Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    まろ眉

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💋 🐈 💗 💐
    POIPOI 14

    まろ眉

    ☆quiet follow

    逃げた女を追うニェンの話

    #ラン夢レン

    救いうるは愛なり 男は女を愛していた。

     何故なら、女の存在が深く己を満たすものであったからだ。男よりよっぽど小さく柔い体は、少し触れるだけで大袈裟に傷つき男を楽しませたし、喉奥で押し殺そうと努力した悲鳴はうるさくなくて、どこまでも都合がよかった。
     男の所業に決して反抗せず、耐えるばかりの姿は少しつまらなくもあったが、許しを請うような甘えた目で見上げられるのは、なかなか気分の悪いものではない。

     そして何より、男――ニェンの振る舞いを見ても、主人であるルーサーが女の味方をしなかったこと。これが取り分けニェンを満足させることとなった。普段、残酷なほどに平等で公平なご主人様が、この女と天秤にかけたうえで、明確に自分を贔屓した。ニェンはそう感じていた。主人にとって、自分は特別扱いに値するペットだと。言葉はなくとも伝わってきた気がした。
     

     ◆
     

     食事の席で、顔を青々とさせる女がいた。

     家族全員で囲む愛ある食卓で、女一人が孤独に震えている。ニェンはそれを哀れに思う。腹が減っているだろうに、食事が下手なせい・・・・・・・・で一人では食べることが出来ないのだ。
     ニェンは席を立ち女の傍に立つと、代わりに皿の中身をスプーンで掬う。頑なに結ばれた口まで運んでやると、女は懇願するように首を振った。珍しく抵抗をみせる様子に、ニェンの口角が愉し気に持ち上がる。ほんの少しの時間、抵抗を満喫したあと、お構いなしに唇を指で割って、その隙間から料理を流し込んだ。嘔吐く女の耳元で「飲み込め」と低く囁いてやると、涙をこぼしながら頑張って嚥下する。その姿がいじらしく可愛いので、ニェンはよくやったと頭を撫でてやった。

    「わたしのペットたちは仲がいいね」と主人が喜ぶので、ニェンはますます女のことが好きになった。
     

     ◆
     

     女が逃げた。

     偶然か意図したことかは知らないが、月のない夜だった。明かりもなく薄ぼんやりとした廊下は、女にはさぞ暗かろう。ニェンは、もたつく足で必死に自分から逃れようとしている女の背中を見て、かわいそうにと口の中でぼやいた。

     誰も彼も、お前を逃がすつもりなどないのに。

     女に対して、ニェン以外の家族は静観しているように見えた。生きていくうえで必要なものは与えるが、その環境をどう扱うかは女の意思に任せる。彼らは、彼女がアイボリー家に適応するのを、一歩引いたところで常に見守っていた。仔猫を迎えたばかりの家族のように。人外の考えなどわからない女からしてみれば、ただただ不気味でしかなかったのだけれど。

     ニェンから見て、女は落ちこぼれだった。ネズミのようにおどおどしているくせに、追い詰められたって噛みつかない。食事も下手くそ。少しいじめてやっただけでドラマチックに痛がってみせるが、ニェンからすれば通りすがりにちくっと爪を立てた程度のものだ。勘も鈍くて、一人ではバスルームにさえ辿り着けないのに、そんな弱っちい小さな体で、一体どこへ逃げられるというのだろう……。
     女の懸命な足音と呼吸の音に混ざって、ニェンの喉元から漏れる低音が、静かに空気を揺らした。

     この家は望む者の想いに合わせて形を変える特性を持つ。気まぐれなので、常に何時もというわけではないが、今日に限ってはニェンの気持ちに応えるかのようだった。出口どころか逃げ込める部屋さえ現れない廊下を、女は逃れるために、ニェンは追うためにひたすら駆けた。

     永遠とは、世間一般でもてはやされるよりもずっと恐ろしいものだ。それに薄々気づいたのか、やがて女の足が止まり、その場に崩れ落ちる。自分を守るように、頭を抱えてうずくまるその姿にニェンは庇護欲をそそられ、女の傍に片膝を立てて寄り添った。荒い女の呼吸が嗚咽に変わっていく。
     

    「――悲しいか? 恐ろしいか? 可哀想になあ……」
     
     罪びとの懺悔に心を砕く神父のように、心からの慈悲をもって語りかける。
     女がどんな表情で自分を見るのか、知りたくなったニェンは、その頭を抱え込む腕をやさしく解いてやった。硬く閉ざされたまぶたは、全てを拒むように寂しく震えている。涙で濡れた頬を指の背で撫でてやると、女は身を震わせて息をしゃくりあげた。
     
     女のことが、哀れで、かわいそうで、かわいくて、愛おしかった。何も出来ない女のことを、ニェンはずっと自分だけが憐れんで、かわいがって、慈しんで、愛してやりたくなった。
     小さく震える耳にそっと唇を寄せ、口づけるように言葉をそそいでやる。
     
    「いま、お前を救ってやれるのは俺だけだな?」
     
     女は指を組み、目を閉じたまま何度もうなずいてみせる。その姿はまるで、神に祈る敬虔な信者のようだった。
    救いうるは愛なり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    まろ眉

    DONEルーサーにおやすみのキスをしてもらう話
    冬が好きだ。ピリと冷えた空気のおかげで、普段は感じない男の熱がしっかりと伝わってくるから。ルーサーの、本をめくる音だけが心地よく耳をくすぐる静寂の中、私たちは肩を寄せて体温を分け合っていた。ベッドフレームに背中をあずけて、一枚の毛布に包まっている。少し粗くてざらついた感触のそれはあまり好みではなかったけれど、こうして彼の肩に頭をくっつけていれば気にならなかった。すっかり装飾品を取り払ったルーサーの指が、紙の上を滑る様子をうっとり眺める。この二人きりの特別な時間を、私はクリスマスの朝よりもずっと大事に思っていた。毎年楽しみに準備している彼には悪いけれど。「もう眠るかい?」私の頭が何度も肩を滑り落ちるのに気付いたルーサーが、紙の上の文字を追っていた目をこちらに向ける。久しぶりに視線が合ったのが嬉しくて、体ごと向き直ってぎゅっと抱きついた。私は二の腕に顔をうずめたまま首を振って、眠らない意思を表明する。「困った、どうしたら眠る気になるのかな。……教えてくれる?」少し体勢を変えたルーサーの体重でベッドが小さく音を立てた。手のひらが頬をなぞって、金属の冷たさを忘れた指が、髪を梳くようにして首の後ろを滑る。くすぐったさに身をよじりながら、厚い体に抱きついていた腕を首へと回すと、彼の体が自然とこちらに寄り添ってきた。そっと頬の辺りで囁くと「仰せのままに」と瞼にキスが落ちてくる。そのまま額、頬、鼻先と次々振ってくるキスにくすくす喜んでいるうちに、私たちはすっかりベッドにもつれ込んでいた。私を見下ろす四つの瞳が、静かに問いかけている。「おやすみのキスはまだ必要かな?」答えの代わりに、私は彼の少しかさついて仄かにぬくい首筋に口づけた。
    719

    related works

    recommended works

    Umemiya

    MEMO🔪❤️ サドtop×🔪に心酔してる恭しい鬼bottomの妄想。解釈グダグダ注意
    🔪❤️ekiはただの人間だけどドtop energyと飴鞭でvoxを振り回す。voxは惚れた弱みの擬人化。すっごいプレイを要求されても全然答えられるつよつよ受け。どちらも経験豊富。身長も年齢も身体能力でもvoxには敵わないけどekiのほうが精神的に強いと良いな。いきいき生きるタイプってよりかは「しぶとい」の方。ちっとやそっとじゃくたばらないekiにどこか救われてるvox

    ここまで書いたけどekiが人並みに脆くても良い。プレイで散々ekiに虐められるくせに、普段の生活では甲斐甲斐しく尽くすvox(心酔からってのもあるけどekiが儚く見える&恋人云々以前に大切な人間として守りたい) ekiとしては俺も成人男性だしそんなヤワじゃねえよ…と思いつつもvoxを侍らせるのはそんなに悪い気はしないとかだったら良い。でもvoxの過保護を徹底的に振り払うeki様も見たい。可能性無限大cp。その場合、奉仕を断られて子犬みたいにしゅん…ってするvoxにこっそり愉悦を覚えるeki様でも良い。voxはそれに気付いてない。voxは、無下にされても自分がekiに尽くす行動自体に意味があると考えそうだけど、稀に寂しくなって激し目に求めちゃったり、寝てる(とvoxが思ってるだけで本当は起きている) ekiの手を借りて自分の頭に擦り付けたりする。
    724