余熱「……早く大人になりたいな」
演奏が止まり、ふとそんな呟きが聞こえて、楓は顔を上げた。
隣を見れば、ギターを抱えながら不貞腐れた顔をした七基がいる。
楓がバルコニーで晩酌をしている時にそろりと近場に寄ってきた彼は、演奏したい気分だからとおもむろにギターを弾き始めたのだった。楓は七基のギターの音色を独り占めするという、なんとも贅沢な時間を堪能していたが、この雰囲気の中、彼が突然そんなことを言い出すなんて。
「どうして?」
「だって、子どものままじゃできることが少なすぎるから。……今だって、主任がお酒飲んでるのをただ眺めてるだけだし」
「あはは、お酒がそんなに良いものかはわからないけど……」
楓はカシスオレンジが入った缶をくるくると傾けてみせた。
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