼそっと言ったので、思わず
「なぜ?」
と聞き返してしまうと
「だって俺はもう、アレックスに夢中だからね。」
と私に微笑みながら言う。
そうかもしれないと思ってたけど、あらためて言われるとほほが赤くなるのが分かった。
スティーブは気づいているのか、いないのか……。
「どうする?」
と尋ねてきた。
買えるわけない。
「か、買わない……。」
そう応えるとスティーブは少し考えて
「じゃぁ、俺が買おうかな?」
と店主の言い値そのままのエメラルドを出した。
店主はほくほくした顔で
「おニイさん、良い買い物したネ。彼女に飲んでもらう?」
と私を見た。
ちょっと待って、私だってすでに夢中なんですけど。
なんでスティーブは買ったのかしら?
と思ったらスティーブが
「アレックスにもっと夢中になりたいから、俺が飲むよ」
と小瓶の蓋を開け
「あ!おニイさん、それ……。」
店主が何事か言おうとしてるのもきかず、ぐびぐびと小瓶の中味を飲み干した。
……と
しゃっくりを1つして、急に自分で自分を抱きしめ
「おぉ なんて素敵な俺!朝そっても夕方には生えてくる男らしいヒゲ!!美しく済んだ紫がかった青の瞳は海の中のアメジストジオード、たくましい肉体はあらゆる人の心を惹きつけてやまない!!なんて罪な男なんだ俺は……。」
とうっとりしだした。
「あーあ、ダメね。」
店主さんがあきれたように言った。
「このホレ薬、自分から好きな人に渡すことで正しく魔法が発動するのに、自分がのんじゃったら……。」
と肩をすくめる。
「う、うわ、俺一体なにを……。」
一瞬スィテーブが、正気に戻る。
「魔法のききが中途半端になったから、時々正気にもどるけど……。しばらくはこのままだね。ミルクも効果がないよ。」
容赦なく、現実を突きつける店主さん。
スティーブは顔を赤くしたり青くしたりしながら、また自分をほめだした。
「しばらくこのままだなんて、いけない……。今の俺を見たらゾンビもスケルトンも俺の中に圧倒的光を見て焼け焦げてしまうだろう。エンダーマンさえ、俺にエンダーアイを捧げて消え去るに違いない。」
ぶぶっ……
思わず私が吹き出すと店主さんが
「面白い彼氏がいて、良かったネ。」
とウィンクしてきた。
私は笑いながら頷いた。
後日、中味のない小瓶をスティーブは私にくれた。
スティーブはこの時のことを黒歴史と言って何も話さないけれど、私には最高の楽しいい思い出になった。