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    norenwokugure

    モチベよアッガーレ⤴

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    norenwokugure

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    閲覧数どうこうより単純に「作業進捗」つって出すのが効果的らしいと気づいたよね。こちらでは言い忘れたけどあけましておめでとうございました。

    「わーい、でーきた!」
     いぇーい! と歓声を上げながら、リトアナとリモネが両手を打ち合わせる。
    冬の冷たく乾いた空気が、二人の掌から発した音をビレッジ中に高く響かせた。
    その音にため息をつきそうになるのをソフィはぐっと堪えて唇を噛む。弟子であるリトアナに対しあれこれと物を申したくなるのは師匠として当然のこと。しかし余計な手出しをするのも指導者としてはいかがなものか。火薬の量は間違っていないか。花火の位置はそれで合っているか。風の向きは考えているか。ひどく怖がりのくせに大胆で危ないことが好きなリトアナのことだから、マッチを擦った瞬間に連続して花火が暴発、なんてことも考えられる。倫理的に絶対にしてはならないと頭では理解していても――さすがにそれは理解していると思いたい――抑えられるかどうか。
    不安は尽きない。頭の上に靄のようなものを浮かび上がらせそうなほどにぐるぐると思考を回すソフィの肩を、下から上がってきたディミエルが肩でこつんと押した。
    「なーに、まだ心配してるのぉ? はいコレ、ジョゼットさんから、グリューワイン。大人だけの特権よ」
    「ああ、すまない……それは当然だろう。師の私が言うのもなんだが、花火を作ったのはリトアナだぞ?」
     透明のプラカップの中には赤ワインと色とりどりのフルーツ、それからシナモンを飾り付けてある。熱さ対策でスリーブもしっかり巻かれていて、素手で持っても火傷しないように配慮されていた。
     個人的なビレッジの集まりに過ぎないのに、コストはどうなっているんだろうか――とスリーブを回すと、「本日の占い」という印字が目に入る。今日のあなたの運勢は、まで読んでくるりと裏返す。
    「あ。読んでよ。せっかく用意したんだから」
    「今この瞬間の運を天に任せる気になれない。というかこれを用意したのは君か」
    「ジョゼットさんにはいつもお世話になってるから、救援物資として、ね」
    「抜け目がないな、君は」
     ワインに口を付けると、冷え切った体が芯から温まる。ディミエルが袋を持って「ちょっと行ってくるわ」と側を離れた。ひらりと舞うスカートから覗く白い足が寒そうだが、本人は寒さを体感していない。唯一防寒具と言えるのは首に巻いた赤と緑のチェックのマフラーだけ。あれは元々ソフィの持ち物だったが、今年からなんとなく彼女のものになった。古いものだから新しいのを買いに行かないかと誘ったが、「気に入ってるからこれがいい」と言われてそのままである。
     リモネとリトアナに二言三言となにかを話し掛けながら、ディミエルは袋を手渡す。代理で受け取ったリモネが歓声を上げて、中のカップをリトアナに渡した。僅かに緊張した面持ちのリトアナと、なんだか妙に楽しそうなリモネがあれこれと状況説明を始める。頷きながら時々顎に指をかけて思案する横顔が少しだけきりりと引き締まる。そうして一言二言と声をかけ、和やかに談笑を追えると、ディミエルはひらりと二人に手を振ってこちらに戻ってきた。
    「……大丈夫そうか?」
     ついつい生来の心配性が顔を出すと、ディミエルは小さく苦笑を浮かべて言う。
    「気になるなら自分で行ったら?」
    「……私は本番では口を出さないと約束した」
    「もう、生真面目ねえ。そんなの今さらじゃない。成分表だってヤークさんとあなたで何度も確認したし、採取に行く時は私とリモネが同行したし、制作にはあなたとアルト君とでチェックも入れたし、その間におかしなところなんてなかったでしょ。それに、あの子が暴発するのって案外周りの安全をちゃんと確認してからだし、心配ないと思うけど」
    「プレッシャーに負けて一人にすると何をしでかすか分からない。だからさっきから目が離せないんだ」
    「プレッシャーねぇ」冬の寒空の下、いつも通りの格好の上にマフラー一枚巻いただけの恋人が肩を竦めて言う――「お気の毒様だこと」。
    「きみ、他人事だと思ってないか?」
    「リモネもいるんだし、ちょっと心配しすぎなんじゃない? 少しはお弟子さんを信用してみてもいいんじゃないかしら。みんなにきれいな花火を見せたいって気持ちも嘘じゃないでしょうし、さすがに今日は暴走する感じではなさそうよ?」
    「君はまだリトアナの恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ」
    「恐ろしさって。……まあ、分かるけどね……花火って要するに、きれいな爆発物だし。でも、今考えても仕方ないでしょう? 許可はあなたが出しちゃったんだし、現実はこうやって動いてる。あの子の花火を見に、今年はたくさんの人がビレッジに来たわ。去年とは大違いね」
     カップからふわりとオレンジとシナモンの香りが漂う。ちびりと舐めるようにコップを傾けてワインを嚥下した。ビレッジの高台から下を眺め渡せば、もう日付も変わろうかという深夜帯だというのに未だにあちこち煌々とライトで照らされている。ダルスモルスとクルブルクとで行われたハロウィンパーティー、次いでダルスモルスではクリスマスパーティが開かれ、気づけばあっという間に年末である。年が明ける瞬間に何もしないのも寂しいなあ、と神の使い――ノーイが呟いたのをきっかけに、お祭り騒ぎが好きな面々がこぞってビレッジに集まって、何とも名称のつけ難い集会を開こうと計画を始めた。その企画書の中にずらりと並ぶ面子の中にリトアナの名前を見つけた時の衝撃たるや。なぜ、この真冬の夜中に花火を打ち上げようなどと言う企画が持ち上がるのか。花火は別にいい。問題は、その花火を企画して打ち上げるのがリトアナである、ということだった。
     結局はヤークが花火制作の監修をすることになり、本番まで逐一ソフィがチェックを行うことを条件に許可を出した。その時にリトアナの顔に浮かび上がった輝かんばかりの笑顔は、むしろこちらの懸念を罪悪感に変えてしまいそうなほど輝いていた。
     それでもなお弟子のすることが心配でたまらない。元々の心配性と、リトアナの暴走癖と、それから、多分――未だに心の底で澱のように淀む過去の失敗のせいで。
    「去年は、みんなを早めに帰してアタシたちで薬を作ってたでしょ? だから、あの子なりに考えるところがあったみたいよ」
     2年目の年末を迎える前にとにかくこの真っ黒な業態をなんとかしよう、と年明け一番にディミエルに提案されたのがつい先ごろのことのように思い出される。出来るだけ無駄な働きをせずに利を得るということに関してはほとんどディミエルの独壇場で、ソフィのすることと言えばディミエルが叩き台として見せてくれた業務改革案をきちんと訂正、清書して、ノーイと、ラウラを通してエリック王に上奏するくらいのことだった。そのおかげで、今年の年末はフラスコを振り続けずとも年末を迎えられる――そう思ったところに弟子の驚きの企画。それをただ黙って見守らなければならないという己の立場。
    「……胃が捩じ切れそうだ……」
    「もー、心配し過ぎて物事の本質を見誤ってるんじゃないかしらね?」
    「本質……?」
    「あの子がどうして花火を打ち上げようと思ったか、よ。召喚者として、あの子なりに考えるところもあるんじゃない? この2年間、ぼんやりなにもしないで危ないことばっかり考えてたわけじゃないでしょ。……。うん……多分、ね?」
    「多分……」
    「言っててちょっと怖くなってきちゃった。そうは言っても、あの子って危ないこと、好きだものね……? 怒られるって分かってて突っ走りたくなるのって、あのくらいの年頃だとよくあるし……?」
    「そ……っ」
     そうだな、か、そんなことはない、か。胃の腑から込み上げるようなストレスを覚えて、ソフィは「ちょっと行ってくる!」と足を踏み出した。視界の端で、ディミエルがひらりと手を振って唇に孤を描く。
     もしかして乗せられたかな、という気持ちもないわけではない。心配性な自分を知った上で誘導することくらい、あの人には訳もないだろう。口は出さないとリトアナに約束した。それでも心配でたまらないのだ。失敗を恐れるなと言うべきなのだということは分かっている。
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    norenwokugure

    MAIKING生やす話に説得力持たせようと思っただけなんです!違うんです!生えないんです、どうして……互いに剣を打ち込み合って得る一体感、というものが羨ましくなる時がある。
    ありがとう、礼を言いながら薬を受け取るジークの、薄氷のような色の目を見るともなく見つめる。この瞳に見据えられた相手はどう感じるのだろうか。高揚するのか、あるいは絶望のようなものを感じるのか。
    「なかなかいい練習試合だったと風の噂で聞いたぞ。あちらも君とは腕試しをしてみたかったそうだから、今回のことはいい機会になったんじゃないか?」
    「手合わせだなんて、とても言えないよ。彼が私の矜恃を守ってくれただけだ」
    同郷同士で、職場も同じ、加えて生真面目な性格という共通点の多さから、ソフィとジークの関係性はもはや同僚というより友人と言っていいくらいに近しかった。いつもの堅いジークを知っている者が見れば驚くであろうくらいには、ジークの表情は穏やかに緩んでいる。
    「手合わせをしたいと正式に申し込まれた時は驚いたが……素晴らしい剣筋だった。生まれて初めて、負けるかもしれない、などという私的な感情を戦闘中に覚えたよ。最後には手加減させてしまうことになってしまって、本当に申し訳なかったと……ああいう人もいるのだな……」
    ジークの目はほん 1029

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