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    tohli

    フェムレオ沼の住人。
    隣のスティレオ沼もよく掘削してます。

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    tohli

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    レオナルド死神パラレル小ネタスティレオ

    #腐界戦線
    #スティレオ
    stereo

    死神のおよめさん スティーブンには、一人の死神が取り憑いている。それを他人に話したことはない。話したところで厨二病っぽい思い込みか戦闘のPTSDによる精神異常を疑われるだけだ。

     はじめてその死神に出会ったのはもうずいぶんと前になる。十代のころはじめて実戦に出るようになり、まだ片手で足りるほどの経験しか積んでいなかった頃だ。
     若さゆえのヘマをして、スティーブンは一人廃屋の片隅で死にかけていた。

     暗い廃屋の中、わずかに破れ窓の隙間から月明かりだけが零れる。その青い光の中に、いつのまにか黒いローブを纏った幼い子供がいた。
     眷属は倒したはずだ。グールか、それとも幸運な生存者か。
     スティーブンの体から流れた血は多く、床を濡らしている。グールならこれを媒体に大技の一つも出せば簡単に倒すことができるだろう。そしてついでに、スティーブンも死ぬ。

    (どっちだ……?)

     霞む目をこらし、揺れる黒いローブを見る。

     俯いていた子供はスティーブンの視線に顔を上げた。黒いフードの陰で、青が光る。その子供の双眸は硬質な光を放つ不可思議な青い義眼だった。
     青く、蒼く。月の光よりも冴え冴えと、見惚れるほどに美しい光を放つその目には文様が浮かんでいた。
     不思議な義眼を宿している子供は、十にもなっていないような幼子に見えた。こんな廃屋にいるような年には見えない。そして、ただの子供にも見えない。

     スティーブンが震える声で誰何する前に、子供は口を開いた。

    「おむかえに、きたんです」
    「……は?」

     お迎え。……お迎え?

    「……君、天使の羽はついてないみたい、だけど」
    「はい、ぼくてんしじゃなくてしにがみです」
    「しに、がみ」
     グリムリーパーにしてはずいぶんと可愛らしい。
     少年――本人の自称によれば死神は、ローブの内側からごそごそと小さなノートを取り出した。
     そのあたりで売っているメモ帳のようにもみえるそれをめくると、ええとー、と口を少しへの字にして考える。

    「す……すてーべ? すたー……」
    「……スティーブン。スティーブン・A・スターフェイズ」
    「それです。それ。ええと。すてぃーぶんさんはきょう、おなくなりになります。しい……しいん、は、えーと」
     死神の少年はてとてととローブを揺らして床に座り込むスティーブンの足元まで来ると、しゃがんでメモ帳を見せた。
     ローブの裾が血に浸っているが気にもしない。
    「これ、なんてよむんですか?」
    「……出血死、かな?」
    「しゅっ、けつ、し」
     少年はローブの中からペンを……気のせいでなければ小さな鎌の形をしたボールペンを取り出して、メモ帳に読み方を書き取った。

    「あの、しぼーばしょもかかないといけないんですけど、ここってどこだかわかります?」
    「ええと……ペンシルバニアの、」
     ふむふむ、と頷きながらメモを取る少年のほわほわとした茶色の髪がずれかけたフードの中から覗いている。

     これはもしかして、死ぬ間際の幻覚というものだろうか。
     スティーブンは朦朧とする思考の中でそんなことを考える。

    「ぼく、きょうがはじめてのおつか……おしごとなんです。いろいろわからなくって。すてぃーぶんさんみたいないいひとがはじめてのひとでよかったです!」
    「……そう? うん、よかったね」
     にこにこと笑う死神の無邪気な笑顔に、スティーブンはなんといっていいものか困る。

    (こうさぁ、死ぬ間際なら家族の幻覚とか、恋人……はいないけど、せめて親友の顔とか、そういうのを見るもんじゃないのか?)

    「スティーブン!」

    (ほら、今聞こえてきたクラウスの声みたいに)

     スティーブンの横にしゃがんでいた死神の少年は、顔色を青くして立ち上がった。
    「たいへん! つれてくのがおそくなりすぎて、たすけがきちゃった!」
    「……え? たすけ? あれ、ガチの本物のクラウス?」
    「スティーブンさんつれていかないとぼくおこられちゃうのに」
     ふぇぇ、と子供は涙目になる。
     義眼に溜まった涙が蒼く光色を揺らし、スティーブンは思わずそれに手を伸ばした。
     目もとからこぼれた涙を指先で拭うのと、スティーブンの親友がドアを蹴破り現れるのと、死神の少年が消えるのは同時だった。

     わずかに指先に触れた湿り気だけが残った。


     あれは、はじめて死に瀕したためにみた幻覚だったのだろうか。
     そう思って数年後、ふたたび死にかけたスティーブンの眼の前に前に見たより少しだけ背が伸びた死神の少年が現れた。
     お迎えに来ましたよ! と黒いフードの中でにこにこわらうその少年にスティーブンは腹に開いた大穴を押さえながら頭も抱えたくなった。頭を抱えたら腹からの出血で死にそうだったのでとりあえず耐えた。
     その時も、なんのかんのと死神の少年と話している間に助けが来て時間切れ。少年はしょんぼりとして姿を消した。

     その次は半年後。
     罠にはまって地中に埋められている時に気がついたらコンテナの中に彼はいた。
     今日の死因予定は酸欠です! とにこやかに言うのはやめてもらいたい。
     できるだけ呼吸を抑えながら聞き出した死神の少年は、レオナルドという名前だそうだ。
     死神一家に生まれ、早めの独り立ちをしておつか……おしごとをしているのだとか。
     一番最初のお迎え対象になるはずのスティーブンを連れて行けていないので、他の人間を担当できなくて困ると大きな青い目をうるうるさせて見上げてくるがそう言われてもスティーブンも困る。
     その日も結局、少年……レオナルドと話している間にクラウスが力技でコンテナを破壊してくれた。


     HLに来てからはもう少し逢う頻度が増えた。もちろん、そのたびにスティーブンは生き延びている。

    「スティーブンさんいつまで立っても死んでくれない」
     ぶぅ、と頬を膨らませたレオナルドがいまごろごろしているのはスティーブンの自宅のソファだ。
     あまりに何度も死にそうになるのでそのたびに飛んでいくのが面倒だと、半年ほど前からレオナルドはスティーブンの自宅に住み着いていた。
     レオナルドも成長して、最近では人間に化けるような小手先の技も身に着けた。
     この調子なら、その義眼――神々の義眼というとんでもなく便利なアイテム――を有効活用するためにライブラにいれることもできるようになることだろう。

     レオナルドがいる限り、他の死神がスティーブンの担当になることはない。

    「君さ、ずっと僕のそばにいなよ」
    「もちろん! スティーブンさんが死ぬまで一緒にいますよ!」
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