『あと1枚のシール』
コンビニのレジ横で、懸賞キャンペーンの広告を見ながら降谷さんが何気なくつぶやいた。
「へえ……この水筒いいな。これ、軽くて便利そうだな」
それはただの独り言。
たぶん本人も、口に出したことすら忘れてる。
でも風見の中では、その言葉がずっと残っていた。
次の日から、お昼は菓子パンかコンビニ弁当。
飲み物は対象の麦茶。
シールを一枚ずつ、丁寧に台紙に貼っていく日々が始まった。
(あの人に水筒を渡せたら……ちょっと、嬉しいかな)
それだけで頑張れてしまうから、恋ってやつは恐ろしい。
「最近、僕のお弁当いらなくなったの?」
ある日、降谷さんがぽつりとそう言った。
風見は咄嗟に首を振る。
「い、いえ!そんなわけじゃ……最近ちょっと食欲が落ちてて……」
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