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    01oboro94 オボロ

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    01oboro94 オボロ

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    ほのぼのあまめのウリサンをSS名刺メーカーで読みやすく作る予定がどんどん伸びてしまった産物!

    すけべじゃない/サンの過去描写少し有/当社比糖分高め

    #ウリサン
    urisan

    平穏な朝体格差をまざまざと意識させられるのは海都で地べたを這ってでも生き延びていた子供の頃以来かもしれないな、と、苦い記憶を思い出してしまったサンクレッドは、背後から自分を抱きしめるウリエンジェの腕を指先でつつく。
    だが、ウリエンジェの意には介さないようだ。
    頭頂部に乗っている顎をどかそうと頭を左右にふるふると揺らす。
    それでもまったく、意に介さないときた。
    思慮深さと優しさの内に秘められているウリエンジェの頑固さに苦笑し、茶化すようにサンクレッドは片眉と口端を上げる。

    「そんなに熱烈に抱き締められたら朝飯が作れないだろ、大先生は腹減ってないのか?」

    コテージ風の大きな宿の個室に備え付けられているキッチンに並べた野菜や香辛料は、この街の特産品で先日に商人から購入した品々だ。
    解凍した小ぶりの獣肉は、同じく先日、宿屋の従業員に許可を貰ってから二人で狩ってきたもので、皮を剥いだり血抜き等の下準備を済ませ、一口大に切って冷凍してあった。
    準備も万端というところで、寝起きのウリエンジェが突然サンクレッドを背後から抱きしめたのだ。

    「私も共につくります…」
    「包丁の持ち方は?」
    「覚えました…」
    「手は洗ったか?」
    「……まだです…」
    「洗ってこい、ついでに全体的に身だしなみを整えてきたらどうだ?寝ぼけててまた指を切られたら困る」
    「仰せのままに…」

    呆気なく離れていく温もりにほんの少しの寂しさを覚えて振り返れば、ウリエンジェはまだサンクレッドの真後ろで立ち尽くしている。

    「どうした?まさか洗面台の場所が分からなくなった、なんてことないだろ?」
    「いえ…少々、忘れ物を…」

    ウリエンジェと視線を合わせる為に上向いているサンクレッドの顎に、長い指が添えられる。
    慈しむようにもう片方の掌で頬を撫でて、ウリエンジェはすらりと高い身体を屈めてサンクレッドの額に口付けを落とす。

    「改めまして…おはようございます、サンクレッド…」

    もしかしなくても〝おはようのキス〟というやつだ。
    物心つく前に家族から捨てられたサンクレッドには与えられる機会など訪れなかった、いわゆる無償の愛のひとつである。
    一夜限りの相手にも、情報を得るための相手にも、ウリエンジェにだってまだしたことは無い。
    自分では、することも、されることも無かったのだ。
    (どこで覚えたんだ、誰から聞いたんだ、大先生の場合はなんらかの本か…!?恥ずかしいだろ…!?)
    心の内が動揺で埋め尽くされて、サンクレッドは咄嗟にウリエンジェに背中を向けた。

    「……いいから、早く行けって。俺は腹がへってんだ」
    「フフ……」

    ぶっきらぼうな返事だったが、サンクレッドの短い白髪から覗く両耳が朱く染まっていて、ウリエンジェはいちだんと幸福そうに微笑んでから洗面台に向かう。
    ウリエンジェが知らない事とは言えど、幼少時の生きることさえままならない時代と、大人と子供、種族の違いで覆せない差というものすべてをあたたかい何かに上書きされたような感覚だ。

    「……くそ、大先生、覚えておけよ…」

    恨めしげに呟いた独り言とは対照的に、サンクレッドの顔は朱く、なんの罪もない食材達を睨んでいる。
    朝早くから甘い空気を漂わされる事にサンクレッドは全く慣れておらず、無性に恥ずかしいのだ。
    ウリエンジェとはもう数え切れない程、死地を乗り越えてきたし、健康な夜も、不健康な夜も過ごしてきた。
    そうは言っても、やはりいたたまれない。
    なにか仕返しをしてやりたい、と、サンクレッドは思考を巡らせる。

    そうこうしている内に戻ってきたウリエンジェだが、寝癖は直せなかったらしい。
    可愛らしくぴょんぴょんと好き勝手跳ねるいくつかの毛束にサンクレッドの頬が緩む。
    ウリエンジェが包丁を持つ前に、手首を掴んで自分の方へ引き寄せれば、ウリエンジェは背を丸めた。
    どうされましたか?と問われる前に、サンクレッドは近付かせたウリエンジェの額に唇を当てる。

    「おはよう、ウリエンジェ」

    ちいさなリップ音の後に、子供の悪戯が成功したかの如く、無邪気に笑うサンクレッドに、今度はウリエンジェの頬に朱が走った。

    「は、恥ずかしいものですね、これは…」
    「ざまあみろ」
    「ですが……」
    「……ああ、悪くないな」

    ふたりで笑って、高低差のある肩を並べて料理を始める。
    ウリエンジェの不慣れな包丁の持ち方と野菜を支える猫の手に冷や汗を浮かべながら、時にアドバイスをして見守るサンクレッド。
    そうして、時間はかかったが朝食を卓上に並べて、テーブルを挟んで座り、手のひらを重ね合わせた。

    「「いただきます」」

    少し焦げた大きさが疎らな野菜を二人は咀嚼し、今日はどこへ行こうか、夜は何を食べようか、と他愛ない話をしながら、向かい合った相手以外の誰とも共有できないであろう時間を大切に過ごす。
    鳥のさえずりが心地よく、優しい朝だった。
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