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    桃霞りえ

    @momo303rie

    自分用の倉庫的なものです。
    設定でも作品でもなんでも突っ込む予定。
    レイマシュの投稿がほとんど。
    完成品はほぼほぼpixivにも掲載しているものです。
    正直、まだポイピクの使い方わかってません⋯⋯。
    できたは出来上がった(完成している)ものです。
    書きかけは、小説のかたちで書いた未完のもの。
    メモは本当にメモです。セリフだけだったり、設定説明だけだったり。感想文みたいなやつですね。

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    桃霞りえ

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    CPなし。動物の言葉がわかるマッシュくんの話の過去編です。
    マッシュくんがイーストンに入ってすぐくらいの設定。(アドラっ子たちが揃った直後くらいです)

    ##動物の言葉がわかるマッシュくんの話

    恩を返したかったフクロウ*こちらは、動物の言葉がわかるマッシュくんの話の小噺です。





    これは、まだマッシュ・バーンデッドが魔法不全者と知られる前の話。



    この魔法学校で苦手な授業がある。
    いや、訂正しよう、座学は総じて苦手である。その中でも、体力を必要としない座学はできれば関わり合いたくない。
    関わらずに適度な距離を置く、それがお互いの為だとも思っている。
    けれども、現実は残酷だった。学校という学舎では等しく同じ授業内容を受けることを強要してくるもので、個人の”やりたくない”は通用しない。自主性とは何なのか?そんな疑問が尽きることはない。

    マッシュは教室の席に座りながら「どうしよう⋯」と内心冷や汗が止まらなかった。

    目の前にあるのは教科書と筆記具、それと⋯⋯こちらを一瞥もしないフクロウが一羽。
    その一揃えが用意されているのは、なにもマッシュの机の上だけではない。
    見回せば、各々の机の上には各自が家から連れて来たペット、もしくは授業の為に連れてこられた学校所有の小動物が鎮座している。
    今回の授業内容は、そんな小動物たちに危険の伴わない一時的な変身魔法を施すことだった。

    こういった授業を座学の中でもマッシュはとにかく苦手としている。
    体力を必要とする授業だったなら、なんとかそれっぽく振る舞う事は可能なのだ。しかし、こういった魔法の効力だけで成果を上げなければならない授業は、いかにポンコツであったとしても何かしらの魔法の効果が出るもの。だが、マッシュにはポンコツ並の効果を出す事すら不可能であり、つまり⋯⋯詰みなのである。
    ここまでは何とか、無理矢理こじつけながらも魔法使いであると押し通してきたのに、ここでバレるかもしれない。魔法が使えないという事実が。
    そうなってしまえば、自分とじいちゃんの未来が潰えてしまう。それは何としても回避しなくてはと考える。
    考えて、考えて⋯⋯ある一点を凝視すると、「もうこれしかない」と直談判する事を決意した。
    目の前のフクロウにだ⋯⋯。

    周囲に聞こえないように、マッシュは小さな声でフクロウへと話しかけた。

    「あの、フクロウさん⋯ちょっといいですか」

    フクロウはピクリと体を震わせた後、煩わしいと言わんばかりにマッシュをチラリと見る。
    すぐに逸らされるかもと思っていたフクロウの視線は意外にも逸らされる事はなく、目をパチリと瞬かせた後に身体の向きをマッシュへと向けてジッと見つめてきた。

    『お主、この前の坊主か?』
    「僕の事、知ってるんですか?」

    通じるとは思っていなかった問いへの返事が、当然とばかりに返ってきてしまったフクロウは驚愕に目を見開いた。

    『私の言葉がわかるのか?』
    「あ、はい。わかりますね」

    まさかと思って聞いただけの内容に当たり前のように頷くマッシュに、この子にはそれが普通なのかと納得する。
    当たり前の事に頷いただけ、それならこの薄い反応も仕方がない。この子には当然の事なのだからと。
    それにしても、なんとも難儀な運命を背負っているらしい⋯⋯。

    『そうか、生きていればこんな事もあるのか⋯。それで、なぜお主を知ってるか、だったか⋯。お主、以前カラス共に襲われていた子供のフクロウを助けただろう?あれは私の子供でな、私もその場に居合わせていた』


    フクロウの言葉に一瞬だけマッシュは「そんな事あったっけ?」と考え、一つの心当たりを思いした。
    「あっ、確か一週間くらい前にそんな事あったかも?」と何とも頼りない記憶を掘り起こすのに成功したが、その時のフクロウとこんな形での再会になるとは思ってもみなかった。まさかの巡り合わせである。

    「あぁ、あの時の⋯無事で何よりです」
    『その、あの時は助かった。個の力がいかに強かろうと多対一では勝ち目がなかったからな。感謝する』

    僅かに頭を下げる人間式の礼をわざわざ取るフクロウに、律儀で賢いなと感心する。

    マッシュがこのイーストンに来て分かった事がいくつかあった。
    魔法使いと一緒にいる動物は基本的に知能が高く、言語能力も野生動物よりもかなり達者である。それが、ここ最近でわかったことだ。とりわけ、校外にいる動物よりも校内の、より人間と接することの多い動物は比較的流暢に話す個体が多かった。
    その中でもこのフクロウの賢さは飛び抜けているように思う。
    ここまですらすらと話し、会話のできる動物は初めて会ったかもしれない。

    「いえ、たまたま近くに居ただけなので」
    『それでも助けられた事実は変わらんからな。私にできる範囲で何か礼をしよう。先も何か用があって話しかけてきたのだろう?』

    フクロウの申し出は、現在崖っぷちに立たされているマッシュにとって渡りに船であった。
    もう、この提案に縋ろう。これだけ賢いフクロウさんならどうにかしてくれるかもしれない。
    そんな希望を胸に、言葉とは裏腹に期待に満ちた視線をマッシュはフクロウへと向けた。

    「あの⋯非常に申し上げ難いんですが、僕、魔法が物凄く、⋯⋯絶望的なまでに苦手で、変身魔法とかかけられる気がしなくてですね⋯⋯なんかこう⋯魔法を使わなくても、いい感じ?に誤魔化して貰えないかなぁって⋯思って⋯⋯」
    『ふむ、そうか。本来であれば当たって砕ける事も成長への良き刺激となるだろうから、失敗を恐れずに挑戦なさいと言うのが正しいのだろが⋯』

    (このフクロウさん達観してるな。じいちゃんより難しい事言う)

    『ふむ、他ならぬ恩人の頼みだ。善処しよう。それと、後で抜けた尾羽も一つ届けるから受け取って欲しい』
    「いや、貰っても困るんで⋯」

    それっぽい魔法の偽造に協力してくれると言う了承はすごく助かる。だが、後半の申し出には思わず首を捻ってしまった。羽なんて貰ったとしても使い道もなければ一体どう扱えば良いのか、と疑問に思っていれば答えはすぐに返ってきた。

    『いやなに、要らなければ捨ててくれて構わん。ただ、お主はフクロウの小屋へよく赴いているであろう?その時に私の尾羽を見える位置に付けておけば、あの小童共がお主に悪さしなくなる』
    「そんな効果が⋯」

    罰掃除の常連となりつつあり、小屋へと行く度にフクロウ達にこれでもかと突き倒されているマッシュには正直助かる内容だった。
    何せ、あそこのフクロウはまだ年若いのか人の言葉をあまり理解していない。そのためか、こちらに敵意はないと説得のしようがないのだ。

    『これでもフクロウの中では名が通っているからな』
    「じゃあ、遠慮なく⋯」

    ありがたく貰っておこうと思う。次の罰掃除に備えて。
    ここで罰自体を回避しようという思考にならない辺りがマッシュという男だった。

    フクロウとのコソコソ話が纏まった時だった、教師も大まかな解説を終えて実践してみせるから注目するように机を軽く杖で二、三叩いた。

    「では、このように、1・2・3、フェア、ヴァン、デルン」

    教卓に座っていた黒猫が杖の一振りと共に、繊細な紋様に装飾されたゴブレットへと変化した。
    淀みのない変身と、目にも鮮やかなゴブレット、そのどちらに対するものなのか教室の一部からは感嘆の声が聞こえる。

    「数を数えたのはあくまでタイミングを掴むための目安です。その時間分、どう形作りたいのかをしっかりイメージしなさい。イメージが固まったと思ったら杖を振り呪文を唱える。難しく考えず、とりあえずやってみるのが大事なのです。では、順番にやっていきましょう」

    順々に当てられ、成功で喜ぶ者もいれば不恰好な出来に落胆する者もいた。
    友人の成功に一緒に喜ぶ声、出来の悪さを揶揄いながらも次はできるさと励ます声⋯⋯そんな感じで教室内は適度に賑わっていた。

    「では、次、マッシュ・バーンデッド。やってみなさい」

    教師のその言葉にとうとう来てしまったとマッシュは僅かに顔を歪める。
    そして、教室内のとある変化にさらに眉根を寄せた。マッシュの名が呼ばれてからいやに周囲が静かで、何だか視線が突き刺さってきているような気がして落ち着かない。

    (あんなにも賑わっていたのに、なぜ?)

    マッシュの気のせいではなく、実際に教室内は静まり返り、周囲の視線はマッシュへと一身に向けられていた。
    入学試験からずっと悪目立ちを続けるマッシュに向かう視線は様々だ。次は何をやらかすのかと、どうか巻き込まないでくれと、好奇や畏怖の視線を向けて固唾を飲みながら見守っていた。

    ここまでの衆目を集めると思っていなかったマッシュは、緊張から「あばばばっ!」と慌てふためきながら杖を握る手を震わせた。

    「バーンデッド、落ち着いて、1・2・3、フェア、ヴァン、デルン、です」

    これはもう腹を決めるしかない。
    視線を向けた先のフクロウさんは胸を張り、こちらを強い眼差しで見つめてくる。
    その眼差しが『任せろ』そう言っているような気がした。
    なんて頼もしい。
    「君を信じます!」と、一つ頷くと、杖を握り直し、震える声でうろ覚えの呪文を唱える。

    「ふっ、フ、フェフェルディナンデス」

    少し離れた所からフィンが「マッシュくん、ですは呪文の一部じゃないよ!」と叫ぶ声が聞こえた。
    その声に周囲の視線がフィンへと逸れる。誰もが、「その程度の問題ではなかっただろう」と思っていたが、あえて声に出し突っ込む者は居ない。

    フィンの発言に皆の気が逸れたその一瞬を好奇とばかりにフクロウは頑張った。
    ゴブレットを意識したのか、身体を極限まで絞り、翼を交差させ、普段は左右に稼働しているところしか見た事がない首がやや斜めになりながら後ろに180度倒れている。
    果たしてそれが、その肉体に許されている可動域の範囲内なのかも怪しい形状だった。
    じっと見守るしかできなかったマッシュも、思わずコテンッと首を捻ってしまう。

    (うん⋯想像してたのと違うな⋯自信に溢れてたから、もっと変身魔法っぽいのができるんだと思ってたけど、すごい物理⋯⋯。それにフクロウさんプルプルしてるけどそれって大丈夫なの⋯?)

    マッシュは何も発しない。おかしな呪文の結果を見てしまった室内の人たちも無言だった。
    しん⋯と気まずい沈黙が数秒続いた後、たちまち周囲がヒソヒソとざわめきだした。

    「今アイツ、フェルディナンデスっていってなかったか?」
    「えっ、何あれ怖っ」
    「何をどうやったらそうなるんだ?」
    「呪文間違うとああなんの?気持ち悪っ」
    「もはや錯乱の呪文なのでは?」

    あくまで小声で話しているようだが、残念な事によく聞こえてしまっている。
    おそらく、フクロウさんにも筒抜けだ。
    悲しい事に、この聡明すぎるフクロウさんには皆の言っている意味も理解できてしまっているだろう。

    僕の為に本当に申し訳ない。
    もう頑張らなくていい、ありがとう、君は精一杯やってくれた。そう伝えようとした時だった。
    ぽそりと呟かれた女子生徒の声が響いた。

    「文献で見た人を呪い殺す像に似てる⋯凄く⋯⋯」

    女子生徒の言葉が途切れると、フクロウが机にべしゃっと崩れ落ちた。
    きっと、心に響いてしまったのだ。
    悪い意味で。
    精一杯の努力を人を呪い殺すような呪具と並べ立てられて良いはずがない。
    なんて酷(むご)い仕打ちだろう。
    彼の努力も知らずに、心無い言葉ばかりをこうも並べる事ができるのだろうか。人とは無情な生き物だ。

    もう、このフクロウさんを見ないであげて欲しい。
    そっと、手で好奇の視線からフクロウを遮ろうとするが、流石に自身の掌の1.5倍くらいの大きさの彼を全て覆い隠す事はできなかった。
    周りにバレない程度に、近づき小声で「僕のせいでごめんね。凄く、嬉しかった。カッコよかったよ。ありがとう」と伝える。
    結果はどうあれ、マッシュの為にとフクロウなりの最善を尽くしてくれた。
    その姿勢が嬉しくて、カッコいいと思った。だから、それで充分だと。

    フクロウはヨタヨタとフラつきながらもなんとか立ち上がる。
    起き上がったフクロウに、なだ何か起きるのかと、好奇や困惑の視線がまたも集中するが、そんな視線を意に返さずにフクロウは徐に尾羽の付け根に嘴を埋めると、ブチィッッ!!と羽を勢いよく一本引き抜いた。
    フクロウは引き抜いたばかりのその羽を、視線避けの為にと添えられてたマッシュの手に握らせる。

    『何も言うな。力になれなかったみたいだからな、詫びに今受け取れ』
    「うん、ありがとう」

    このフクロウさんはどこまでも男前だった。
    あんなに頑張ってくれただけでも十分だったというのに、どうやら結果が気に入らなかったらしい。その為、もう一つのお礼の品も前倒しでくれるという。流石に、これを断るのは申し訳ないので、素直にお礼だけ述べておく。

    その後、フクロウはそのままヨタヨタとおぼつかない足取りで歩きながら、最初に用意されていた止まり木へと戻った。
    何事もなかったかのように目を瞑り、我関せずの姿勢でいる。きっと、授業が終わるまではそのままでいるつもりなのだろう。こういった状況ではそれが最善かもしれない。
    こちらが取り乱すから周りも騒がしくなるのだ。だったら、この場合は平然を装い我関せずを貫くのが解決の最適解なのかもしれない。
    それならばと、マッシュもフクロウの姿勢に倣うことにした。




    そんな一人と一羽を他所に、教室はまたざわめきに包まれていた。

    「なあ、自分の羽を相手に渡すのフクロウのプロポーズって聞いたことあるんだけど⋯」
    「えっ?求愛?あれって求愛なの?」
    「つまり、錯乱魔法と魅了魔法のどっちなんだよ?」
    「錯乱したから求愛したんじゃね?知らんけど」
    「結局のところは⋯⋯錯乱魔法⋯なのか??」

    そんな周囲の光景をフィンとドットは「また新たな伝説築いちゃった⋯」と気が遠くなり虚空を見つめ、ランスは「この問題児が⋯」と呟きながら顔を覆っている。
    一部始終を見ていたレモンは「鳥風情が私を差し置いて⋯」と普段使わないような乱暴な言葉を吐き捨てていたし、教師に至っては、どう評価をつければ良いのか分からず眉間を抑えて苦悶している。

    混沌(カオス)、そんな言葉がピッタリと当てはまってしまうような状況だったが、だがしかしである。
    この場にいる誰も、マッシュ・バーンデッドが魔法を使えないなどとは微塵も思っていなかった。


    当初の目標が、この授業で“魔法不全者であることがバレないこと”だったのだから、きちんと目標は達成できている。


    マッシュにはそれで十分だった。










    【フクロウと思い出】

    *ここからはギャグではありません。
    1ページ目との温度差激しい。
    それでも良いよという方のみ閲覧して下さい。
    フクロウさんの過去が気になる方はそのままお進み下さいませ。







    フクロウは目を閉じてから、ありし日々の出来事を思い返していた。

    (なぁ、かつて私を友と呼んだ男よ。今日、お主の憧れていた存在に私は出会ったぞ)




    まだ幼かった自分を側に置き、日々研究を重ねては幼いフクロウへ嬉々として理想を語る男がいた。
    動物が好きで、好きが高じて動物の怪我の治療を専門とする治療師になった男。そんな彼は、希少な野生動物の保護活動も行いながら各地を転々としていた。
    いつも悩まされるのは、希少な動物と関わる際に参考にできる資料が少ない事。何が良くて、何がダメなのか常に手探り状態で悩み苦心していた。動物たちと会話ができたなら、この活動ももっと楽になるのにと、動物への負担を減らせるのにと考えた男は、何とか実現させられないかと研究に乗り出した。
    誰に話しても、「無理だ」「時間のムダだ」と言われるばかりで、人に話すことも相談を持ちかける事も諦めてしまった。
    だから、男は常に一緒にいる事になったフクロウに夢を語る事にした。
    肯定される事はないが、否定されることもない。
    そんな相手に話す男の目はいつも輝いていたし、少年のような無邪気さは二人きりの空間を温かく居心地のいい場所にしてくれていた。

    フクロウ相手だというのに、この男のおしゃべりは絶え間なく続くから、そのお陰と言っていいのか、フクロウは徐々に理解できる言葉が増えていった。
    理解できる言葉が増えるのに比例し、なんと無謀な夢を掲げたものだと呆れるも、心の片隅では少しの期待もあったのも事実だ。

    (この男と話せる日が、いつか来るかもしれない)

    そうしたら、この男の名前を知る事ができる。名前を呼んでやれる。
    そんな想いがフクロウの中には会った。
    辺鄙な所ばかりを好み拠点とする男には人との関わりなどほとんどなく、彼の名を呼ぶ者はいない。その為、彼と知り合ってからずっと彼の名すらフクロウは知らなかったのだ。たまに届く紙にそれらしい文言が書いてはあるようだが、フクロウが理解できるのはあくまで人の言語だけ。文字と呼ばれる墨の垂らされた跡はミミズが這っているようにしか見えず、そこから得られるものは何もなかった。

    男の名を知ることができないままの期間は続く。

    男と過ごす時間が一年、また一年と増える度、フクロウは賢くなった。男もそれがわかっていたのだろう、フクロウに話しかける頻度は増えていく。男の話しかける言葉に相槌を打ったり、顔を反らすことしか反応はできなかったが、男が嬉しそうに笑い、優しい手つきで撫でてくるから、それだけで良かった。
    ぽつりと呟かれる「私にも、お前の言葉がわかったら良いのに」の言葉に返す『私も、お主と話しがしてみたいよ』の声は届かない。

    伝えたい事は沢山あった。
    楽しそうに研究の成果を話す声が好きだった。優しく撫でる手つきは好きだが、いつも撫でてほしい位置がズレていることを教えたかった。怪我した動物を連れ帰ってきては、治療の度に突かれたり引っ掻かれたり、時には噛まれても救おうとするその姿勢が誇らしかった。
    まだまだあるのだ、研究に没頭するあまり寝食を忘れるのは止めろと⋯私の食事を忘れずに用意できるなら自分のも用意できるだろうと小言の一つも言いたい。

    それから⋯⋯『名前をちゃんと呼んでやりたい』それが何より一番に達成したいことだった。初対面の相手への自己紹介はマナーだろうと、それがなかったせいで私はずっと名を呼べなかったんだぞと、小言と一緒に突くことが何より一番にしてやりたい。
    だから、早く研究を完成させろと焦ったく思い始めていた矢先の出来事だった。

    一通の封筒が届き、「迎えが来るから、君はここで待っているんだよ」そう言い残し、男はある日突然、姿を消した。

    男の居ない部屋は酷く寂しいものだった。
    真冬の、暖炉の炎で暖まっていた部屋から暖炉の火が突然消えてしまったような、そんな寂しさ。
    明るい声も、笑顔も、温かい手も、見える範囲にない事がこんなにも心を空虚にさせるなんて知らなかった。
    虚しさを抱えた心は、体を動かすことを億劫にさせる。何もする気がおきない。
    食事はきちんと時間になれば出てくるように魔法をかけてあったが、手をつける気にはならなかった。

    そもそも、狩は得意だから必要になれば自分で用意できると言うのにどこまでもマメな男だ。
    この後に及んでも、出てくるのは名前すら知らないあの男の事ばかり。

    そうして、男が帰らないまま五度目の夜が明けた日の事。

    玄関の扉が開いた。けれど、待ち侘びた男の足音ではない。
    緩慢な動作でそちらを見れば、見知らぬ男と目が合った。

    「あぁ、君が戦死したルイーズさんのフクロウだね。君を迎えに来たよ」

    この時ほど、人の言葉など理解できなければよかったのにと強く思った日はないだろう。

    (あぁ、こんな形であの男の名を知りたくはなかったのに⋯)





    それから二十年余り、フクロウはイーストン魔法学校で暮らしていた。

    番も見つけたし、先に産まれた子供たちは魔法使いの伝書梟として活躍している。
    この前産まれたばかりの子供達が巣立った後は、もう余生をのんびりと送ろうと考えていた。
    きっと、あと数年で寿命がくるだろうその時を待つだけだから。

    約二十年、この人の出入りが激しい学校という場所で、あの男が語っていた動物と意思疎通のできる人間は居ないものかとダメ元で探し続けていた。ここには特に優秀な人材が集まるのだと知ったから、それならばと期待してしまったのだ。
    しかし、彼が人生の大半を費やした研究は未だに立証される気配もなければ、該当するような人物も見つけられはしなかった。

    やはり、夢物語だったのだと諦めていた。だというのに、運命とは時にとんでもないイタズラをしてくる。
    嫌々連れてこられた、一年生の変身魔法の授業でフクロウは運命の出会いを果たしてしまった。

    (なぁ、我が友ルイーズよ、お主への土産話ができたぞ。私を残して死んだ事をせいぜい悔しがるといい)

    とはいえ、きっと話せば悔しがるどころか目を輝かせるのだろう事は容易に想像ができる。
    まあ、それも、あの世できちんとあの男が研究の目標を達成していればの話ではあるが⋯。

    だが、唯一の友への土産話はまだまだ先になるだろう。
    せめて、この少年がこの学校を巣立つその日までは、そう思っている自分に気づいてしまったから。










    【登場人物紹介】

    フクロウ
    個体イメージはベンガルワシミミズク(白)
    名前は無い。ただ、ルイーズさんが「Bursch:ブァシュ(ドイツ語で男の子)」と呼んでいた時期があり、それを自分の名前だと思っている。
    大怪我を負っていたのをルイーズさんに助けられた。治療の際に、治療薬と時間遅延系の魔法が変な反応を起こしてしまい、他の個体よりも体の成長(老化)がゆっくりになってしまった特殊個体。それが原因なのか、他の個体に比べ一回り体が小さい。
    今の奥さんは三羽目。(妻の座をメスの方が奪い合ってるモテ男だったりする)
    巣に夫の羽を飾りたいと申し出られているのに、『飾る意味がないだろう』と断っているので、マッシュくんがフクロウさんの羽を持っていることがフクロウさんの奥さんにバレるとちょっと大変な事になる。

    ルイーズ
    動物を愛する慈善活動家。得意魔法は治癒と防御魔法。攻撃が得意で無い代わりに、守りの魔法が強い。
    資料では戦死の扱いになっているが、実際に戦って亡くなったわけではない。多種族との交戦の際、治癒術士として招集されていた。前線付近で活動していた時に、治療の拠点を潰すために攻め込んできた多種族から治療者を守るために生命力を削って防御魔法を張り、魔力の枯渇で生命維持ができなくなり亡くなった。救護されてた人たちが、あの人は「自分だけおめおめと生き残ったら、大事な友に合わす顔がありませんから」って言いながら守ってくれたと証言している。
    フクロウの元にちゃんと帰るつもりで、一時的な預け場所としてイーストンの人間に託していたのだが、帰ることは叶わなかった。
    フクロウに、生命に関わりそうな攻撃を一度だけどんなものでも防いでくれる防御魔法をかけていた。(フクロウはマッシュくんと知り合ったので一生知らないまま生涯を終えると思う)
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