海開き梅雨も明け、熟しきった太陽がカンカンと砂浜を照りつける。ザザァと涼し気な波音が聞こえるが、体感的な涼しさは一欠片も感じない。

「いやあ今日は佳い海日和だねえ！入水にも丁度ぴったりじゃないか！」

「わーい海だー！何食べよっかなあ〜かき氷にぃ、焼きそばにぃ、後は其れから…」

「善いですね！僕はイカ焼きとフランクフルトと焼きとうもろこしとカレーライスが食べたいです！」

「海水浴場で自殺をするな太宰！！あと乱歩さんと賢治は食欲旺盛で佳いことだが！メインは海だぞ！」

「ははは、僕は海にぷかぷか浮いてみたいです」

「浮き輪も持ッてきたからね、後でボクも一緒に泳ぎたいな」

「水鉄砲も持ってきましたから、海で泳いだ後撃ち合いっこしましょう！アサルトライフルの水鉄砲もありますよ！」

敦、谷崎兄、弟も共に、武装探偵社一行がぞろぞろと砂浜へ歩を進める。
───── 一方、其の反対側からは。

「佳い天気だねえ！エリスちゃんの可愛い水着姿を拝めることが出来たし、もう大満足だよ！」

「リンタロウ近づかないで！アタシは可愛い浮き輪で遊ぶ為に来たんだから。リンタロウ早く空気入れなさいよ！」

「エリス嬢、其れは俺がやりますよ」

「…何故僕が海などに…」

ぞろぞろとポートマフィア一行も砂浜へ歩を進める。

「国木田くーん、テント何処に張る？」

「此の辺りにしてみるか。海の家からも近いしな─────」


「テント何処に張ろうかねえ」

「首領、拠点は海の家近くで如何でしょうか──────」

双方テントを張る目安となる海の家へと向かう。すると、テントを張る場所を考えていた国木田と中也の視線が、パチリと合った。

「...................」

「...................」

目線があった儘、真逆想像もしていなかったこの状況に、互いの思考が停止する。こんな猛暑だと云うのに、凍ってしまったかの様に固まる国木田と中也。そして、此の沈黙を破ったのは、国木田の後ろに居た太宰であった。

「は？中也？最悪、うわ最悪。しかも森さんまで居るし。何しに来たの？興醒めなんだけど」

「ァ？其れは此方の台詞だクソ太宰！なんで手前が此処にいンだよ！！」

太宰と中也は視線をぶつけた瞬間、罵るという名の挨拶をする。そんな双黒を見て森は「君たちは本当に仲がいいなあ」とニンマリ口角を上げて云うと、2人は其れに「「仲良くない！！」」と揃えて森に噛み付いた。更に笑みを深める森に、太宰は静かに青筋を浮かべる。

「君も、久しいねえ」

「...お久しぶりです」

笑顔を貼り付け、弟は困惑の入り交じった微笑を浮かべる。流石にこの状況は直ぐに飲み込めない。あれ自分がポートマフィアに所属していた頃海なんて行ってたっけな、なんて現実逃避している。
双方、顔を合わせるのは組織戦以来であるが、横濱の薄暮を牛耳る武装探偵社と、夜を牛耳るポートマフィアの次の再会が海水浴場だなんて、誰が予想したであろうか。

「いやあ、真逆休暇が探偵社と被るとはねえ。吃驚吃驚」

「...今日から海開きですので」

「ポートマフィアが揃って海遊びだなんて、余程横濱の夜は平和らしいねえ。佳いことじゃあないか」

国木田が指で眼鏡のブリッジをくいと押し上げて云うと、乱歩がひょこりと顔を出す。唯でさえ猛暑日の砂浜は蒸される様に暑いと云うのに、更に重い空気が降り掛かる。

「ま、僕はポートマフィアが暇だろうが忙しかろうが何方でもいいんだけど！そんな事よりさ、誰か早く僕の浮き輪に空気入れてよ！暑いったらありゃしないんだから！」