読書の秋だからというわけではないけれど、なんとなく手を出した少女漫画が面白くて、ついついこんな時間まで読みふけってしまった。気が付けば時計の針が深夜を指している。いつもならとっくにベットに入っている時間だ。リビングを後にした私は、寝室までの道すがら、何度もあくびを噛み殺していた。滲む涙を服の袖に吸わせながら、半ば眠った状態の頭で階段を昇る。最後の段に足をかけたとき、急に視界に飛び込んできた黒い人影に驚いて、大きく後ろへと体が傾いた。着地点を失った足が空をかき、体が投げ出される。一瞬、全てのものがスローモーションになって、階段の先で焦った表情のニェンがこちらに手を伸ばしているのが見えた。咄嗟に出した腕が掴まれ、熱くて弾力のある体に強く抱きしめられる。何度か衝撃が走ったあと、うつぶせになる形でやっと止まった。最後に顔を強く打ち付けたようで、唇に裂けるような痛みが走る。じんじんと熱を持つ感覚に悶えながら目を開けると、鼻先が触れあいそうなほどの距離でニェンと目が合い、呼吸が止まる。慌ててのけ反った私の腰に腕が回り、ぐっと引き寄せられる。ニェンは血で赤く濡れた唇をにやりと歪ませ、私の唇を親指でじっくりなぞった。「傷物にした責任、もちろんとってくれるんだよなあ?」……これ、さっき少女漫画で読んだやつだな?