第五話 異世界に来たが男女の扱いが揺らいでる 途中 人魚は一途という言葉を知っているだろうか。
俺の世界にある人魚姫の物語が愛する王子を殺せないせいで自らの命を絶ち泡になった悲恋。どうにも純愛主義者ともいえる人魚が多いらしい。
いや、アズール先輩の家族の事情もあるように、最近は一生に一度の人、もしくは人魚を愛するということはなくなってきたようだと思っていた。
でも違うんだ。
原作世界はそうかもしれないけれど、この世界は男女の差が激しい世界。男性が貴重な存在で大切に扱うから、一途なのは女性の人魚とそう決められているらしい。
だからだろうか、何故か今の俺はアズール先輩に呼び出されVIPルームでモストロ・ラウンジで働いていそうな男性の服をいろいろ見繕われている。
「動かないでください、監督生さん」
「ひゃい」
至近距離から聞こえてくる魅惑の声。
悪い感じでいっちゃうとあれなんだけど、アズール先輩ってちょっと肉感が凄いというか、レオナ先輩もそうだけど脱いだら凄い身体してそうな人なんだよなぁ。
身体だけでその人の全てが決まるわけじゃないからあれなんだけど。
リボンを使って後ろに軽くまとめた髪からはふわっと花の香りがする。香水でもつけているのかな。タイトスカートを身に着けており、肌色のストッキングを身に着けている。
アズール先輩の吐息が肌で感じられるほど俺の首元の何かを確かめている。それがとてもこそばゆい。あとたまにぎゅっと抱きつかれる時があるので柔らかい感触というかなんというか。
両手を上げて俺は何もしませんよと合図しなきゃ大変な誤解を招いてしまうぐらいやばい状況だった。
「あ、のぉ……そろそろ終わっても……」
「いいえ、まだですよ監督生さん。契約したでしょう? グリムさんが間違って割った花瓶の代わりにあなたをしばらくの間借りると。モストロ・ラウンジで働いてもらうために服を新調しなくてはなりませんから……」
「じ、実験着でもいいと思うんですが!!?」
「何言ってるんですか。せっかくなんですから綺麗に飾り付けて僕の物だと教え────」
急に我に返ったかのように目を見開いたアズール先輩。
眼鏡を何度も駆け直したその顔は真っ赤で、照れているのだろうか。
「あ、の……?」
「ぐっ……忘れなさい! 『私』が言った内容は全部忘れてしまいなさい一か月ではなく三週間だけ働かせるという条件にしてあげますから!!」
「アッハイ!」
「ほら、早くネクタイをつけてホールに……あっ、いえ。僕の身の回りの手伝いでもしてもらいましょうか」
「……はい?」
先ほどまでは赤い顔だったというのに、今はとても悪そうな笑みを浮かべている。
「私だけの監督生さんだなんて、とっても良い響きじゃないですか。ねえ?」
そう言って俺の頬を撫でたアズール先輩に、今度はこちらが真っ赤になってしまった。