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    ひつじのゆめ

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    ひつじのゆめ

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    作業中のBGMに触発されて書いてしまった、アシュ←砂です。ガッツリ悲恋です。何でも許せる方のみご覧ください。
    全くもってくっつきません!!! なんで……?

    Please, Please forever. アシュラマンが結婚する。
    良い家柄のお嬢さんと、盛大な式を挙げるそうだ。本日正午、王家からそうお触れがあった。
    当然ながら魔界中はその話で持ち切りだ。特に本人の職場である悪魔超人軍では上に下にの大騒ぎ。晴れの日に出す文書や贈り物の取り計らい、そもそも結婚後の業務についてなど話題が尽きる事はない。

    そんな騒ぎの中、サンシャインは喧騒の届く事がない果ての果てにいた。風景を形成するのは岩と土、それから少しの草木だけ。飛ぶ鳥すらまばらなその場所で、ぼんやりと空を眺める。
    今日はよく晴れていた。雲一つなく、気持ちのいい空だ。穏やかながらも程よい強さの風が吹いていて、過ごしやすさも抜群。めでたい話が出てくるのに相応しい、実に良い昼下がりである。

    「最近かなり忙しそうにしてたからなあ、あいつ」
    六騎士としての業務をこなしたと思えば実家に呼び出され、それが終わればまた業務に駆り出される。ソツなくこなしてはいたが、通常時の倍くらい仕事をしていたように思う。
    ついでに言うと合間合間でスニゲーターと話しているところもよく見たが、あれもつまりそういう事なのだろう。全てが、身を固めて未来へ進むための前準備だったのだ。結婚し、子孫を残し、磐石の王になるための。

    (まあ、いい旦那になるだろうさ)
    高貴な生まれ故に尊大だが、その内に熱い心を秘めた男だ。秀麗な王子様の隣に相応しい別嬪だった奥方は勿論、いつか生まれることになる子のことも心から大切にすることだろう。良い男なのだ、アシュラマンという奴は。そこに関しては相棒として太鼓判を押せる。だから特に心配などなかった。恙無く幸せな家庭を築き、魔界を守っていってくれるはずだ。
    そんな奴の結婚が喜ばしくないはずがなかった。心から祝福したいと思っているし、実際に一足早く祝いの言葉を贈ってきもした。かけがえのない相棒だからと、将軍様の次に報告をしてくれたのだ。それは、誰より先に話を聞いたということに相違ない。有り難く享受して、祝ってきた。
    そう、本当に喜ばしい話だ。実にめでたく、素晴らしい話。

    ――だから、この涙はこれきりのものだ。

    「ッ、あ、ぅあああ……! 」
    すきだった。アシュラマンのことが、大好きだった。初めて抱いた、恋とかいうもの。そういう意味で、ずっと愛していた。
    口に出したことは一度もない。そんなことが許されるとは思っていなかった。二人の関係は相棒で、友人で、無二のタッグパートナーだ。それ以上になりたいなどと、傲慢な願いは抱くだけに留めた。ただ隣にいられるだけでも幸せだったのだ。
    そもそもサンシャインは男で、砂の超人である。アシュラマンと生涯を共にするには、大切なものがあまりに足りなかった。生殖のために必要な中身はなく、性別もまるで反対のもの。初めっから無理があったのだ。
    だが、それはそれで構わなかった。サンシャインが男で、砂の超人であったから、二人は今の関係になったのだと思っている。つまり、抱く必要すら無いたらればだ。

    それでも、考えてしまうのだ。
    もし女であれば、もし人の身体を持っていれば、もし気持ちを伝えていれば、
    そうすれば、もしかしたら――

    もしかしたら、あの男とずっと共に在れたのだろうか。

    (我ながら無茶苦茶な妄想だぜ)
    有り得ない話だ。地球が一周回るくらいしなければ、そんなことは起こらないだろう。だからサンシャインは今、こんなところで泣きじゃくっている。年甲斐もなく、情けなく、ただ独りで。
    ふと、強い風が吹いた。いつの間やら零れ落ちていた砂粒を巻き上げ、ささやかな竜巻を作る。それが相棒の得意技を思い出させて、けれどあまりに小さすぎて、サンシャインは思わず吹き出した。一度笑い出してしまうと、何故かもう止まらない。

    ――嗚呼、何て可笑しいんだろうか!

    不思議と凪ぐ気配をみせない風の中、サンシャインはただ泣き笑っていた。

    ***

    「全く……こうも時間が取れないものだとはな……」
    挙式までもう時間がないこともあり、アシュラマンの予定はギリギリまで詰まっている。幸いなことと言えば、通常業務を他の六騎士や部下たちが肩代わりしてくれたことだ。そのぶん今後に必要なあれそれを円滑に支度することが出来ている。落ち着き次第、埋め合わせをしてやらなくてはなるまい。
    だが、今はそんなことを言っている場合ではないのだ。既に普段より早い歩みを、もう一段階早くする。
    この忙しい中で、ようやく少しばかりの空き時間がとれたのだ。そうなれば、アシュラマンがやりたいことは決まっている。

    (軽いスパーであれば構わないと、許しを貰ってきたからな)
    向かう先は練習場、待つのは信頼すべきタッグパートナーだ。久しぶりにこうして肌を合わせる時間が取れたのである。一分一秒でも無駄にするわけにはいかない。
    もはや早歩きとは言えない速度で、夕陽の差し込む廊下を進む。通りすがりの誰かが何か言っていたような気もするが、些細な事だった。
    ようやくたどり着いた目的地の扉を、勢いよく開け放つ。
    「待たせたな! サンシャイン」
    そのままリング横で佇むサンシャインの元へ向かい、顔を見上げた。突然の登場に驚いたらしい顔は、たちまち歓待の意を如実に現した明るい笑みへと変わる。

    そこでふと、違和感を覚えた。常と変わらず乾いた砂の相貌。それが少し、湿っているような――
    「アシュラ? どうした、スパーはしないのか? 」
    不思議そうに声をかけられて、我に返る。そうだった、時間を無駄にしてはならない。
    「するに決まっているだろう? この間にお前の腕が鈍っていないか、試してやらねばならん」
    「グォッフォッフォ、それはこちらのセリフだな」
    こちらへ軽口を返すサンシャインの姿に、変わったところはない。あれは恐らく気のせいだったのだろう。そう結論づけて、巨体を追ってリングへと上がる。

    例え家庭を持つことになったからとて、超人レスラーとしての実力を落とすわけにはいかない。同僚スニゲーターのように、六騎士としての立ち位置と家庭を両立させてゆくのだ。
    ――そして出来うるなら、この男とのタッグもまた末長く。

    悪魔らしからぬ可愛らしい願いを込めて、アシュラマンはひっそりと笑った。
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