反省はしてない 秘密結社の構成員というのはとかく多忙なものだった。
二人で休みを合わせゆっくりとした時間を過ごそうとしても、事件の方はそんなことを考慮してくれはしない。
ソファの上でレオナルドの肩を抱き寄せたタイミングで呼び出しの電話がかかってきたことは幾度も。
それならばとソファに行かずに食後にすぐにベッドルームに引っ張り込もうとすれば、キスをしながら寝室のドアをくぐったタイミングで外から爆発音が響いてくる。
一瞬の静止のあと、気にしないことにして続行しようとしたスティーブンの背中をレオナルドが必死で叩き、そして案の定すぐに呼び出しの着信音が鳴る。
ありったけの罵詈雑言と呪いを撒き散らしながら現場に向かった。
ならば、と次の日には食事の時間すらすっとばして玄関でそのまま事に及ぼうとした。お腹をすかしたレオナルドに本気で泣かれた。宥めすかして終わった後に食事にしよう? と提案してみたがきゅるきゅると切なげな音を立てるレオナルドの揉みがいのある腹の説得に負けた。
その日は食事が終わる前にスティーブンだけ呼び出しがかかった。半泣きになりながらレオナルドを自宅に残し仕事に向かい、帰ってきた時にはもう深夜でレオナルドはすやすやと夢の中だった。
明日はバイトだから先に寝てますね、とはいっていたが本当に寝てしまうとは。
スティーブンの枕を抱えて、少年はすぅすぅと可愛らしい寝息を立てている。アッパーシーツは蹴飛ばされて床に落ち、寝相が悪くめくれたパジャマからは白い腹が覗いている。
スポンサー絡みの面倒なトラブルをサイソクデ片付けて帰ってきたスティーブンは、ベッドの横で崩れ落ち膝をつく。
もう何日、何週間レオナルドといちゃついていないのだろう。
いつもいつもいつもいつも、スティーブンの下心を察知したかのように絶妙なタイミングで邪魔が入る。
もういっそ事務所の書庫あたりで押し倒してやろうか。それなら邪魔が入る余地も。いや。
顔を上げる。
すぷー、すぷー、とのんきな寝息を立てる恋人が目に入る。
時計を見る。時刻は深夜一時。……いける、まだイケる。
スティーブンはゆらりと立ち上がると、枕元に放置されていたレオナルドの端末を手に取り自然な動きでロックを解除してアラームをオフにした。
そして自分の分とレオナルドの二台の端末を一緒にまとめてナイトテーブルの上に放り出し、スーツを脱いで床に落とす。
ベッドに乗り上げ、タイを緩め、シャツのボタンを外しながらレオナルドの上に覆いかぶさる。
少年が抱えて寝ていた枕を腕の中から抜き取り、スーツの後を追わせて床に放る。
むぅ、と眉間にしわを寄せて寝グズのような声を漏らすレオナルドの頬に手を当て、その柔らかさを堪能しながら笑みを溢す。
「――いただきます」
翌朝、レオナルドは寝坊してバイトに遅刻し、とてもすっきりとした顔のスティーブンに「スティーブンさんのばか! きらい!」と枕を叩きつけていた。
ごめんごめんと謝りながら、スティーブンは全く反省はしていなかった。
後日。
事務所の書庫でレオナルドを書架に押し付けてよからぬことをしようとしたその現場をK・Kに見つけられ、あやうく反対側の頬にも傷が増えそうになった。