お題「ハロウィン」「Trick or Treat」、🦌夢ハロウィンは嫌いだ。
10月31日。悪い魂も含め、死者の魂が現世に戻ってくる日。
街中はすっかりお祭りムードで、誰も彼もが仮装をして練り歩いている。
街の喧騒を横目に、仮面も何もつけていない私は墓場へと向かった。
ーーー
暗く、冷え切った墓場で、手を合わせ、身内の死者を弔う。
何も仮装なんてしなくても、これだけでいい。
死者に思いを一通り馳せ、立ち上がろうとした時、背後に気配を感じた。
「?」
「やあ!浮かない顔をしているじゃありませんか!」
「あなた誰?」
背後にいたのは、真っ赤な悪魔のような見た目をした大男だった。動物の耳のような赤い髪に、赤い瞳で、鹿の角が生えており、赤いジャケットに身を包んでいる。そして、不気味なほどに笑顔を浮かべ、ギザギザの歯を剥き出しにしていた。
「すごいコスプレだね」
「コスプレ?なんですかそれハ!にしても、あなた浮かない顔をしていますねえ!ほら、笑って!」
笑顔の男は、手で私の口角を無理やりもちあげてきた。
「笑顔じゃなきゃおしゃれじゃない!」
紅い瞳と目が合う。
目の前の男は明らかに怪しげだが、つい先日両親が亡くなってから、しばらく笑えていなかった。笑ったのは久々で口角が痛い。少しだけ心がほぐれたような気持ちになった。
「なんかよくわかんないけど元気づけてくれてありがとう。」
「カカカー!!!どういたしまして!」
暗い墓場には似合わないほどの笑顔で、2人は笑い合った。
☬☬☬
街中を通り、家に向かう途中、悪魔のような男は、ずっと着いてきた。
ハロウィンということもあるはずだが、なんだか騒がしい。
「ほら!これなんかいいんじゃあないですカ!」
男が寄こしてきたのは、かぼちゃを笑顔の形にくりぬいているジャック・オ・ランタンだ。
頭にジャック・オ・ランタンを被せられ、視界が真っ暗になる。
「ほら笑って~!」
この男はどうやら頭がおかしいらしい。どうにか、ジャック・オ・ランタンを頭から外すと、いくつか貼り紙がされているのを見つけた。
[2mほどある赤髪の大男現る!人が攫われている!墓場に注意!]
2mの赤髪の大男。横をちらっと見たが、もう既に男はいなかった。
すーっと冷たい汗が頬を伝っていく。手足が冷たくなっていく。
居ても立っても居られず、私は家へと走り出した。
走る。走る。走る。
しかし、いつになっても家に辿り着かない。それどころか、男と出会った墓場にいつの間にか着いていた。道は間違えていないはずなのに。
墓から、小さなつぎはぎのモンスターのようなものが大量に現れ、足元を引っ張ってきた。身体が土の中に引き摺り込まれていく。身体が胴のあたりまで埋まったところで、あの悪魔が目の前に現れた。
「お前…!!!」
相変わらず不気味なほどの笑顔を浮かべた悪魔の紅い瞳がこちらを捉える。
男は矢継ぎ早にこちらにしゃべりかけてきた。
「Trick or Treat?でしたっケ???」
「ああ、そもそも私お菓子とか甘いもの苦手でしてねえ!お菓子は要りません」
「では、契約を」
そう言って、男は手を差し出してきた。彼の角は伸びていき、口の周りに縫い目と不気味なマークが浮かんでいく
がちゃん、と何かがはまる音がした。
☬☬☬
[10月31日、19時ごろ。ニューオリンズ在住、×××が行方不明になっているとのことです。警察は捜査を進めていますが、依然として行方は分からずー]
☬☬☬
ハロウィンは嫌いだ。首元の緑の首輪と赤い空を見てつぶやいた。