オールニットビキニまず、冷静に説明させてほしい。
この水着は、2025年の新作のオールニットビキニ。
青――深く澄んだ、夏の空のような青だ。
素材はしなやかなニット。編み目の柔らかさは、触れるまでもなく目でわかる。
トップスはバンドゥ型だが、中央がクロスしていて、ほどよい隙間が谷間を自然に演出する構造。
ワイヤーは入っていないが、しっかり下支えする太めのストラップと、背中のレースアップが身体にフィットさせてくれる。
機能性も、デザイン性も申し分ない。
水に濡れても張り付かず、乾きも早い。
そして何より、視線を惹きつけて離さない“色気”がある。
ここまでは、冷静だった。そうだ、冷静だ。風見が「これ可愛いです!」と目を輝かせて選んだときも、露出の多さに心配はあれど、試着室へ送り出せた。
「……着ました」
静かな声とともに、試着室のカーテンがゆっくりと開かれた。
降谷の目に飛び込んできたのは、
オールニット素材の青いビキニを着た風見だった。
中央のクロスが、ふっくらと自然に盛り上がった胸の谷間をゆるやかに囲い、まるで「ここを見よ」と言わんばかりに美しく枠取っていた。
背中はすっきりと、けれど艶やかに晒されていた。
レースアップの紐がわずかに食い込んでいて、その細さとやわらかさが……なんだこれは。やばい。
裸よりも着てる方がえろいとはこのことか…?
僕の視線は、意識とは関係なく胸、腹、太もも、背中、胸――と、何度も何度も周回していた。
「降谷さん?……何か、変でしたか?」
その声にようやく、現実の音が戻ってくる。
いや、違う。今、僕の脳内はもう一つの世界線へ旅立っている。
妄想暴走サマーフェスティバル、開催中だ。
(ここは都内の某大型プール。それぞれ着替えを済ませ、ロッカーに荷物を入れる)
(プールに行く前に日焼け止めを塗る必要があるな。一人では塗れない背中、自分で塗るとムラになるとでも言えば、風見は、きっと素直に背中を向けてくれる。二の腕、お腹、いや白い太ももも捨てがたい…。くすぐったそうにしても、逃がさないからな)
(流れるプールもいいな、密着度が増す。風見の甘い香りに日焼け止め特有の匂いが混ざってまさに、これぞ『夏』だ。腰に手を回して、そのままお尻を……触る。揉む。怒られる。でも気にしない。むしろ正解)
(もう一回、怒られたいからもう一回揉んでみる…あー…怒ってる怒ってる…大正解だな)
(ランチを買いに行ってる間にナンパされたりして、『彼氏と来てるの?』という質問に『上司と来てます』なーんで正直に答える風見も可愛いな…あれ?僕はまだ上司としてしか認定されてないのか…?)
(ナンパ男どもは僕が追い払うんだが、まぁ、仕方ないこんなに可愛い風見を一人にした僕が悪かった。反省しよう)
(買ってきたかき氷を食べてる。ブルーハワイ。唇の端にシロップがついて、舌でぺろっと舐める。冷たさがキーンと頭に響いて悶えてる…可愛いかよ…殺す気か)
(ウォータースライダーも君は好きだろうか?勢いよく滑り、ザバーッと着水する。水しぶきを上げながら立ち上がり、髪をかきあげたあと、ちょっと食い込んだビキニを“……っ”って言いながら直す。パチンって水着のフチを弾くように。もう一回やって?何百万回でも見たい、もう一回やって?)
(夜はシャワー浴びて、家でごろごろしながら、うつ伏せになった君の背中に日焼けジェルを塗る。肌が火照ってて、ジェルは少し冷たくて、そこを撫でる俺の手のひらが、少し熱を持って――)
そして、僕は気づいた。
プールでは、ビキニ越しに拝むだけだった、あのたわわな胸を。
家なら――揉める。堂々と。両手で。ゆっくりと。しかもきっと境目は焼けたせいで少し赤くなっていて――
ツッ、と鼻から熱いものが垂れた。
「降谷さん!? 鼻血……っ!」
風見の焦った声が僕を現実に引き戻す。
「…よし、これを買おう。でも、外では着るな」
「…えっ!? えっ!? なんでですか!?」
(無理だ。刺激が強すぎる……)
(おわり)