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    まろ眉

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    まろ眉

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    ニェンから逃げる話

    #ラン夢レン

    我が主よ、我が神よ 薄暗く果ての見えない静かな廊下に、穴の開いた風船に息を吹き込むような、必死な自分の呼吸音だけが反響する。
     追ってくる男から逃れるために抑える余裕もなく、もつれる足をどうにか絡ませずに走るのが精一杯だった。カーペット張りの廊下はふらついてすり足になる自分の足音しか立てず、背後の男との距離がわからないこともいっそう恐ろしかった。
     
     確実に、遊ばれている。

     グネグネと曲がりはするがただ一つの部屋も現れない一本の永久に続く廊下で、自分のようなただの人間が、獣の性質を持つ化け物を振り切ることなど出来るはずないのだ。かつて突き立てられたナイフの文字通り身を裂く痛みを思い出し、突如右も下も上も左もわからなくなる。幾度も繰り返し植え付けられた恐怖はもはや、体をまっすぐ立たせることもままならなかった。
     
     膝をつくことさえ出来ず頬に感じる粗いカーペットの感触。その奥に、微かな振動を感じる。煙の匂いが、してくる。
     
     無様に転がった体を必死に丸めて目をつむって祈った。どうか、悪い夢であってほしい。目を開けたら、見慣れることのない不気味な部屋のベッドの上であってほしい。逃げ出そうとしたことをなかったことにしてほしい。間違いだった。魔が差しただけなの。お願い、許して。
     荒々しく聞こえていた自分の呼吸はいつの間にか嗚咽に変わっていた。
     
     
     
    「悲しいか? 恐ろしいか? 可哀想になあ……」
     
     耳元で聞こえる甘い声が生ぬるい水のように頭の中を満たしていく。呼吸の音も、心臓の音も何も聞こえない。いま、ニェンの声だけがわたしを生かしていた。
     少しでも恐怖から逃れられるようにと顔を覆っていた腕を柔らかく解かれて、涙でぐちゃぐちゃの頬を指の背で撫でられた。覚えのある鋭い爪の滑る感覚に思わず引きつりながら息をのむ。
     
    「いま、お前を救ってやれるのは俺だけだな?」
     
     喉の奥で笑った男の言葉に、わたしは目を閉ざしたまま何度も頷いた。

    我が主よ、我が神よ
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    まろ眉

    DONEルーサーにおやすみのキスをしてもらう話
    冬が好きだ。ピリと冷えた空気のおかげで、普段は感じない男の熱がしっかりと伝わってくるから。ルーサーの、本をめくる音だけが心地よく耳をくすぐる静寂の中、私たちは肩を寄せて体温を分け合っていた。ベッドフレームに背中をあずけて、一枚の毛布に包まっている。少し粗くてざらついた感触のそれはあまり好みではなかったけれど、こうして彼の肩に頭をくっつけていれば気にならなかった。すっかり装飾品を取り払ったルーサーの指が、紙の上を滑る様子をうっとり眺める。この二人きりの特別な時間を、私はクリスマスの朝よりもずっと大事に思っていた。毎年楽しみに準備している彼には悪いけれど。「もう眠るかい?」私の頭が何度も肩を滑り落ちるのに気付いたルーサーが、紙の上の文字を追っていた目をこちらに向ける。久しぶりに視線が合ったのが嬉しくて、体ごと向き直ってぎゅっと抱きついた。私は二の腕に顔をうずめたまま首を振って、眠らない意思を表明する。「困った、どうしたら眠る気になるのかな。……教えてくれる?」少し体勢を変えたルーサーの体重でベッドが小さく音を立てた。手のひらが頬をなぞって、金属の冷たさを忘れた指が、髪を梳くようにして首の後ろを滑る。くすぐったさに身をよじりながら、厚い体に抱きついていた腕を首へと回すと、彼の体が自然とこちらに寄り添ってきた。そっと頬の辺りで囁くと「仰せのままに」と瞼にキスが落ちてくる。そのまま額、頬、鼻先と次々振ってくるキスにくすくす喜んでいるうちに、私たちはすっかりベッドにもつれ込んでいた。私を見下ろす四つの瞳が、静かに問いかけている。「おやすみのキスはまだ必要かな?」答えの代わりに、私は彼の少しかさついて仄かにぬくい首筋に口づけた。
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