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    higuyogu

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    higuyogu

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    ミトピ。賢者と呪い。耳掻き。ぷらいべったーから

    「うーん、なかなかいないもんだな…」
    宿屋のとある一室、賢者様はこのあいだ立ち寄った村で買った、へんてつのない棒を耳に突っ込んで遊んでいる。さっきからずっと耳に棒を入れては引っ張り出し、ない、とれない、と溜息をついていた。

    ボクはこの賢者様と世界各国をあてもなく旅をしている。完全に理由が無いといえば嘘になるが、やっていることはほとんど観光と変わらない。賢者様はボクの師であり保護者代わりでもある。

    賢者様が耳かきと格闘しているその隣のベットで、ボクは久しぶりにあじわえるベットの柔らかさを噛み締めながら、スマホをいじりブログの更新に苦戦していた。
    ベットが久しぶりというのも、連れの賢者は大の野宿好きなのだ。どのくらいの熱中ぶりかといえば宿屋がすぐそばにあるにもかかわらず野営するくらいで、なかなか泊まることができない。
    だからこのふかふかに全身を預けている(しかも日が落ちる前から!)今は貴重な時間である。が、なかなかブログ記事のネタが浮かばない。これではふかふかも台無しだ。なんとか早く書き終えて身も心も預けてしまいたいのに。

    「耳かきされてみません?」
    唐突だった。まさかこちらに矛先が向けられるとは。しかも今自分は執筆に勤しみたい。されてみるわけがないだろ。
    「まぁそんなこと言わずに、」
    細い棒片手にこちらのベットまでにじり寄ってくる。耳垢がぜんっぜん採れなくてつまらいんですよ…でも若いあなたなら新人代謝が良いのでいくらか取れる気がするんです!らしい。はあ?ふざけるな、こちとら忙しいんだ。
    「ヤですってば。なんでそんな物を耳につっこまれなきゃならないんですか。採れないならやる必要ないってことじゃないんですか?」
    「やる前から結果を決めつけるのは良くないですね。それに耳かきは娯楽なんです。必要かどうかを問うのは野暮ですよ」
    じゃあやらなくてもいいんじゃん。やりませーん。
    「ボク、ミニマリスト目指してるので無駄なことはしないんです。あっちに帰ってください。」
    「…今、ブログ更新にてこずっているんじゃないですか?」
    「うるさいな」
    「もしかしたらネタにできるかもしれないですねえ、耳かき」
    その言葉に少し揺れ動く。
    「でも、地味じゃないですか」
    「でも、初めてやることですよ。いつもみたいに怪物に襲われるよりも新しいことがたくさんあるんですよ?」
    「怪物に襲われてるとかそんなつまんないことは書いてませんよ。うーんまあ確かに新しいことかも…」
    「リラックス効果もあるらしいですよ。ね、ね、長旅の疲れを癒してみましょうよぉ」
    賢者様はだめ押しと言わんばかりに付け足してきた。リラックス効果うんぬんとは何とも嘘くさい。そう、嘘くさい。だがボクはこの言葉に惹かれてしまった。実のところ正直今日はもうブログなんか投げ出したかった。ふかふかしたい。その口実になるんなら乗ってやってもいいかもしれないと思った。
    「んじゃあ…させてあげてもいいですよ」


    「ありがとうございますではここに頭を置くように横になってください。」
    肩にかかる髪を結わい、ベットに足を伸ばして座った賢者様は太ももに誘導してきた。まさかこんなに密着させてするものだとは思わなかったが、ずっと2人きりで旅をしてきたのだから今さらこんなことを気にするのも馬鹿らしい。頭を乗せて収まりのいい位置を探す。少しくすぐったそうに脚が動いた。耳の上の方をつままれ軽く引っ張られる。
    「フム… んー、ぱっと見はきれいですね…まぁとりあえずまずは外側から。」
    髪を少し撫でられて猫っ毛ですね、と耳にかけられる。何かが耳に触れた。そしてそのまま溝に沿って動く。

    さりさり、すりすり

    しばらくなぞると離れて行き、また戻ってくる。痛みはない。程よく軽い力加減だ。なかなか器用なこともできるんだな。早くもなく遅くもなく、

    すいすい、すり、すり。

    耳かきという名前の奇妙さに少し警戒していたのかもしれない。割と悪くない。特段気持ち良いわけでもないが、不快ではない。棒が耳をするだけなのにクセになりそうなのが不思議だ。
    溝だけでなく耳たぶや耳の裏も、かくというよりは押したり撫でたりされている。力が抜けて頭が沈み込みそうだ。

    くいくい、ぐ、ぐ、さりさり、


    「ああ、やっぱり溝には溜まりますね。痛くはないですか?…そうですか、よかった。もうそろそろ耳の奥もやっていきますからね、何かあればすぐに言ってください。」
    今まで耳の外ばかりを行き来していた棒が穴の方をかき始めた。まずは穴の周りからやるみたいだ。浅いところをかりかり、さりさり、と掻かれる。そして少しずつ奥に進んでいく。
    自分の指も届かない領域にさしかかると少し怖くなって肩に力が入った。それを察したのか、動きがゆるくなった。耳かきを手にしてない左手もなだめるように頭をゆっくり撫でた。

    かさかさ、ごそごそ、ぱり、音が変わっている。ぱりぱり、すりすり、かし、かし

    何かが張り付いているような、それとも浮いているような、なんだかよくわからない音だ。さっきよりも弱く撫でられている。慎重になっているのかもしれない。だとしたらちょっと申し訳ない。今度は壁に沿うようにぐるり、ぐるり、と棒は動き、離れていった。
    「おお、なかなか出てくるじゃないですか!私の耳なんかカスすら出なかったのに!ほら見てみます?ほらほら」
    賢者様は紙に拭ったカスを見せてきた。どこにあるのかわからず目を凝らすと、棒の先が採れたゴミを指した。さじの先にちょっとだけ。だから何?という程度のものがこべりついていた。こういうくだらないことで喜べるのはある種才能だと思う。
    再び膝の上に頭を戻し耳かきを続行してもらった。カスが取れたことが余程嬉しかったのか、先ほどよりはやや雑に掻かれる。少し怖いが、これはこれでありなので何も言わずに様子を見る。

    ごそりごそりごそり、ぱりぱり、こりこり

    棒で穴の中を探っては引っこ抜く。やっぱりこのくらいの力加減のほうが好きかもしれない。さっきのは撫でられてるだけでこそばゆかったのだ。

    ごそ、ごそ、かりかり、ごそりごそり

    時折大きめの音が響く。

    ぱりぱり、がさがさ

    しばらくその周辺が掻かれる。長めに掻かれてると少しピリピリするが、ちょっとクセになる。また戻ってくるときに位置をずらしてかりかり、と動いた。

    かり、かり、くりくり

    目を瞑るのは恥ずかしいのでやらないが、少し瞼が重い。耳を棒で探られているだけなのに、この安心感と心地よさはなんなのだろう。


    いつの間にか棒は少しづつ深いところまで掻きはじめていた。この頃にはもうすでに緊張もなく、再び頭は膝に沈んでいた。

    ぱり、かしかし、ごそごそ

    掻く力が少し強く感じて顔をしかめると、痛かったですか?とささやかれ弱められた。

    ごそ、ごそ、ごり、ごり

    そうっと撫でるような動きに変わった。さっきなら物足りなくかんじていたのに、奥の方だとこのくらいでないと痛いらしい。耳ってのは変にデリケートだ。

    すーり、すーり

    くり、くり、くり

    すり

    棒があまり忙しく耳を出入りすることがなくなってきた。呼吸がゆっくりになる。ときどき意識すると賢者様の息遣いが聞こえる。

    かさ、かさ、こり、こり、…


    …この反対側についてる白いぽんぽん、ただの飾りではないそうですよ。

    これで残りカスをからめ取るそうです。考えられてますね。

    もそ、もそ、もぞぞ、もぞ、ぐり、ぐりぐり

    どうですか?くすぐったい?

    ぐぐ、くりり、くくく…ずぽっ

    どうれ…あれ、そこまでからめ取るわけじゃないんですね、まあそんなもんか。



    「さあ反対側を見せてください」
    少し意識が飛んでいた。いつも歩きっぱなしだから仕方がない。促されて寝返りを打つと、目の前に賢者様のズボンのボタンが目に入った。この人のズボンは前に4つボタンが付いているよく分からないデザインだ。指でちょいちょいといじっていると上から声がした。
    「んもー、やめてくださいな、エッチ」
    「ボタン多すぎじゃないですか?しかも真ん中じゃなくて左右に分かれちゃって」
    「セーラーパンツみたいなもんなんです。水のなかでも脱ぎやすいですよ。」
    「何のために」
    「そりゃ、溺れないようにですよ。じゃあまた外側から…そうだ、」
    そう言うや否や賢者様はボクの頭を太ももからどかし、ハンカチを持って部屋を出た。残されたボクは何かを考える気にもなれずそのまま横になっていた。
    ほどなくして扉がまた開いた。
    「反対側はまた趣向をかえてみようかなー、なんて思いまして」
    またさっきと同じように頭を膝に乗せる。今度は暖かく湿ったものが耳に触れてきた。
    「何なんですかそれ」
    「ハンカチを濡らして温めたんです。耳かきでちまちま取るよりは垢が取れそうだったので」
    穴付近のひらけたところをぐいいっ、と拭われる。そのまま上の方の溝までぐいぐいと進んだ。多少強引なかんじもするが、拭かれたあとはさっぱりする。
    「どうですか?痛かったら言ってくださいね。」
    「賢者様」
    「はい」
    「”あか”ってあの黄色い見るからに汚いやつのことですよね」
    「へ?え、ええ、まあ老廃物ですからね」
    「やっぱりあれも要らないものなんですか?」
    ハンカチであらかた拭い終えたようで、動きが止まった。それからさっきよりも何やら丸くなめらかな物でつままれた。たぶん指だ。いろんなところをつかんでは伸ばすように動いている。
    「うーん、とりあえず溜めておくものではないですね。まあ取らなくても勝手に取れていくんですよ。むしろ逆に無理にとってしまうのはあまり良くないみたいですよ。」
    適度な圧で伸ばされていく。ハンカチの温かさと相まってポカポカしてきた。
    「皮膚を守ってくれているものだからだそうです。あれらは古い皮膚で、すぐに剥がれずにその場にしばらく留まることで、内側からできてくる新しい皮膚を保護するんです。」
    溝、ひだ、耳たぶをぐにぐにと揉んでは、ぐにーっと引っ張る。
    すりすり、ぐい、くに、すり、すり、
    「下手に刺激してしまうと皮膚も弱りますし、垢も余分に分泌されてしまいます。」
    耳全体を覆うように手を被せられた。温かい手のひらだが、不思議とじわじわとした熱がしずめられていく気がした。
    「なので本来このように耳を掃除する必要はないんですよ。あ、体はちゃんと洗わないと臭くなりますよ!いやこっちも取りすぎは良くないんですけどね、でも広いし外気にも晒されてるし…」
    まあこんな生活してますから臭くなるのは仕方ないんですけどねー、砂漠にも火山にも川か湖があればいいのに、と独りごちてからこっちの耳も掃除していくようだ。いや耳かきか?
    「ふうーん…、こんな物でも、必要なんですね…」
    「そうですね、この世に最初っから必要ないものなんて存在しません。…んふふん、あなたを含めてね。」
    「うーわ、くっさ」
    穴の入り口をまた掻く。すりすり、ぱり、ぱりり。ふふっと笑われると何もかも見透かされているようで癪だ。仕返しに脇腹を…はやめて、尻をつねってやった。大きなあくびが1つ出た。



    それから意識を取り戻したのは、日が落ちてあとは真っ暗になるだけの薄暗い光の中だった。
    あの後しばらく耳かき棒にほじられていた気がするが、寝てしまったらしい。目の前には横になった賢者様がいた。ボクが目を覚ましたのに気づくと、やっぱり旅は疲れちゃいますよね。と笑った。
    そしてボクの隣から起き上がって何かの支度を始めた。たぶん風呂に行く準備だろう。ベッドともしばしの別れだ。
    そういえばブログ記事のネタ探しをしていたのだった。今回はさっきのことを脚色してやればいいかもしれない。しかし寝起きでぼんやりした頭で練る気分にはならなかった。ボクものそりと体を起こした。

    まあ、せっかくの宿屋だ。久しぶりの温かい風呂に入って夕食をすませてから、ゆっくり考えてみようかな。
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