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    降風ワンドロ「花」。散文詩。
    咲いたのは花か、彼か──
    ある“夜”の出来事。

    夜に咲く夜の花は、静かに咲く。

    誰にも気づかれぬように、声も立てず、音もなく。
    湿った空気を吸い込み、眠るように、目覚めるように、ゆっくりと開いていく。

    熱にほだされ、香りをまとい、やわらかく脈を打つ。

    指先がそっと触れたとき、
    それはもう、咲く準備を終えていた。

    ふれる者は、たいてい惑わされる。
    目を離せず、香りに酔い、内へ内へと誘われて──気づいた時には、逃げられない。

    花は、ただそこにある。
    咲きたかったわけでも、誰かを誘ったつもりもない。

    けれど咲いたその瞬間、世界の重力は変わる。

    湿り気を帯びた空気が、肌をくすぐり、
    柔らかな弛緩が、咲いた奥へとひと筋、道を拓く。

    光を受けるでもなく、
    風に揺れ、香りを滲ませながら、
    花はゆっくりとひらいていく。

    ゆるやかな脈動、ほぐれる層。
    奥にたまる蜜の熱。

    それにふれた何かが、音もなく震える。
    ふるえるたび、より深く、香りを吸い込み、
    その奥へ、さらに奥へと潜っていく。

    花は逃げない。
    逃げる必要がない。

    香りが残るかぎり、ふれた者は戻れない。

    その夜──
    花は、咲いた。

    ゆっくりと、静かに、熱を抱いて。

    咲いたまま、
    そっと誰かを狂わせながら。
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