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    tohli

    フェムレオ沼の住人。
    隣のスティレオ沼もよく掘削してます。

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    tohli

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    バイク二人乗りのスティレオ

    #腐界戦線
    #スティレオ
    stereo

    もっといい日に 仕事上がり、もうだいぶ遅い時間だった。店を出る前にスマートフォンでチェックした生存率と自宅までの安全なルートを脳内でもう一度思い返す。まっすぐに帰る道は少しばかり危険度が高いので、迂回する羽目になりそうだ。レオナルドはバイクのハンドルを握ってため息を付いた。
     くたくたに疲れた体を、おんぼろのバイクが夜の街を運んでいく。今日も一日よく働いて、あとは家に帰ったらなにか夜食を腹に入れたあとに歯を磨いてベッドへダイブ⋯⋯したいけれど、そのまえに一応シャワーも浴びないとだめだろう。
    「冷蔵庫になにか残ってたかなー⋯⋯」
     赤信号で停まり、腹に入れるなにかについて思いを馳せる。朝食にしようと思っていたパンとハム、それからソニックのバナナくらいしかないかもしれない。
     コンビニによっていこうか、どうしようか。
     信号が青になるのを待ち見上げながら、レオナルドはむーんと口をとがらせて考えた。
     今日は疲れているが、その分チップもそれなりにもらえたのでちょっと買い食いするくらいはなんとかなるかもしれない。夜半のコンビニはよく強盗が来るから立ち寄るのが怖いだけだ。昼間でもたまに来るけれど。
     自分の胃袋と相談して、そしてコンビニに寄り道することに決めた。どうせ回り道をしているのだから、コンビニにちょっと寄り道するくらいそんなにロスでもないだろう。

     信号が青になる。ハンドルを握り、レオナルドは発進しようとした。だが、そのバイクが急に重くなりよろけそうになる。
     さてはまたザップか。そう思い振り返って文句を言おうとしたレオナルドの体に、後ろから灰色のスーツの腕が巻き付いた。
    「ほら、信号青だぞ」
    「すす、すちーぶんさん?」
     ほわっ? とレオナルドの目が丸くなる。その青くこぼれた光に、スティーブンのスーツが照らされる。顔は近すぎて見えないが、レオナルドがスティーブンの声を聞き間違えるはずもなかった。
    「レオ、とりあえず出して」
     後ろからクラクションが鳴らされた。スティーブンの声とその音に我に返ったレオナルドは、慌てて前に向き直りハンドルを握り直してバイクを走らせる。
     二人分の重みでさきほどよりのったりとした動きになったけれど、バイクは健気にも軽いエンジン音をふかせながら夜の街を行く。
     ハンドルを握り前を向くレオナルドの腹のあたり、ちらりと見下ろしたそこにはスティーブンの片腕が絡みつくようにしがみついていた。
     クラウスほどではないがほどよく筋肉のついたその腕に絡め取られて、逃げられるわけもない。逃げるつもりもなかった。
     ワンブロック走ったあとで、後ろのスティーブンが「どこに向かってるんだ?」と今更なことを聞いてきた。
    「コンビニっす。夜食がなんかほしいなって」
    「君のアパートの近くならこっちじゃないだろう」
    「生存率が低くてですね」
    「なるほど」
    「今日は概ねいい日だったんで、なにか美味しいものでもおなかにいれてやすらかに寝ようかなと思いまして」
    「概ね?」
    「チップも結構もらえましたしザップさんにもたかられずカツアゲにもあいませんでした」
     それに、と心のなかで付け足す。
    (一日の終わりにスティーブンさんにも会えましたし)

     しばし沈黙が降りる。バイクのエンジン音、夜でも多く出歩く人のざわめき、車のクラクション、たまに銃声。夜の静寂とは縁遠い街だ。
     また赤信号で停まる。
     少し静かになったエンジン音の合間をぬって、レオナルドは肩越しに振り返りスティーブンを見た。今度は顔が見えた。
     いつも通りの色男。ちょっとお疲れ顔。
    「⋯⋯スティーブンさんはお疲れですか?」
    「今日は概ね悪い日でね」
    「わるいひ」
    「事務所でザップがクラウスにつっかかった拍子に僕のパソコンが巻き込まれて入力していたデータと書き上げていた書類がパァ。腹いせに凍らせてる間に警部補との待ち合わせの時間に遅れてご機嫌取るために譲歩するハメになって。それから車は故障してレッカー。食べたかったメニューは目の前で売り切れ」
    「⋯⋯なんか呪いかけられました?」
    「お抱えの術師にみてもらったけどなにもないってさ」
     はぁぁ、と深い息をついたスティーブンが後ろからレオナルドの肩のあたりに顔を埋めるようにして押し付けてきた。
     香水か何かのいい匂いがして落ち着かない。レオナルドは少し顔を赤くして前に向き直った。ちょうど信号が青になったのでそのまま走り出す。
    「足がないからタクシーでも拾うか地下鉄に乗るかって考えてたところにちょうど君が通りがかった」
    「いつもの道なら通らないところでしたね」
    「生存率赤に感謝だな。お陰で」
     肩口で笑う気配がした。

    「一日の最後、君に会えて少しでもいい日になった」
    「運転手の肩口でそういうセリフをイケボでいうのやめていただけますか動揺するんで事故りますよぼかぁ」
     動揺のあまり息継ぎ無しで言えば、スティーブンはおさえた声で笑い続ける。体を震わせて、その振動は密着しているレオナルドにも伝わる。

    「次の交差点左折で」
    「目的地のコンビニ直進なんですけど」
    「でもあれ」
     ほら、と後ろから指さされた道路の先。目当てのコンビニがあるあたりで派手な銃声がしている。
    「⋯⋯」
    「さーせーつ、さーせーつ」
    「⋯⋯」
     レオナルドは無言で左折レーンにバイクを入れた。信号は青だったのでそのまま曲がっていく。

    「僕の家、右折だったんですけどー?」
    「いいじゃないか、うちによっていけよ。僕も食事取りそこねてるんだ。なにか食べさせてあげるからさ」
    「うー⋯⋯」
     以前聞いたスティーブンの自宅の場所は、ここから数ブロック。さほど距離があるわけではないが!レオナルドの自宅からは遠くなる。
    「こんな時間にスティーブンさんちに寄ったら、俺が帰る時間には道が真っ赤になっちゃうんですけど?」
    「泊まっていけよ。朝食もつけるからさ」

     耳元で、レオナルドが弱い声が囁いた。

    「今日の終わりをもっといい日にしてくれないか」


     翌朝。日もすっかり上がりきってから帰宅してきたレオナルドに、ソニックがぷんすこ怒ってバナナを二本要求しましたとさ。
     どっとはらい。
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